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1、もしもし私

「ふむ、よし」


 どこにでもあるコンビニの中。休憩スペースでスマホを弄っている青年がいた。緑と青が混じったような色合いに白い縦線がいくつか入っているその服には"ファミリーイレブン"という今いるコンビニの店名の文字が入っており、その青年が熱狂的なこのコンビニのファンでもない限りは着ているのは制服で、店員なのであろうことがわかる。


「あと少し」


 独り言をブツブツと呟きながらとある落ち物パズルのソシャゲをやっている彼の元に、不幸が訪れた。


"リリリリリリ"

「ん。店に電話? こんな時間に? ……ああ」


 ふと時計を見る。現在の時刻はちょうど夜の2時。さきほど休憩に入ったばかりであと50分ほど休憩時間があるのだが、そんな時間に狙ったかのように『早く出ろ!』とでも言ってるような、わざとらしく鳴り響く電話の音。少し待てば相手が諦めてくれるんじゃないかなとスマホでプレイしているゲームを止めながら少し離れた位置に設置してある電話をじーっと見つめるが止む気配はなく。


『ごめんソウくーん。今手ぇ離せないから出てー』

「……はあ。はい」


 どこかで作業しているのであろう店長の声に反応したソウと呼ばれた青年は、渋々と、嫌がりながら仕方なく立ち上がる。正直休憩時間だから休憩させてもらいたいのだけど、まあ仕方ないか。と諦めつつ受話器を手に取った。


「お待たせいたしました。こちらファミリーイレブン千[もしもし、私メリーさん。今駅の前にいるの]……いやメリ"ガチャン、ツー、ツー"……」


 聞き覚えのある定型文とも言えるフレーズが発せられると共に一方的に切られた通話。そのことに多少イラッとしながら受話器を静かに定位置へ置き直す。さあ、さっきのことは忘れてゲームの続きをするかと振り向いた瞬間であった。

 再び鳴り響く、電話。


「……はぁ」


 諦め、回転するように振り向き直って受話器を毟るように手に取り耳元へ運ぶ。


「もしも[もしもし、私メリーさん。今あなたの家の前にいるの]いや、今は夜勤のバイトでコンビニにいるので"ガチャン、ツー、ツー"……」


 受話器を置き、今度は動くことなく電話の前で待っていると、三度かかってくる電話。


「……[もしもし、私メリーさん。今あなたの部屋の中にいるの]いや、そこには今いませんよ[あ。ポテチにコーラ]おい待てそれ買い置き"ガチャン、ツー、ツー"……」


 勢いよく叩きつけるように受話器を置く。講義するようにリン、と電話が悲鳴をあげるが、そのことに気を向けることはない。予想が正しければまだ電話がかかってくるはずだが、知ったことではないと元いた場所に座りスマホの止まっていた時間を再開させた。


 さきほどまでは短い間隔でコンスタントにかかってきた電話が今はおとなしく、やっていたゲームも一区切りしたころ。

 また、鳴り止まない電話の呼び声。

 無視しようにもできないバイトの性に悲しみながらノロノロと近寄り手に取る。


[私"パリパリ"メリーさん"んくんく"んふー。今あなたの家とコンビニ"パリパリパリパリ"んん、の間くらいに]

「喋るか飲み食いするかどっちかにしてください」

[……"パリパリパリパリ"んん"んく"……ぷはー]

「いや喋りなさい」


 しばらくの間、咀嚼音となにかを飲む音だけが耳を打つと、ガチャン、と雑に切られた。そのことにイライラしつつ、今度はまた電話の前から動くことなく待つ。

 数分後、望んでいた電話が。


「……[もしも]"ガチャン"……よし」


 速攻だった。相手にまともに喋ることを許すことなく電話を切ると、満足そうな顔をし今度こそ休憩だぞと思い休憩スペースにある椅子に座った、その時だった。


「よし、じゃ、なーいの!」


 背中に軽い衝撃が走る。ちらりと目線だけを向けると、そこには身長30cmほどという、身長と言うよりも大きさと表現したほうが正しいようなヒトガタが空中に浮きながらくっついていた。見た目は全身黒で統一されたゴスロリ風の服を着た、ロングの金髪で整った顔つきの美少女であるが、その恵まれた造形の頬を大きく膨らませ私怒ってますと言わんばかりの顔をしており台無しである。

 フヨフヨと空中を漂うように移動し、目の前にあるテーブルに着地をすると仁王立ちになってこちらを睨みつける。感情の伺えないガラス玉のような目と数秒見つめ合い、


 しかし見なかったことにしてスマホに視線を戻した。


「無視ー?!」


 両手を上げ大げさにショックを受けたポーズをされてもなんのその。反応を返さずスマホを弄り続けるその姿に地団駄を踏むが、足がテーブルに当たる音は軽いもの。それでは少しも相手の気を散らし自分に向けることはできないことに気づいたのか口を開け、頭に響くような甲高い声で話し始めた。


「まったくもー! 決め台詞言う前に電話切っちゃうしー、男としてしりょーにかけるってやつだとメリーさん思うのー!」

「……あれは決め台詞なのですか?」


 彼女の言う決め台詞とはたぶん[もしもし、私メリーさん。今あなたの後ろにいるの]という、怪談話しの中でも有名な部類である一文だろう。決め台詞と言っていいのかはさておき。

 その言葉にフフンと鼻を鳴らしながら人差し指を立て説明を始める。


「もちろんなの。メリーさんと言えばあの一連の流れ。よーしきび。ちゃんと最後まで聞くのがマナーだと思うの」

「ふーん……」

「ものすごい興味なさそうなの?!」


 ガーン、なの、とわざわざ口から出してショックを受けているアピールをしても反応することのないそいつに向かって大声で喚く少女、メリーさんとは対象的にソウは静かでスマホから目線を外さない。

 いい加減、無視、はされてるわけではないけどされているような状況に涙目になりながら腕を叩いても袖を引っ張っても顔が向けられることはなかった。

 そろそろ目に涙が溜まりきり感情を抑えるモノが決壊しそうな頃、1人の救世主が現れる。


「ごめんソウくん、点検機どこに置いたか忘れちゃって、あ。メリーちゃんいらっしゃい」

「うわーん、おじーちゃん!」


 ひょっこりと店内に繋がる扉から顔を覗かせた男性。見た目20代ほどに見える優しげな、微かに微笑んだ表情を浮かべるその人物に飛び込むように抱きついた。


「こらこら。今の姿はおじいちゃんじゃないでしょ」

「じゃあなんて呼べばいいのー?」

「んー、普通に店長あたりでいいんじゃないかな?」

「じゃあてんちょー! ソウがいじめてくるのー!」


 その言葉を聞き、困った顔をしながらソウを見る。が、とうの本人は知らんぷり。視界の端には捉えてるであろうその店長の方に向くことはなく、いや視線だけチラチラと向けているが、それでも忙しなく指を止めることのない青年に声をかける。


「ソウくんソウくん」

「店長、何か用ですか?」

「なんかメリーちゃんが「ソウがいじめるの!」……って言っているのだけど」

「それは気の所為です」

「そっかあ」

「てんちょー?! 騙されちゃ駄目なのー!」


 のほほんとした顔と共に納得したように頷く店長にメリーさんは抱きついてる体を揺さぶる。しかしこのマイペースなこの人は動じることなく、メリーさんの腋に手を入れ持ち上げるとテーブルの上に置き、軽く頭を撫でるとソウに話しかける。


「仲良くやってるようでなにより。あ、ソウくん点検機どこにあるかわからない?」

「それなら、そこ、カゴの中に置きっぱなしですよ」

「おお、こんなところに。ありがとね」


 と、短い会話を交わし店内へと戻っていく。振り返ることなく無慈悲に去っていく後ろ姿に、まるでヒーローと別れることになった悲劇のヒロインのように手を伸ばすが、無駄。彼はヒーローではなく店長なのだ。


「ううう、メリーさんに味方はいないの……?」

「そうですね」

「ひどいのー!」


 うわあああああ顔を手で覆いと泣き出すメリーさん。しかし目から涙が流れることはなく、指の間からソウの反応を伺う。

 そのことを知ってか知らずか、大きくため息を吐いた彼が動き出し、メリーさんにスッと手のひらを向けた。


「……なんなの? 今更謝られただけで泣き止むほどメリーさんはやすいおんなじゃないの。ま、まあ? どうしてもって言うなら撫でてくれれば許してあげないことも「300円」……ふえ?」


 突然の言葉に泣くふりも忘れてソウの顔を見る。そこには無表情な男が少女を見下ろしていた 


「ポテチとコーラ」

「……あ」


 その言葉に察しがついたようだ。つまりこの男はこう言っている。

 お前、俺のポテチとコーラ盗っただろ? 金払え。と。


「……」

「……」

「い、今はそういう雰囲気じゃな「300円」ふぐぅ」


 話を逸らそうにもソウはその誘導に応じるつもりはないようで、変わらぬ語調でメリーさんを追い詰める。目を逸らしてもその差し出された手が引っ込むことはない。


「あー、うー……」

「……」

「……そうだ! そもそもメリーさん、ソウのポテチとコーラに手を出してなんかないの!」

「ほう、本当に?」

「……う、うん!」


 明らかにわかりやすく苦しい言い訳に目を細める。それに対し目を合わせないようにそっぽを向いている少女の額に一筋の汗が流れた。


「……」

「……ひゅ、ひゅーひゅー」

「……はぁ」


 更に見つめると今度は吹けもしない口笛を吹き始める。いまどきこんな古典的な誤魔化し方をするやつがいるのかと関心してしまうほどわかりやすい反応に、毒気を抜かれ人形少女の頭に手を置く。


 そして髪の毛がぐしゃぐしゃになるように思いっきり撫でた。


「なっ、ちょっ、ふーざーけーるーなー!」

「これで許してあげますよ」

「あうう……乙女の髪の毛を優しく扱わない男なんてさいてーなのぉ……」

「そうですか。これに懲りたらもう勝手に人の物を盗んだり食べたりしてはいけませんよ」

「メリーさんはー、人じゃないのでー、人の物を盗ってもなんも問題ないの」

「……お仕置きが足りないようですね?」

「ちょっ、冗談なのー! だから撫でるなら優しく、優しく愛情を込めて撫でるのー!」


 頭の上に置かれようとする手に先程のことを思い出してか小さな両手で押し返そうと抵抗するも虚しく、圧倒的な質量差、力量差によって鷲掴むように頭を握られる。


「え、待って、もはや撫でるとかそういう次元の話しじゃないくらいがっちり頭を捕んでなにす」

「ふんっ」

「あいたたたたた! 握りつぶされるー!」


 そんなこんながあって数分後。

 そこにはあられもない姿で横たわるメリーさんの姿が。


「わかりましたか?」

「はひー、はひー、うう……頭痛が痛いの」

「それは大変に大変ですね」

「この、おにー、きちくー、はげー」

「ハゲではありません。これはスキンヘッドという髪型です」

「はっ。髪の毛ないのに髪型とか笑わせるななのー」


 力の無い罵倒は心に響かないようで、動かないお人形の乱れた髪を片手間に直しながらもう片方の手でスマホゲーを進める彼の指に乱れはなく、また一つのステージをクリアしたファンファーレが静かに鳴った。


「普通にお願いしてくれればお菓子程度分けてあげますよ。だから勝手にはやめなさい。わかりましたか?」

「ううう、わかったのー」


 そうこうしているうちに静かだったスマートフォンが警告音のような音を鳴らし主張し始める。現在の時刻は2時50分。


「休憩終わり、ですね。それでは仕事なので」

「あう、メリーさんも付いていくの。頭の上に乗せて?」

「……はぁ。仕方ありませんね。一般人の人には見えないようにしてくださいよ」


 彼はいつも道理のサイクルへ戻っていく。


「休憩、終わりました」

「あ、ソウくん。じゃあ休憩入るね」

「てんちょー! 休憩いってらっしゃい!」

「うん。メリーちゃんも、ソウくんと一緒にいてあげてね?」

「任せるのー!」

オリジナルで王道系ファンタジーとデスゲーム化しないVRものを書いているのですが設定が積み上がるのみで上手くいかず、ぱっと思い浮かんでなんとなく書いたらできたのがこちらになります。


これからもネタが尽きるまでは不定期に更新するかもしれません。更新したら読んでもらえると嬉しいです。

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