悪役令嬢の記憶
とりあえず、シューラニオスから言質は取った。
(これであと必要なものは私の覚悟だけね。)
キース様と私は婚約者同士という間柄だったが、キース様はマリン嬢の恋人になりたいと、そしていずれは、自らの伴侶として隣に立ってもらいたいと、私との婚約を破棄した。
私の悪事を理由に、なんてことは有り得ないけど。
そう、婚約破棄の理由は、国としての権力の傾きを防ぐ事が大部を占めていた。
あのゲームのような失態は犯さない。
そのために彼への想いを適度に抑え、出来る限り完璧であろうとした。
しかし、その結果、あまりに優秀すぎるキース様と、完璧主義の叩き上げのスペックを持った私とでは、国の中枢を担う人材やまた、国への影響力が集中していまうことが懸念された。
そして、婚約破棄が成立してしまった。
元々、キース様が私を避けているようなきらいも、なくはなかった。
まぁ、前世の記憶もあって、ショックはある程度軽減された。
(わたしがクッションにならなかったら私はかなり危ない状態だったろうけれど。)
少なくとも、ゲームの中での私の有様は見るに耐えなかった。
淑女としてあるまじき愚行の数々。
マリン嬢に敵対する者でも眉を顰めずにはいられない、暴言の雨。
更には殺生沙汰にまで及ぶ、彼女への嫌がらせ。
それだけ私はキース様を愛していたのだけれど、
(愛を盾に人を殺すことが出来るほど、この世は甘くない。)
私の愛は、受け入れられなかった。
私の愛は、報われなかった。
私の愛は、許されない罪となった。
(私の、想いは、届かなかった───。)
だから、封じた。
溢れ出さんほどの愛を。
愛する人を愛せないことが、こんなにも苦しいだなんて、思いもしなかった。
だけど、彼と傷つけ合うよりはいいと思った。
愛する人が自分のせいで苦しむ姿なんて、誰だって見たくないだろう。
もしそんな人がいたとしたら、正真正銘その人はサディストだ。
ともあれ、私は記憶と、わたしと出会ってから、キース様への接し方を変えた。
避けるのは違うと思った。
狭い貴族の世界の中、同じ立場の、まして婚約者という関係の人を避けられるとは思わなかったし、彼に会えないのは何より私が辛かった。
だから、なるべく近くに、それでも、異性を意識させぬように。
その努力の賜物か、彼は私に心を開いてくれたように思う。
少なくとも、愛称で呼び合うほどには。
だけど、その努力も、絆も、性別の壁は越えられなかった。
いや、元々越えようが無かったのだ。
年頃になると、貴族は、男女、というしがらみに囚われる。
(私たちは婚約者でしたのに。)
冷やかされることを恐れてか、彼は私から離れて行ってしまった。




