プロローグ 4
異世界いっちょ上がり
「…ぐぅ…ん?くさ…ぃ…ぅん?」
何とも言えない気怠さを覚えながら俺は目覚める。
「ぐぁ、体痛え。…ぁ?俺寝落ちしてた?」
どうやら俺はゲーム内で寝落ちしていたようだった。
「ぁーっと、えーと?確かダンジョン行って帰ってきて…ポーション完成して調合スキルはマスターランクにして…調子に乗ってポーション作りまくって……あぁ…そのまま疲れて寝ちまったんだ」
そこまで思い出して辺りを見ると、そこは屋敷内の散らかった作業部屋の中だった。
「ぅぅ…。取り敢えず体痛いしログアウトしてシャワー浴びよう……ん?何だろこれ…なんか違和感が…臭くね?」
なんか臭うぞ。あれ?意識したらだんだん臭いが強く…。
「くっせぇぇよ!なんだこの臭いは!!」
慌てて作業部屋を出る。廊下に出ると臭いは幾分かマシになった。
「はぁ?何?嫌がらせ?何で臭うの?ゲーム内なのに?はぁ?」
未だに寝ぼけた頭では正常に思考が回らない。ただ疑問だけが出てくる。
「は?おかしくね?何?寝てるうちにアプデでもきたの?は?そんな告知無かったし後出しジャンケンだし!!」
もはや意味不明な言葉が出てくる程軽くパニックになっていた。とりあえず何故こんな事になっているのかを確認する必要があった。
「クッソ!一旦ログアウトして公式見てくるか…」
メニュー画面を表示させ、いつもそこにあるログアウトボタンへ指を伸ばすが…。
「…は?」
ログアウトボタンが消失していた。
「は?何の不具合だよ。悪質すぎやしませんか?え、何?ここまでがドッキリか何か?」
流石に寝惚けた頭が正常に戻ってくる。
「こんな不具合なら告知欄に……何も書いてねぇ…」
誰にでも分かる致命的な不具合。運営が把握していないはずがない。ならば公式ホームページと同時にゲーム内でも告知がされる筈なのに…
何かがおかしい。背中につぅーっと冷や汗が流れるのが分かる。
「え?…汗?ゲーム…内で?」
ゲーム内は基本的に意識だけを、あーんな技術やこーんな技術で電脳世界へ没入させるだけで、汗を掻くこと、体液が流れる事などあり得ない。
部屋の悪臭、ログアウトボタンの消失、体に流れる汗の感覚……。
下手なホラーよりゾッとした。
「GM!GMコール!!ヘルプ!」
しーん。と効果音が付きそうな程の沈黙が俺の周りを支配する。
「馬鹿な…。そんな話あるかよ…そうだ。これはやけにリアルな夢なんだ…そうだよ。痛覚はない筈だから…」
インベントリ内からナイフを取り出す。鍛治スキルの修練で自作したものだ。
「夢なら…痛みは無いはず…」
恐る恐る切っ先を手のひらに向け…
「がぁっ!!!クッソいてぇよ!!!」
軽く突いた筈のナイフは手のひらを貫通していた。
慌てて引き抜くとドバドバと血が流れ出す。
「あぁあぁぁあぁぁぁぁぁ!痛ってえよっ!クソが!ライトヒール!」
初級魔法の一つ、ライトヒールを唱える。反射的に唱えたライトヒールは正常に発動し、暖かな光が切り裂いた手のひらを癒し、傷口が塞がっていく。
「はぁはぁはぁぁぁ…夢じゃ…無い…。痛かった。涙、出た…これ現…実」
ドサッと廊下の壁にももたれ掛かり座り込んでしまう。
呆然とし、目の前で起こった一連の流れが頭の中でグルグル回り何時間か経て、ある可能性に辿り着く。
「これ…異世界転移か?」
目の前に転がるナイフと流れた血。それがゲーム内では無いことを証明していた。
カナタは 寝ぼけている ようだ