転生
「俺は死んだのか…………」
目を開けると何も無い真っ白な空間にふんわりとただ浮いていた。
何処からともなく光が照らし、全身が暖かく包まれ、とても穏やかな気持ちで溢れていた。
「俺はこれで良かったのだろうか……」
一人修行に明け暮れ、世界で一番を勝ち取り、弟子を取り、妻に看取られながら死んでいった。
『他者から見れば、立派な生き様だったじゃろうがワシはまだまだじゃと思うぞ』
いきなり、何処からともなく老人の声が耳に入ってきた。
「誰だ?」
『ワシはは武を司る神、おぬしの人生を観ておっての黄泉に行く前にちょいと声を掛けたくての、話しかけさせてもらったのじゃ』
「俺の人生をか?それはご大層なことだな。」
『ワシらは長年での、おぬしの人生など一刻も無いくらいの間じゃ』
「それで?武の神が俺に何の用だ?」
『おぬしを見てたら面白くてのぅ、それに、お主も気づいておろう?まだ何か足りないものが己にあると』
「…………………………」
『図星じゃな……だからおぬしに一つ提案をしよう』
「なんだ?」
『強くなりたいか?』
「なりたい」
俺は即答した。
俺より強い者と闘い、強くなる。それが俺が求めて世界を飛び回った理由でもあり、目標だった。
『なりたいのならば、おぬしに二度目の人生をやろう』
「2度目の人生をか?」
『左様、だが同じ世界に生まれるわけでは無い』
「どういう事だ?」
『元の世界ではおぬしより強いものは居なくなった、だからもっと強い者達が大勢ある世界に生まれるのじゃ』
「なるほど、それならやり甲斐があるな」
『おぬしの国で言う…剣と魔法?の世界に行ってもらう』
剣と魔法の世界か……小学生の頃のダチがそんな話やゲームをしてやらせてきたのを覚えてるな。確かド○クエだったか?
家ではゲームをせず、する暇があったら修行に明け暮れていたから少ししか分からん。
『向こうの世界に生まれると言っても赤ん坊のままじゃ、産まれても戦えんからのぅ、肉体は若い頃の絶頂期の状態にしてやろうかのぅ』
「それは嬉しいな」
向こうに産まれて早々、赤ん坊のまま、ケモノに食われて死ぬのは御免葬る。
『ついでに、向こうにいって言語が分からんとなにかと不便じゃからのぅ、向こうの全ての言語が喋れるようにしとったぞ』
「助かる」
『おぬしからは何か要望はないのか?』
「無い」
『なんでも良いんじゃぞ、無限の力や知恵、武器を巧みに使える才能などあるが?』
「力とは己で手に入れなければ意味がない、それに武器などは必要では無い、私の武器は己の拳ただ一つだ」
俺は何処にいるかもわからない神に拳を真っ直ぐに突き出した。
『そうか……それじゃ後は…ここをこうて…ああして、ついでにこうしとけばよいじゃろう……』
見えない神が何かしているようだが……
「何か無理矢理つけようとはして無いか?」
『大丈夫じゃ、向こうで困らんよう少し細工をしただけじゃ、……よし、出来たぞ!』
不安だが害がなければそれで良い。
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『それでは、伊達 勇次郎』
畏まった物言いで神は静かに俺に問いかけた。
『汝は何の為に異界へと渡る?』
その問いに一つの心の揺れもなく
「それは」
俺は言い放った。
「俺より強い奴に会いに行く為だ」