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俺は恋ヶ窪さんに嫉妬してほしい

喜ばしいことに、恋ヶ窪さんが俺の恋人になった。

俺は彼女の手を握る。

そうすると恋ヶ窪さんは体中を赤くしながら少しだけ握り返してくれる。


嬉しくて堪らない。

予定よりも少し早くに彼女を捉えたが、まあ良いだろう。

手回しはもう済んでいる。

彼女が俺から逃げることは一生叶わない。


「恋ヶ窪さん。」


「なななななに?」


恋人になったというのに、いやなったからこそなのか、彼女は俺といる間ずっと顔を赤くしているしどもりっぱなしだ。

何故か緊張している。


「あのさ、今度うちに来ない?

前ゲームやろうって話してたじゃん。」


「ひ、ひ、光ヶ丘くんのうちに……?」


「そう。

家族がいない時といる時どっちがいい?

俺の親いると緊張するよね。」


「じゃあ、いない時……?」


「わかった。

俺もいない時のがいい。」


俺が彼女を連れてきたとなったら、家族中大騒ぎだ。


「あら、お盛んねー。」


清瀬さんが後ろから声を掛けてきた。

チラッと見ると、中井さんとクスクス笑いあっている。


「お、お盛ん?」


「だってそれってつまりセッ」


「清瀬さん。」


何故すぐそういう下品な発想にいくのだろう。

俺以上に高校生男子といった感じだ。


「え?セ?」


「俺の家PS4もあるけど、何かやる?

兄貴のだからよくわかんないんだけど。」


「わた、私もわかんないから、お任せで……。」


話を強引に変える作戦は成功した。

清瀬さんには本当に嫌になる。

俺が清瀬さんを睨むと、彼女はニヤニヤ笑っていた。


「やあね、見ました奥さん?

私のこと睨んできましたよ。」


「フフ、付き合いたてだからはしゃいでるのよ。それも大好きな恋ヶ窪さんと付き合えたんだから、犬みたいに尻尾振っちゃって。」


「ああ、盛りのついた犬ってよく言うもんね。」


最悪だ。

というか、何故いつもの面子が揃っているのか。

俺と恋ヶ窪さんが並んで歩く後ろには、朝霞さん以外のクラスの女子がいた。

もう恋ヶ窪さんという恋人がいるのだ。

放っておいてほしい。


恋ヶ窪さんを見る。

彼女は特に後ろの2人に気にする様子なく歩いていた。


俺が他の女子と喋っても気にならないのか。


少しモヤモヤとする。

俺は恋ヶ窪さんが他の男子と喋っていたら嫌で嫌でしょうがないのに。


「恋ヶ窪さん。」


俺は周りに聞こえないような小さな声で話しかけた。


「後ろうるさくて嫌じゃない?

特に清瀬さんとか。」


「え?

ううん、別に……?」


彼女はキョトンとこちらを見た。

本当に、全く気にしてないというのか。


「……怒ってない?」


「なにに?」


「……折角登校してるのに、余計なのが付いてきて。」


「えっと……ああ……。

……あっ!!」


彼女はハッとした表情を見せた。

まさか今頃現状に気付いたのか?


「そ、そうだ、どうしよう。

私、粉微塵にされてしまう。」


「え……?誰に……?」


「た、田無さんとか?わかんないけど、でも、私、その、う、奪っちゃったってことだもんね。

みんなから、光ヶ丘くん。」


「そうなる……のかな……?」


そもそも俺は彼女らの物ではないのだが。


恋ヶ窪さんはショボンと肩を落とした。

「みんな、光ヶ丘くんと本気で結婚したいんだもんね……。」と呟いている。

冗談じゃない。あの中の奴らと結婚なんてしたら俺は発狂して死ぬ。


「そんなおぞましいことよく思いついたね。違うんだってば。

ああ、その想像だけで死にそう。」


「ご、ごめん……?

でも清瀬さんが前にそう言ってたのが忘れられなくて……」


「私がどうかした?」


清瀬さんが話に入ってきやがった。

頼むから俺たちの間に入らないでくれ。

お邪魔虫以外の何者でもない。


「清瀬さん、前に光ヶ丘くんと本気で結婚したいって言ってたよね?

他のみんなもそうだって。

……光ヶ丘くんは違うって言ってたけど……。」


「ああ、そうだった。

まあ正確には私がmarriageしたいのは光ヶ丘 玻璃さん、彼のbrotherなんだけど。」


「brotherって、小学生と?

それはちょっとまずいんじゃないかな。」


「兄貴と結婚したいんだって。」


さすがに小学生の弟と結婚したいと言い出すやつとは喋りたくない。

生意気な弟とは言え哀れだし、気持ち悪い。


「お兄さんの方か……。

あれ?じゃあなんであんなこと言ったの?」


「だって恋ヶ窪さん、どう見たって光ヶ丘くんのこと好きなのになんのactionもしないからイジイジしちゃって。

ちょっとpushすればaction起こすかなと思ってああ言ってみたんだ。」


「あれはそういう意味だったの?

牽制にしか思えなかったんだけど……。」


「ええ?どうして。

普通周りがみんな本気だって聞いたら焦らない?」


清瀬さんは首を傾げている。

彼女のような戦闘意欲に溢れた人なら、周りが本気だと知るとやる気が出るだろうが恋ヶ窪さんは違うだろう。

身を引いてしまうかもしれない。

全く危ないところだった。


「私は違うかな……。

……他のみんなは?」


「他のみんなだって結婚なんて考えてるわけないじゃん!

まだ高校1年生だよ?」


「だ、だよね……。」


「清瀬さん言ってることめちゃくちゃだよ。

恋ヶ窪さんも真面目に相手しないでいいから。」


清瀬さんに構わないで、俺に構って欲しい。

そう思って恋ヶ窪さんの腕を引いて清瀬さんから離す。


「あ、てことはみんな本気じゃない?」


「そうだよ。

ただの協力関係。」


恋ヶ窪さんが嫉妬してくれないかな、とちょっと期待して話を振ってみたが全くその様子は無いのでネタばらしをする。


いつかはどんな協力関係なのか説明する必要があるだろうが、とりあえずは俺たちはドライな関係であるとだけ伝えておこう。

隠しておいて俺と恋ヶ窪さんの間を脅かしてもいけないが、詳細に話して逃げ出そうとされるのも嫌だ。


「……協力関係?」


「親の仕事で色々あるんだよね。」


恋ヶ窪さんはふうんと呟いた。

納得してるのかしてないのか。

ただ、それ以上深く聞いて来ようとはしなかった。


「それでいつうち来る?」


「あっ、えっと、いつ、に、しようか。」


「来週の金曜日なら弟が遠足……だったかな?それで帰って来るの遅いんだけど、どうかな?」


「じゃ、じゃあ金曜日……。」


よし。

俺は心の中でガッツポーズをする。

家なら2人きりでゆっくりできる。


「金曜日が脱童貞の日か。

お赤飯炊かなくちゃね。」


「フフ、避妊はしっかりね。

後悔することになるわよ。」


あの2人から早く離れたい。

俺は恋ヶ窪さんを引いて早足で歩いた。

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