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男爵令嬢の憂い
マリン視点です。短め。
「あの、キース様……」
「なんだい、マリン嬢」
ほら、この人は違う。
私の知っているキース様では無い。
この人はこんな風に笑わない。
こんな、造ったように笑わない。
私の知っているこの人は、私に対してこんな顔をしない。
キース様、と呼ぶ度、一瞬目を期待させるように見開き、その後寂しそうに笑ったりなんて……。
それでも、私はこの人に甘えている。この人の優しさに、つけ込んで、この人の隣にいる。
(私は、ずるいなぁ)
「ここの問題がわからなくて……」
「あぁ、この問題は捻ってあるからね、少し難しいだろう。この式をここに代用して解くんだ。」
「なるほど、そうするんですね!流石です!ありがとうございます!」
この人の中に、誰かがいるのは知っている。
さり気ない素振りや、ふとした瞬間に見せる表情は私に向けられたものでは無いと、一番近くで見ていてわかった。
「どういたしまして」
ふわり、と慈愛に満ちた表情だって私の方を向いてはいるけど、私に向けたものでは無い。
(この人は、誰を見ているのだろう。)
ふ、と彼女が頭の奥でちらついた、気がした。
お気づきの人もいるかと思いますが、マリンは転生者です。




