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手を繋いでる時、手汗ってどうするの?

私は保健室でグルグル悩んでいた。


光ヶ丘くん、が、私の首を撫でた。

それどころか「そこまでの外道になっちゃうかも」と。

それ、は、つまり。

いやでも、光ヶ丘くんがそんなこと求めるだろうか。

大体ハーレムがあるというのに私にあんなことをする意味がわからない。


「恋ヶ窪さん?」


「わっ!はい!あ、今ちょ、出ます!」


先生が入ってきたと慌てて出て行こうとすると、そこにいたのは清瀬さんだった。


「あれ?清瀬さん?

光ヶ丘くんと帰ったんじゃないの?」


「ちょっと用事があったから。

恋ヶ窪さんの荷物まだあったからもしかしてここにいるのかなー、と思ったら案の定。」


清瀬さんはニコリと笑った。

なんでだろう?


「歩けそうで何より。

腰は?痛くない?」


「え?腰?」


「あれ?顔どうしたの?腕も。

勢い余って殴られた?」


「へ?いや、自分で本を落としてそれが当たって……。」


「なるほど、それを口実に保健室に連れ込んだわけかー。」


ウンウンと清瀬さんは頷いている。

なんの話だろう。


「まー、恋ヶ窪さんっていかにもvirginだもんね。手加減してもらえたんだ。」


「バ……?手加減?

さっきから何言ってるの?」


「あ、そうだ。

余計なお世話だと思うけど、これ……。」


清瀬さんは私に薬局の袋を渡してきた。

話聞かないな!

仕方なく袋を開けてみると薬と小箱が入っている。


「……何これ?

超極薄?」


「そう、今後の時のために持っといたほうがいいと思って。」


「今後……?

何に使うの?」


「何ってそりゃあsexだけど。

使うところ見てないの?まさか生?」


セッ……。

私は絶句した。

清瀬さんどうしたんだ。なんでそんな発音が良いんだ。

どうしてそんな言葉を臆面もなく言えるのだ。


「な、な、な、な、な!

いらない!こんな!」


「でも出来ちゃってからだと遅くない?

私たちまだ高校生だし。」


「で、出来る予定ないから!!!」


私は清瀬さんにいかがわしい袋を押し付けた。

つまりあれって、コン………………。

なんてものを渡してくるんだ。


「……あれ?恋ヶ窪さんってさっきまで光ヶ丘くんと一緒にいたよね。」


「え、うん。

それがどうかした?」


「……もしかして本当に手当てしてただけ?」


「なんで知ってるの?」


清瀬さんエスパー?

いや、光ヶ丘くんが話したのか。

光ヶ丘くんに手当してもらったこめかみに触って、さっきの手当てを思い出すと顔が赤くなる。


「あら、本当だったんだ……。

私てっきり……。」


「清瀬さん?」


「sory!刺激的なもの見せちゃった。

忘れて忘れて〜。」


清瀬さんは驚くほどの早さで包みを鞄にしまうと、ニコニコ笑いながら私の肩を組んできた。


「いやー、ごめんごめん。

すっかり勘違いしてた。」


「何を勘違いしてたの?どうしてあんなものを渡してきたの?」


「さ、帰ろ帰ろ。」


清瀬さんは強引に私を正面玄関に連れて行く。

清瀬さん、本当に全然話聞かないな。


結局私は清瀬さんにズルズル引きずられて駅まで行くこととなった。


✳︎


清瀬さんに引きずられていると、前方に見覚えのある集団が見えてきた。

あれは、多分光ヶ丘くんのハーレムだ。


「あ、あれ光ヶ丘くんたちじゃない?」


「そうだね。」


「Hey!光ヶ丘くん!」


清瀬さんがアメリカンに声をかけると、光ヶ丘くんの輝く顔がこちらを向いた。


彼の美しい瞳が私を捉える。

その瞬間、私の顔面は真っ赤に燃え上がった。


「恋ヶ窪さん。」


彼はこちらに気付くと、わざわざ駆け寄ってくれた。

うっ、輝きが目に痛い。


「私もいるんですけどー?」


「うんうん、そうだね。

怪我は大丈夫?」


「ぜぜぜぜ全然痛くない全然大丈夫大丈夫。」


すごいどもりっぷりだ。

我ながら呆れてしまう。

清瀬さんも呆れたのか、首を振って鷺ノ宮さんたちがいる方へ駆けて行った。


「そっか。

荷物持つよ、貸して。」


光ヶ丘くんは私の荷物をサッと持つと、私の背中に手を当てて歩き出した。

介護されてる。

私、光ヶ丘くんに介護されてる。


「ひ、ひ、光ヶ丘く、ん、」


「ん?どうかした?」


「えっと、あの、ですね、その、」


「恋ヶ窪さん、怪我してるの?」


パッと顔を上げると、中井さんが心配そうに私を見ていた。

中井さんっていつもニコニコ笑ってるし、人の変化に一番最初に気付く。優しいんだろうな。


「大したことないんだけど、少し。」


「本棚の本が落ちて来たんだよ。」


「あら、大変。

痛かったでしょう?」


中井さんは心配そうな顔のまま光ヶ丘くんの腕を掴んだ。

随分力強く掴むんだなあ。


「光ヶ丘くん、ちゃんと助けてあげなきゃダメじゃない。」


「痛いんだけど。でも、そうだね。

恋ヶ窪さんごめんね。」


「ええ?いやいや、わた、私が勝手に怪我したから!」


「恋ヶ窪さんってば優しいのね。

でも女の子の顔に傷付けたらその責任は取らなくちゃ。」


中井さんがニコリと笑った。


「責任?本が?」


「本は責任取れないのわかるよね?

そうじゃなくて、光ヶ丘くんが責任取るの。」


「へっ、」


「わかってる。ちゃんと責任取るよ。」


光ヶ丘くんが申し訳なさそうに目を伏せた。

責任?何を?どうやって?


「わ、私の顔面なんてその辺の石ころ以下だから気にしないで責任取らなくていい大丈夫。むしろ手当てしてくれてあありがとう。」


「フフ、恋ヶ窪さんって笑っちゃうくらい鈍いのね。笑えないけど。

光ヶ丘くんが責任取るって言ってるんだから遠慮しないで家まで送ってもらえばいいのよ。怪我してるんでしょ?

それでも良いって言うなら」


中井さんは光ヶ丘くんの掴んでいた腕にギュッと抱きついた。

な、な、な、な。


「私が送ってもらっちゃおうかな。

ね、光ヶ丘くん良いでしょ?」


「…………………………………………………………………………………………………………………………………………いい、よ。」


それは嫌だ!

焦った私は、思わず彼の小指を掴んでいた。

思わずだというのに小指しか触れない自分の小心っぷりが悲しい。


「ひ、光ヶ丘くん、わ、わたし、私、その、」


家まで送ってくれないか、と言いたいのに全然言葉を紡ぐことができない。

やっぱり無理だ。

送って、なんて言えない。

そっと小指から手を離す。


「ご、ごめん、なんでも、」


なんでもない、と言う前に私の手を握られた。

光ヶ丘くんに。

光ヶ丘くんが

私の手を

握っている。


「えっ、えっ?」


「送るね。

お家どこ?」


「ファンタジー……」


「ファンタジー?」


「やっ、ちが、ごめん、東宝駅です。」


「わかった。」


光ヶ丘くんは私の手を握ったままだ。

今光ヶ丘くんは左手で私と手を繋ぎ、背中に自分と私の荷物を持った状態だ。

なんと申し訳がない。


「に、荷物自分で!」


「持たせとけばいいのよ。」


中井さんが歌うように言った。

中井さん、いつの間に光ヶ丘くんから離れて先に歩いていたのだろう。


「中井さんの言う通り、俺が持つから良いんだよ。」


「あ、でも、重いよ。」


「だからこそ怪我人に持たせられない。」


光ヶ丘くんが微笑んだ。

うっ、光ヶ丘くんの美しい微笑みを見たら持病の恋煩いの腫瘍が破裂してしまう。


「じゃ、じゃあ、駅まで。」


「あっ、そうだよね。

定期これかな?」


光ヶ丘くんは私のカバンに付いていたパスケースを外して渡してきた。

いや違う。

荷物を丸ごと渡して欲しいのだ。


「はい、これで大丈夫だね。」


「そ、そ、うじゃなくて、」


光ヶ丘くんも話聞かないんだなあ。

結局私は電車に乗った後も光ヶ丘くんに荷物を持たせっぱなしであった。


✳︎


最寄り駅まで着いた。

これまでの道のりは長かったような短かったような。


何せ光ヶ丘くんは私と手を繋いだままでいるのだ。緊張で手汗が止まらず、離してほしいと伝えたが悉く流されてしまった。

手汗がヌルヌルの女だと思われたくないのに。


ハーレムのメンバーたちは各々の方面に帰ってしまったので、今は光ヶ丘くんと私の2人だけだ。


「こ、ここまで送ってくれてあり、がとう。」


「家どっち方面?」


「右手をまっすぐ。」


「わかった。」


ん?あれ?

光ヶ丘くんは右手に歩き始めた。

どう言うことだ。


「あの、も、もう大丈夫だよ。」


「家まで送るって言ったじゃん。

ほら、この辺街灯少なくて危ないよ。」


光ヶ丘くんはサッサと歩いてしまう。

困った。

これではうちのボロアパートを見られてしまう。

光ヶ丘くんが想像もつかないほどのボロアパートだ。

そんなの見られたら恥以外のなにものでもない。


「で、でも、」


「恋ヶ窪さんって何人家族?」


「え?あ、ふ、2人。お母さんと、私。」


「そうなんだ。

その、お父さんは?」


「り、離婚したの。最近。

入学する直前だから、ちょ、うど、二ヶ月前。」


「……へえ。」


光ヶ丘くんはどこか遠くを見つめたまま返事をした。


「じゃあ恋ヶ窪さんは一人っ子なんだ。

いいな。」


「え、い、いいかな?」


「いいよ。

俺なんて三人兄弟の真ん中だから喧嘩ばっかり。」


「そ、そうなの?

光ヶ丘くんも喧嘩するんだ。」


なんだか想像ができない。


「そりゃあね。

って言っても、兄貴は歳が離れてるし、弟もまだ小学生だから口喧嘩かゲームで喧嘩。」


「ゲーム?」


「マリオカート。

弟がクッパ使ってくるから凄いぶつかってくるんだよね。

あ、恋ヶ窪さんはゲームしない?」


「うん、ゲーム機無いから。」


「なら兄貴の貸すから今度やってみない?

結構燃えるよ。」


「いいの?」


「是非。」


兄弟喧嘩って壮絶って聞くけれど、ゲームで争ってるなんてなんだか微笑ましい。

想像すると自然とニヤニヤしてしまった。


「なにが面白いの?」


「だって、光ヶ丘くんがゲームしてること自体意外なのに、それで喧嘩だなんて。

なんかおかしい。」


「そうかな……?」


光ヶ丘くんはキョトンとした顔になる。

なんだかその顔が可愛くてまたニヤニヤしてしまう。

光ヶ丘くんは私のニヤニヤした顔を見た後、優しく微笑んだ。


「恋ヶ窪さんは可愛いね。」



一瞬、心臓が壊れたかと思った。

可愛い?まさか光ヶ丘くんが私を可愛いと言ったのか?幻聴?


「…………えっ?な?」


「恋ヶ窪さんは可愛いって言った。」


どうやら幻聴ではなかったらしいが、二発目のミサイル攻撃に私は崩壊寸前だった。


「な、な、なにを、バカなことを、どうしたの?ほ、褒めても、なにも出ない、ってか出せない、」


「んー……。

街灯が無いのが残念だなあ。」


「な、に、が、」


「多分今恋ヶ窪さん真っ赤になってるだろうけどよく見えないから。」


その通りだ。

私は顔どころか鎖骨のあたりまで熱くなっている。

耳の奥がジンジンする。


「からかっ、からかわない、で、」


「からかってないよ。」


光ヶ丘くんの声は真面目だ。


こうやって幾人の女子のハートを撃ち落として来たのだろう。

そりゃハーレムもできるというわけだ。


「ひ、光ヶ丘くんは、ずるい。

そんな、かわ、可愛いって言われたら、動揺しちゃうよ、」


「俺の一言でそんなに動揺するのは恋ヶ窪さんだけだよ。」


光ヶ丘くんが繋いだ手をギュッと握って来た。

それにビックリして全身が跳ねる。


光ヶ丘くんはそれを横目で見ると「困ったな」と呟いていた。

困ったのは私だ。


私は光ヶ丘くんみたいに異性に慣れていないのだ。

こうやって手を繋がれたり、家まで送ってもらったり、挙げ句の果てには可愛いなんて言われたら、どうしたらいいのかわからなくなる。


なんとかしようと私は彼に手を離してほしいと再度伝えた。


「恋ヶ窪さんは俺と手繋ぐの嫌?」


「い、嫌じゃ無いけど、手汗がすごいし、それに、もう、心臓が持たない。」


「……わかった。」


光ヶ丘くんはあっさり手を離した。

自分が離せといったのに、離れていく熱が惜しくなる。


しかし、そのまま手を下ろすかと思った彼の手が私の手の甲を包み込んだ。


「え?」


「これなら手汗、気にならないでしょ?」


「う、でも、心臓が、心臓が持たない、から、」


なんでそんなに手を繋ぎたがるのだ。

勘違いしてしまう。やめてくれ。

私は光ヶ丘くんと違う。

期待してしまう。


「もう少しだから。頑張ろう。」


「えっ、えっ?」


光ヶ丘くんはその後私から手を離すことなく、私の家まで送ってくれた。

ボロアパートを見られてしまったが彼は特に反応はなく、気をつけるようにと念を押して帰っていった。


私は夜眠ることなく光ヶ丘くんのことを考え続けたため、知恵熱を出し三日間学校を休んだ。

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