悪役令嬢の悲しみ
学校が終わり、寮に帰った私の部屋に訪ね人があった。
「来ると思っていたの。どうぞ。」
「……お邪魔します。」
「本当はこの時間は男子禁制なのですけどね。」
すると、余計な話はいらないとばかりに、彼は私を一瞥した。
「それで、こんな時間に人目を忍んで、なんの御用でしょうか。リチャード公爵子息。」
「なんの真似ですか?」
「なんの話でしょう」
敢えてはぐらかす。
本当はわかっている。昼間のこと。シューラニオスのこと。
彼はその全てを、私の思惑を知ろうとしている。
いや、もしかしたら、既に知っていて、私の口から確認しようとしているのかもしれない。
(だけど、私からは言ってなんてあげない。)
わざわざ答え合わせをしてあげるほど、優しくなんてない。
私が口を割らないと悟ったのか、彼の方から口を開いた。
「昼間のことです。」
「昼間の、何のことでしょうか。」
彼は、自分に言わせるのか、という顔をした。
だが、私は応じない。ただただ疑問を全面に押し出す。
「シューラニオスと、何をしていたのです?」
「シューラニオス様?お話していただけですが。」
やはり、という気持ちを悟られないよう、知らないふりを貫く。
「では何故、あの場所で?」
昼間、私たちがいた場所は中庭だ。
中庭は学校の中で、よく男女が二人きりで話すのに使われる。
(それをわかっていて、あの場所にシューラニオスを呼び出したのだけれど。)
「そうですね、彼と少し、取り引きをしていたので、誰にも介入されたくなかったのです。」
間違ってはいない。
「何の取り引きです?」
「貴方に言わねばならない義務は、もうないですわ。」
そう言うと、彼は悔しそうな顔をした。
(何故、そのような顔をするのです、貴方が望んだ、結末のくせに。)
ずるい。彼ばかりが傷ついているように振る舞うなんて。
(私の手を、払い落としたのは貴方のくせに。)
「貴方こそ、中庭で、マリン嬢と何をするつもりでしたの?」
「彼女は、編入したばかりでしたので、校内を案内していただけです。」
貴女のようにやましいことは何も、としらっと言い切る。
(マリン嬢が可哀想ですわね。)
まるで、仕方ないと言っているよう。
ですが、貴方のそれは違うのでしょう。
照れ隠し、という言葉が頭をよぎる。
「学級長も、大変ですわね。」
マリン嬢も。
全く、同情してしまう。
どれだけ好きだと示しても、返ってくるのは素っ気ない態度ばかり。こちらが燃え上がれば上がるほど、あちらは冷めていく。
(不毛だわ。)
でも、マリン嬢の様子からして、そんな風には微塵も思わなかった。
もしかしたら、二人はそんな関係ではないのかもしれない。
いや
(楽観的に考えるのは止めた筈でしょう?そうして痛い目にあったのを、もう忘れたの?)
彼は変わったのか。
彼女が変えたのか。
(私にはできなかった。)
彼女が……。
「イリヴァマリー嬢?」
懐かしいあの響きを、もう彼はくれないだろう。
「イリーと、もう、呼んではくださらないのですね。」
小さく、小さく、聞こえないように呟く。
彼が小さく目を見開いた、気がした。
「さあ、もう遅いですわ。巡回の方が来てしまいます。おやすみなさい、リチャード公爵子息。」
「……そう、ですね。おやすみなさい。」
キース様が扉を閉めたあと、私はしなだれ掛かるようにベットに凭れる。
どっと疲れが襲ってきた。
(予習も、復習も、してませんけど、今日くらいは、いいですよね……)
私はそのままベットへ潜って眠りについた。
次はキース視点です。短め。




