番外編『桃子』
「これは……すごい……。」
「脅威だね……。」
教室の隅で、恋ヶ窪と清瀬が机を囲みながらコソコソ話をしている。
時々恋ヶ窪は胸を抑えて、苦しそうな表情をしていた。
なんだろう?
覗き込むと、そこには水色の水着を着た巨乳の女の写真があった。
……教室でこんなもの読むなんて。
「……なにやってるの……。」
「あ、中井さん。」
「見てこれ。すごくない?驚異のKカップ美女。」
なんだかその文言聞いたことがある。
写真の女を良く見る。
これ……巨乳コスプレイヤー桃子?
「私もこれだけあったらなあ……。」
「この人の場合、bustじゃなくてwestの細さが凄いんじゃない?
見てよこれ。内臓詰まってる?」
「胸の方に内臓詰まってるんじゃない?」
「そんなgravure idolに適した新人類が……?」
清瀬は慄きながら次のページを捲る。
桃子は、手で胸を抑えるだけの扇情的な格好をしていた。表情はこちらを挑発的に睨みつけている。
「エッッロ。」
「恋ヶ窪さんの中の男子高校生鎮まれ。」
「ご、ごめん。あまりのデカさについ。」
「気持ちはわかるけどね。
……んー、それにしてもこの人誰かに似てるような……?」
「誰か?」
清瀬は顔を上げた。
私をじっと見つめる。顔と胸を交互に。
「……なに。」
「わかった、この人中井さんに似てる!胸以外!」
「顔が似てるって言えばいいじゃない。」
胸以外は余計だ。
「中井さんに……?
あー確かに似てるかも。この冷え切った目つきとか、鼻の穴の形とか、唇の山の形とか、二重の幅とか。」
「そんな微妙なところ?良く見てるのね。
……似てる……かな……?」
写真の女を見る。
わからない。似てるんだろうか?
桃子の方は大人っぽくいやらしい感じがする。私は……ロリコンが喜ぶ体だ。
「髪質とかも似てるよ!クルクルしてる。」
「ああ、この人も天パなのね。」
「あとやっぱり表情かなあ?
冷酷な感じが……。」
「笑いながら爪剥いできそうだよね。」
私は笑いながら爪剥いだりしない。
放課後、私は夕間の部屋を訪れていた。
というか、侵入していた。
棚にはやはり巨乳コスプレイヤー桃子が置いてある。
……私たちエロ本買える年じゃないのにどうやって買うんだろう。
「……なんでお前いんだよ…………。」
「おかえりなさい。
ねえ、こういう本って貰うの?自分で買えないわよね。」
夕間は何も言わず、私の手から桃子をひったくると本棚のてっぺんにそれを置いた。
「クレジットカード?」
「……お前には関係ないだろ。」
「私も今後、買うかもしれないし……。」
夕間はちょっと驚いた顔をしたが、何も言わなかった。
冗談なんだけれど。私の冗談って分かりづらいかな。
「今日、清瀬さんと恋ヶ窪さんが桃子の写真集見てた。」
「…………ん?
なんでだ……?」
「はしゃいでた。巨乳ってすごい力があるのね。」
「……あの2人は……頭がおかしいからなあ……。よくわかんねえな……。」
確かに、頭がおかしい。
気にすることもないのかもしれない。
「夕間は、私が巨乳だったら良かったって思う?」
「思わねえけど……?
なんでそんなこと聞くんだよ……。」
「清瀬さんに桃子に似てるって言われたから。」
彼は目を見開いたあと、手で顔を覆った。
隙間から見える肌は赤い。
「似てるかしら、桃子に。」
「……似てねえ……。」
「そう。
ちなみに光ヶ丘くんと拝島くんと秋津くんと小平さんと田無さんに聞いてみたけど似てるって言われた。」
光ヶ丘はかなり困惑して従姉妹か聞いてきた。
残念ながら従姉妹はいない。はとこもいない。
「……似て、ねえ。」
「そう。まあいいのよ。
あなたって本当嘘がつけないよね。」
その反応を見れば十分だ。
私はスッキリした気持ちで夕間の部屋を後にした。
その後、暫く夕間は目も合わせてくれなかった。
2017.10.07 中井さんの名字がすべて清瀬になっていました。清瀬さんが二人いるというおぞましい時空を作り出してしまったことをここにお詫びいたします。またご指摘くださりありがとうございました。




