表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/37

恋愛ビギナー

「じゃあ光ヶ丘くんの家に遊びに行くんだ。」


「うん!そうなの!

ど、どうしよう……私、見すぼらしい服しか無いよ……!」


「いや、いつもの格好で平気だって。

いくら光ヶ丘くんでもドレスコードしろとは言わないでしょ……。」


結衣が少し呆れた顔で私を見た。

本当にいつもの格好で平気だろうか。

私は光ヶ丘くんを盗み見る。

彼は涼しげな表情で千川くんと話をしていた。

本当に光ヶ丘くんはかっこいい。

千川くんには悪いが、周りが霞んで見える。


「ちょっと、見惚れてないで初デートのことちゃんと考えなよ。」


「は、初デート!?」


結衣の言葉に大きな声を出してしまう。

初デート、なのか。

私、光ヶ丘くんとデートしちゃうのか。


「ど、どうしよう。初デートか。

デートって何するの?

というか、カップルって何するの?」


「そりゃあ交換日記だよ。

あとほら、同じ飲み物を2人でハート型のストローで飲んだり、ピクニック行ったりするんだよ。」


「お家でピクニックするの?」


「お家で……何するんだろう。」


結衣は黙った。

私も黙った。

よくお家デートと言うが、カップルはその間何してるんだ?


「ちょっとちょっと、2人ともそれ本気じゃないよね?」


フッと現れたのは清瀬さんだ。

髪をたなびかせて颯爽と歩いてくる。


「恋ヶ窪さんどころか、朝霞さんもcuteなこと言ってるね。

あのね、お家デートってのは遠回しにセッ」


その時ガチャンと大きな音がした。

見ると光ヶ丘くんが筆箱を落としていた。

あ、と彼を見ると、彼はこちらを見て微笑み、小さく手を振ってくれる。

私もちょっとだけ手を振り返す。

ニヤニヤが止まらない。


「わあ!今の恋人っぽいね!」


「え、えへへへ……。」


結衣に褒められ、デレデレと笑う。

私もそう思う。


「恋ヶ窪さん、致命的に恋愛beginnerだね。

わかった!」


清瀬さんがダンッと机を叩いた。

その顔は闘志に満ち溢れている……なんでだ。


「どうしたの?」


「ダブルデートしよう!」


清瀬さんは高らかに言った。

目の端で光ヶ丘くんが立ち上がるのが見える。


「ダブルデート……?」


「それって二組のカップルでデートするやつ?

アヤと光ヶ丘くんの他に誰と行くの?」


「勿論私と。」


「相手は?」


「玻璃さん。」


玻璃さん……?

ああ、そういえば清瀬さんは光ヶ丘くんのお兄さんが好きなんだった。

ダブルデート、ということはもう清瀬さんは光ヶ丘くんのお兄さんと付き合っているのだろうか。


「もう付き合ってたの?」


「まだ。だから協力してよ。

今週の日曜日会う約束は取り付けてあるからさ。」


「私は良いけど……。」


光ヶ丘くんはどう思うだろう。

あんまりお兄さんと一緒にデートしたくないんじゃないだろうか。


「俺は嫌だよ。」


横から声が聞こえてビクッと肩が揺れる。

見ると、光ヶ丘くんが私の横に立っていた。

いつのまに。


「どうして!楽しい楽しいダブルデートだよ!」


「どこの世界に兄貴と一緒にデートしたいやつがいるんだよ。

あと恋ヶ窪さんまで利用しようとするのやめてくれる?」


やっぱりそうなるよなあ。

結衣も「私もお姉ちゃんとダブルデートするくらいなら喉搔き切るなあ」と恐ろしいことを言っていた。


「いいじゃん。

恋ヶ窪さんはいいって言ったよ。」


「……恋ヶ窪さんはダブルデートしたい?

清瀬さんと。この、下品で、ルー大柴みたいに話す、勘違い女の清瀬さんと。」


光ヶ丘くんはかなり嫌なようだ。

ただ……私としてはダブルデートの方が良かった。

というのも、未だに光ヶ丘くんとまともに話せないどころか、目を合わせるだけで自分の顔が赤くなっているのを感じるのだ。

誰かといた方が気がまぎれる……。


「えっと、わたし、は、その……」


ダブルデートの方がいい、と言えない。

喉に言葉がつっかえる。

それを見かねたのか、結衣が助け舟を出してくれた。


「ダブルデートの方がいいかもね。

光ヶ丘くんと2人きりになったらアヤ窒息死しそう。」


「死んだら元も子もないよね。」


光ヶ丘くんは黙って私を見ている。

もしかして嫌になってしまっただろうか。

ダブルデートじゃなくていいと言わなくちゃ。

でも私の喉は張り付いていて言葉が出てこない。

どうしよう。


「んー、わかった。

じゃあダブルデートしよっか。」


光ヶ丘くんはあっさり了承した。

い、いいの?


「でも清瀬さんと兄貴とは無理。

小平さんに頼もう。」


「へっ?」


小平さん?

思わぬ名前に間の抜けた顔をしてしまう。


「うん。

小平さん、そういう訳だからダブルデートしない?」


光ヶ丘くんは後ろの席で携帯をいじっていた小平さんに誘いをかける。


「いいよ〜。」


小平さんはあっさり答えた。

いいんだ……。


「ちょ、ちょっと待ってよ!

私と玻璃さんのデートはどうなるのよ!」


「勝手に2人でしてなよ。」


光ヶ丘くんは清瀬さんを流すと、私に向き直った。


「そういうことだから、ダブルデート、しよっか。」


✳︎


ダブルデート。

ダブルデートだ。

今日はダブルデートの日だ。


私は待ち合わせの駅でブルブル震えていた。

会いたくて会いたくて震えているのもある。が、それ以上に緊張が止まらない。


小平さんは他クラスの萩山くんと内緒で付き合っていて、彼と自然にデートする為にこのダブルデートに乗ってくれたという。

ありがたいことだ。

望むなら、萩山くんがイラついたからと言ってすぐ人を殴るような人でないといい。


それはともかくとして、ダブルデートってどうすればいいのだろう。

今回は無難に水族館行こう、と言われたのだが、何が無難なのかわからない。

植物園や動物園は無難じゃないのだろうか。


「あれ?えっと……Aクラスの人だよね?」


顔を上げると、まるでピースマークのようなにっこり顔の男の子がいた。

どこかで見覚えがある。


「そうですけど……。」


「もしかして恋ヶ窪さん?

俺、萩山です。」


「ああ!どうも!

恋ヶ窪です。」


私は萩山くんにペコリとお辞儀をした。

彼も同じようにお辞儀をする。

なんだ、優しそうな人じゃないか。


「まだ小平も光ヶ丘も来てないっぽいね。」


「それが電車遅れてるみたいなんだよね。

もう少しかかるんじゃないかな……。」


「ほんと。

あ、LINE来てた。

……あと五分くらいで小平は来るみたいだ。」


私は時計を見る。

待ち合わせの時間は過ぎているが、水族館なら何時になろうと構わないだろう。


「萩山くんは小平さんと何で付き合うようになったの?」


「ス、ストレートだな……。

あー、その、部活が一緒でさ……。

バレー部なんだけど。

それで、なんか……」


萩山くんは最後の方はモゴモゴと喋った。

心なしか顔も赤い。照れているのだろう。


「そんな感じ!

恋ヶ窪さんは?光ヶ丘と付き合ってるのなんか意外な感じだけど。」


「そうだよね。

光ヶ丘くんみたいにかっこよくて頭も良くて運動もできて知恵もあって優しくて包容力があっていつも周囲を気にかけて笑うと可愛いけどでも美しさが溢れてる人が私なんかと不釣り合いだよね。

なんで付き合えてるのかよくわかんないんだ。」


「すっごい。息継ぎしないで言い切ったな。

そうじゃなくて、光ヶ丘ってちょっと怖いじゃん。恋ヶ窪さんはアホの子……天然な感じだから意外だなあって。」


「怖い?光ヶ丘くんが?」


どこが怖いんだろうか?

美し過ぎて?神から愛され過ぎて?

確かに、それは私も常々感じている。


「なんだろう、冷たい感じがする。

特に女子に対して。」


冷たい?

その言葉にビックリする。

彼が冷たいと思ったことは一度だってない。


「そんなことないよ、すごく優しいよ。」


「あ、ごめん、悪く言ったつもり無かったんだ。」


「そうじゃなくて、クラスでモテモテだしみんな光ヶ丘くんと仲良いし……。」


「あれはモテモテでも仲良しでもないと思う。」


萩山くんは少しだけ表情を硬くした。


「渇いてて、貪欲で、打算的な関係。」


萩山くんは意外なことばかり言う。

貪欲で打算的関係とはどういうことだろう。


「でも恋ヶ窪さんには優しいってことは、恋ヶ窪さんは相当愛されてるんだなあ。」


萩山くんはまた柔らかい笑顔を見せる。

私は光ヶ丘くんとみんなの関係についてを忘れ、ニヤニヤ笑ってしまった。


「えっ、そ、そうかな?」


「そうじゃないかな。

やったじゃんか。」


エヘヘ、と鼻の下が伸びる。

愛されてる。愛。良い言葉だ。


私がニヤニヤした顔を萩山くんに向けていると、萩山くんが驚いた表情で私の後ろを見ていた。

どうしたのか、と振り向く前にいきなり腕を掴まれた。


「わあっ!?」


「お待たせ。」


光ヶ丘くんだ。額に汗を浮かべながら微笑んでいる。

なんてかっこいい……そう思ったところで私は大変なことに気がついた。


私服だ。


光ヶ丘くんの私服。


シャツにジーンズという簡単な格好だが、それがなんだかとても似合っていてたまらなくかっこいい。


「ごめんね、電車が遅れてて。

暑かったでしょ?」


光ヶ丘くんが少し憂いた表情を浮かべる。

美術品として美術館に収蔵されてもおかしくない美しさだ。


「いいいいいや、へへへへ平気。

こ、ここ、ああああの、風吹いてるし。」


あまりの美しさに私のどもりも1.5倍増加だ。嫌になる。


「萩山くんも、遅れてごめんね。

恋ヶ窪さんと、仲良く待ってたみたいで。」


「……少し話してただけだから。」


「そうだよね。

小平さんはまだ来てないんだ。」


「小平も電車遅れてるって。

そろそろ来るんじゃないかな。」


時計を見る。

待ち合わせの時間から10分経っていた。

思ったよりも電車が遅れているようだ。


その時、スルッと腕を撫でられた。

え、と光ヶ丘くんを見ると彼は悪戯っ子のように微笑んで、私の手の甲を撫で、包み込んだ。


あまりにも自然に手を繋がれてしまった。

ドンドンと顔が赤くなるのを感じる。


「……小平早く来ねえかなあ。」


萩山くんの声が私の赤くなった耳に届いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ