召喚
ヾ(:3ノシヾ)ノシ
「取り敢えず整理しよう。俺はヒストリアオンラインをやっていた。そこで寝落ちして気付けばこの世界にいた。だがここは屋敷の中。俺だけが転移したわけでは無い…か」
ここにはマイホームである屋敷がある。そりゃ結構な額のゲーム内マネーで購入したし愛着もあるから嬉しいが…。違う違うそうじゃなくて。
「そうだ。屋敷の外はどうなっているんだ…」
そう思いゆっくりと立ち上がり外へ続くフロントから外へ出るための扉、無駄に装飾された観音開きの大きな玄関をゆっくりと開ける。
「ふぉぉ…。やっぱゲーム内の街じゃねぇな…。風も冷たい…」
そこは森の中だった。そして遠くにはテレビで見たことのある外国の山脈がうっすらと見える。
それを打ち拉がれたように見つめ、いっとき経って現実に戻る。
「呆然としてる場合じゃないな。確認しなきゃならない事が多いんだ」
誰に言うでもなく自分に言い聞かせ、屋敷の中へ戻る。まずはステータスの確認。
「コール、ステータス」
お馴染みの音声コマンドでステータスを呼び出す。
カナタ 人間 ♂
LV250 (累計 6500)
HP 78000/78000
MP 116000/116000
ATK 4600
INT 5600
DEX 6700
AGI 7500
DEF 4200
LUK 530
ステータスはヒストリアオンラインの中と同じままだった。この世界で『カナタ』のステータスがどれ程役に立つのかは分からないが、やはりゲーム内のステータスが在れば心強い。
ちなみに今は全ての装備を外し、能力値に補正が付いていない素の状態だ。久し振りに見る自分のステータスは相変わらず廃人一直線なステータスだった。
ステータス画面を最小化し、パートナーNPCの召喚画面を呼び出す。そこには自分で作った戦闘や生産、お手伝いキャラからお助けキャラ、ネタキャラなど様々なパートナーNPCキャラのリストがずらりと並んでいた。
その中からとあるキャラクターを選択し、召喚する。
すると目の前で黒いモヤが溢れて次第に人型を作りだす。やがてモヤが消え一人の女性が跪き頭を垂れた状態で召喚された。
「お呼びですか?カナタ様」
現れた女は所々に刺繍のある真っ黒なローブで体を包み、深くフードを被っている。
「……立ってくれ。会話はできるか?リーゼ」
「お望みとあらば…」
ゆっくりと立ち上がるリーゼと呼ばれた女性。漆黒の髪に吸い込まれそうな黒い瞳。睫毛も長く、白い肌がさらに彼女の黒を際立たせている。この世界に来て初めて見るその顔は、ゲーム内で見慣れている美女ではあるが、ここまでの少しのやりとりでゲーム内とは違う変化が分かる。
「嬉しそうだな?」
「それはもう…。カナタ様に召喚して貰うたびに喜びを感じ、カナタ様への愛を抑えるのに必死なのです」
そう言うリーゼの顔は、およそ美人がしてはならないニヤけた顔になっている。ゲーム内ではサポートNPCに表情の変化は無い。と言うかそもそもこんな会話はできない。
どうやらNPCは人格を持つようになったみたいだ。
「すまないリーゼ、これからまた世話になる。召喚を解除する事は当分出来そうに無…」
「畏まりました!私は常にカナタ様のお側に控えています!!なんなりとお申し付けください」
食い気味にこちらへ迫り返事をされる。余程嬉しいようだ。満面の笑みである。
リーゼは…と言うか俺が作ったパートナーNPCキャラは基本的に俺の欲望や理想を詰めて作ったもので女性は全員俺のタイプである。こうも顔が近いと心拍数が跳ね上がってしまう。
「…先に言っておく。ここはゼノア大陸では無い。屋敷と俺は知らないうちに強制的に転移させられたようだ。屋敷の外は完全に異世界だ。細心の注意を払ってくれ」
「畏まりました」
「今から転移の際に無くなったものが無いか地下倉庫へ行く。お前は自身のステータスとスキルの確認をしておいてくれ」
「確認は歩きながらでもできます。私も付いて行ってはダメでしょうか?」
「…あぁ、いいぞ」
「んふふ。ありがとうございます。カナタ様」
「じゃあ行くか」
「はい!」
地下へ続く階段を降りて行く。どうしてこうなったかは分からないが、横を歩くリーゼは無言で俺の腕を取り、黒いローブ上からでも分かる豊満な胸へ埋めている。そして手は恋人繋ぎの様に絡められ歩いている。
いつの間にこうなった?
気付けばこうなっていた。リーゼは美人だし性格も俺好みに設定をいじくりまわしている。だがそれはゲーム内で自己満足を満たす為であり、現実になってしまうとなんとも言えない気分になる。他のキャラクター達のことを思えば、自分のやった軽率なキャラ設定の内容に軽く憂鬱になりそうだ。
だがまぁ、嬉しいか嬉しく無いかと言われれば物凄く嬉しい。
「リーゼ、歩き辛くは無いか?」
「そうですね、離れると歩き辛いのでもっと近づきましょう」
とリーゼは自分の体を更に俺に密着させてくる。リーゼから嗅いだ事のない良い匂いや女性の体特有の柔らかさが伝わり、俺の心臓はもう限界だ。
「リ、リーゼ、ど、童貞の俺には少し刺激が強いんだが…」
「んふふふふ。いい事聞きました。こんな私の体で良ければお楽しみ下さい」
そう言うと、リーゼは更に強く俺の腕を抱き指を絡める。いろいろと暴発しそうになるのを何とか理性で抑えながら屋敷の地下倉庫へたどり着く。
「よ、よし。少し確認してくる。すぐ戻るから待っててくれ」
「いえ、このまま参りましょう。カナタ様をお一人で行かせる訳には参りません」
リーゼは俺の腕を強く抱いたまま地下倉庫の中へ進んで行く。俺はされるがまま引き摺られるようにして地下倉庫へと入っていった。
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