杖と3人
_(;3 _/∠)ゞ
リーゼに引き摺られて入った地下倉庫は相変わらずごちゃごちゃアイテムや素材で散乱していた。
「一旦整理するか」
倉庫の壁に備え付けられているパネルに向かい操作する。とりあえず名前順にソートっと。
「カナタ様は何をお探しで?」
「ん?再生誕の杖だよ」
「再生誕の杖…と言うことはリザレクション…ですか?」
「正解。さっき試しにナイフで自分の手を突いたら貫通してなあ。見たこともない量の血が溢れ出たんだ。そこまでしてようやくこの世界が現実だって俺は気付いてさ。今思えば他にもやりようはあったはずなのにな」
はははと苦笑しながらリーゼに話す。
リーゼに握られている俺の手が一層強く握られる感覚が走る。思わずリーゼの顔を見ると真剣な眼差しで俺を見据え、ニヤけた表情は跡形もなく無くなっていた。
「カナタ様が状況的に混乱していたのは分かります。しかし二度とご自身を傷つけるような真似はおやめ下さい。私には…私のご主人様はカナタ様だけなのです」
そう言って悲しそうな表情になるリーゼ。俺から視線を逸らさず、その目はこちらに懇願するかのように見ている。
「あ、あぁ。うん。ごめん。俺も痛いのは嫌だから今後そんな事はしないよ。再生誕の杖も保険用だから。何が起こるか分からないしな」
ぱっと俺の腕を解きリーゼはこちらへ向き直る。
「お、おい。どうしたんだ?」
見惚れるような動作でその場に跪くリーゼ。頭は下げることなく俺から視線を離さない。
「………カナタ様の安全を確保すればいいのですね?ではカナタ様の配下、シスターズの三女として、このリーゼが身命を賭してもカナタ様の身の安全を確保することをお約束いたします」
「リーゼ…」
どうやら俺の考えが甘かったようだ。今ここにきてようやくリーゼの設定を思い出す。
"カナタへの狂信的な忠誠心と愛"それが彼女の設定を書いた一行目だったことを。
そしてその後に続けて書いた設定を思い出し青ざめる。
「リーゼ、立つんだ。もちろん身の安全は優先するが、それは俺だけではなくパートナー全員だ。そしてお前たちの主である俺にはそれを確保する義務がある。お前は無理をせずにそれに協力してくれるだけでいいんだ。命を懸けるなんて言うな。大切で頼りになるお前を失いたくない」
リーゼの肩を抱き立ち上がらせる。近くで見えたリーゼの白い肌は何故か紅潮し、真剣だった目線は熱の籠った視線に変わっていた。
「あぁ…カナタ様…今、リーゼは幸せでございます…」
「そ、そうか。だが分かったな?絶対に無理はするなよ?絶対だぞ?」
「はい、仰せのままに♪」
本当に分かってくれたのか分からないが、これ以上はどうすることもできない。俺は地下倉庫に来た目的を果たすため杖探しを始める。
「っとあったあった。ちょっと手間取ったな。地下倉庫のアイテムはリスト化して手元に保存して置こう。今後は確実に使用頻度は増えそうだしな」
地下倉庫に備え付けられているパネルからソート機能を利用し、目的の杖はすぐに見つかった。これからは俺以外にも地下倉庫は出入りがありそうだからな。いつまでもものぐさのままではいられない。
「んふふふふ…畏まりましたぁ」
目的のものは手に入れた。
そして先ほどまでのシリアスな雰囲気のリーゼはどこに行ったのか。やたら上機嫌なまま嬉しそうに俺の腕と自身の腕を絡めているリーゼを今度は俺が引き摺るようにして倉庫を出る。
フロントへ続く階段を登りきると、リーゼに物理的に絡まれている腕を解き、リーゼに向き直る。
「まずは再生誕の杖を使って俺とリーゼにリザレクションをかける。効果は知っているとは思うが、これは一日に1回までしか使えない。そしてあくまで保険だ、何よりお前が死ぬところなんて見たくもない。何かあれば状況次第では即時その場から撤退を優先するんだぞ?」
「…仰せのままに」
リーゼは跪き頭を垂れる。俺はリーゼに向かって魔力を込めた再生誕の杖を振るう。すると白く眩い光がリーゼを包み込み、消えて行く。
あっさりとしたものだがこんなものだ。
「よし。次は俺だ」
また魔力を込めて自分に振るう。リーゼの時と同じようにして白く眩い光が俺を包む。一瞬暖かい感覚が身体中に流れ、すぐにいつも通りに戻って行く。
念のためステータス画面からリザレクションが掛かっていることを確認する。
カナタ 人間 ♂
LV250 (累計 6500)
HP 85800/85800(+7800)
MP 127600/127600(+11600)
ATK 5060(+460)
INT 6160(+560)
DEX 7370(+670)
AGI 8250(+750)
DEF 4620(+420)
LUK 583(+53)
オート:リザレクション(1日)
そこにはゲーム内同様、バフ名と副次効果である各ステータス10%能力上昇によって変化した自分のステータスが確認できた。
「よし。取り敢えず最優先事項はこれで終わりだ。そう言えばリーゼ、ステータスとスキルに異常は無かったか?あぁ、もう立ってもいいぞ」
「はい。何処にも異常は見当たりませんでした。万全の状態で能力を振るえるでしょう」
「それは良かった。これから新たに3人を召喚する。あいつらにもオートリザレクションを与えた後、リーゼたちには周辺の調査に付き合ってもらうつもりだ」
「周辺調査ですね。畏まりました。えっと…誰を召喚するのですか?」
「ん?気になるのか?心眼持ちのルピナと森の中の索敵ならパニエ、護衛にラザエラだな」
今から召喚しようと思っていた3人の名を明かすと、聞いたリーゼはあからさまにほっとした顔をしている。
「その3人ならば大丈夫でしょう。では私は準備しておきますので少々席を外させていただきたいのですが…」
「ん?あ、そうか?うん。いいぞ、準備は大切だもんな」
「はい!ではお先に外で準備してお待ちしております」
「あぁ、頼んだぞ?」
はて、準備とは何だろう。そう思いながらパートナーNPCの召喚画面を呼び出す。
今から召喚するパートナーは3人。名をルピナ、パニエ、ラザエラと言う。例に漏れず、俺の欲望が詰まった容姿や性格をしている。
そして何よりも、俺の召喚できるパートナー達の中でも割とまともな(設定、性格的ともに)部類に入るキャラ達だ。
「コール!ルピナ、パニエ、ラザエラ」
リーゼの時とは違い、音声入力での召喚を試してみる。
すると一瞬視界で光が明滅し、すぐに正常に戻る。そして気付けばそこに2人の美女と1人の少女が跪いていた。成功だ。
「えーっと、3人ともよく来てくれた。まずは調子はどうだ?」
すると銀髪ロングの小さな猫耳の少女、ルピナがガバっと立ち上がる。
「元気ですにゃ!にゃぁ、我がご主人様、またこうして会えることをどれだけ望んだでしょうか!マーキングさせて下さいにゃ!」
「お?おぉう!?」
ルピナは目にも留まらぬ速さで俺に抱きつき頬ズリを始める。
「にゃぅ〜ん、ご主人様の匂い!最高にゃん!…んにゃ!?あの真っ黒な腹黒姉様の匂いが付いてるにゃ!消すにゃ!上書きにゃあ!」
「おい、ルピナ…」
鼻息の荒い残念美少女である。おかしいな。設定上ではパートナーキャラの中でかなりまともなはずなんだが…。
「ルピナ、そこまでですよ」
「にゃうっ!?パニ姉様!!離してにゃ!」
ルピナが俺から引き離されていく。そこにはルピナの首根っこ…ルピナ着ている黄色い服の襟を器用に摘み上げたパニエが居た。
エルフ耳に少し浅黒い肌の銀髪碧眼の美女、パニエはダークエルフだ。パニエはその昔、まだゲーム内でフレンドと対戦で遊んでいた頃に『自然が残る場所で彼女からは逃げられない』とまで言われた俺のパートナーキャラ。
「すまんな、パニエ。手間かけさせた」
「いえ、ご主人様のお役に立つ事こそが私たちの存在意義。困らせることなど言語道断です。ルピナの所業、平にご容赦を…」
「あのくらい別に気にしてないぞ。元気があって安心しているくらいだ。その様子だとパニエも大丈夫そうだな?」
「ありがとうございます、お優しいご主人様。はい、私はこの通り元気でございます」
ふふふ、と俺にはにかむように笑うパニエ。
よかった。彼女はまともそうだ。と安堵していると
「しかしご主人様、ルピナの言う通りリーゼ姉様の匂いがします。後でしっかり消臭致しますね」
ニコニコと微笑みながら不穏な雰囲気のパニエさん。いつ以来か、背中に冷や汗が流れる感覚を覚えた。
どうやらパニエも何かがおかしいらしい。
「に、匂いは俺は分からんから任せようか…な?ハハハ、ルピナとパニエは元気そうで何よりだな、うん。ラザエラはどうだ?調子が悪かったりはしないか?」
残る1人のラザエラ。俺が育てたパートナーキャラの中では1番異質な存在とも言えるキャラクター。ブロンドの髪をポニーテールにして黒いスカーフで口元を覆っている。黒くボロボロの外套を羽織った彼女は、はっきりと顔は見えないがかなりの美人である。
「………大丈夫…です」
「そうか。念のため3人とも自分のステータスとスキルを確認してみてくれ。異常がなければ話を進める」
そうして俺は3人にも異常が無いことを確認し、これまで俺に起こった事を話した。やはり3人ともヒストリアオンラインの中のゼノア大陸では無い事に少し驚きはしたものの、すぐに状況を飲み込んでくれた。
これから屋敷の周辺を調査する旨を伝えると3人とも張り切っていた。
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再生誕の杖
Sレア 課金アイテム
効果:対象者に24時間に1度だけオートリザレクションを付与する。オートリザレクションを付与した際に、対象者の全てのステータスを10%上昇させる。
使用魔力:使用者の5%の魔力が必要
最後の方で力尽きました…。
キャラ増えてきたら(自分のためにも)キャラ紹介書きます_:(´ཀ`」 ∠):_ …