お泊まりパーティー!楽しいゲーム!
「こいがくぼさん、1人で平気かなあ。」
意外に行動力あるんだなあ。
あさかさんにもたれると、彼女は「光ヶ丘くんはアヤに何かしたりしないよ」と強く言った。
ひかりがおかくんの信念みたいなものを感じ取っているんだろうか。
オレには理解できないけれど。
「監禁とか、しないかな。」
「……………………………………大丈夫!」
「ほんとに〜?」
「わ、わかんない……。
けど、アヤの嫌がることはしないと思う。」
それは確かに。
こいがくぼさんの嫌がることはしない。表立っては。
「……信じよう。
私、光ヶ丘くんのこと怖いから苦手だけど、アヤに対する愛情だけは信じてる。
他人を犠牲にしても、アヤを幸せにしようとするんだもん……。」
「それは信じていいのー?」
「ダメかな……。」
「わかんないけど……。
後でこいがくぼさんに連絡しよう。」
何かあったらすぐに気付けるように。
あさかさんも頷いて携帯を握りしめた。
「……この後どうする?こいがくぼさん、ウチで待つ?」
「いいの?」
「いいよー。お泊まり会しよー。」
あさかさんはお泊まりセットを持ってくると言って一旦家に戻ると、あっという間に帰って来た。
「お待たせ!
ゲームたくさん持って来たからやろう!」
「うん!」
オレが大喜びでゲームに飛びつこうとした瞬間、呼び鈴が鳴った。
オレはあさかさんから離れて玄関ののぞき穴を覗く。
はるかだった。
「はるかー!どうしたのー!?
えっと、謹慎はいいのー?」
「遊びに行くくらいいいだろ。」
それじゃ謹慎の意味ないよなあと思いながらはるかを部屋に入れる。
なんだか久しぶりだ。
「なんだ、お前元気そうじゃん。
心配したんだぞ。」
「それはオレのセリフ!」
「……あ、誰か来てんの?
俺出直す?」
「あさかさんだよ。
おーい、あさかさん!はるか来たよー!」
廊下に向かって叫ぶと、あさかさんが慌てたように「かしこまりましたー!?」と叫び返していた。
「なんで朝霞がいんの?」
「なんで……?仲良くなった!」
「ええ?なんでだよ……。」
はるかは遠慮なくオレの家にズカズカ上がる。
そして迷わずオレの部屋の扉を開けた。
あさかさんはベッドの上で正座をしていた。
「お邪魔してます!」
「いや、俺の家じゃねえし……。
なんでいんの?」
「秋津くんの家でお泊まり会やるんだ。」
あさかさんの言葉にはるかは「ハア!?」と怒鳴った。
はるか、すぐ怒鳴る癖直さないと。
だからいずみから怖がられるんだ。
「何言って……!?
……あ、そうか……。俺がお邪魔だったのか……?
悪かった。帰るよ。」
「ええ!?はるか帰るの!?」
「俺もそこまで無粋な真似はしないから。」
「何言ってるの?」
「そうだよ、拝島くんもお泊まり会するんだよね?
この部屋そんなに布団入るかな……?」
再びはるかは「ハア!?」と怒鳴った。
こういうの、情緒不安定って言うんじゃないっけ?
「もー、はるかうるさい。」
「いやだって……!
朝霞がここに泊まりに来てんだろ?」
「うん。
あさかさんにベッド貸してあげようと思う。」
「……ああ……。」
はるかは顔を手で覆った。
さっきからなんなんだろう。変なはるか。
「朝霞は……本当に泊まんの?」
「うん。
大丈夫だよ、いびきかかないから!」
「…………………………似た者同士ってやつか……。」
あさかさんは何やらブツブツ言っているはるかを放置して鞄からいそいそと物を取り出した。
「これはトランプでしょ、ウノでしょ、花札も持って来たよ!
何して遊ぶ?」
「ウノ!」
よくルール知らないけど!
オレはベッドに上がってあさかさんにもたれた。
「…………………………亨、距離近くない?」
「何言ってんの。はるかもこっち来なよ。」
「そうじゃなくて……。朝霞と……。」
あさかさんを見る。
距離近い?もたれかかるのやめなってことだろうか。
「ごめん、重かったー?」
「平気だよ。秋津くん軽いから。
拝島くんもウノやろうよ。」
「……亨が退かないと手札見えちゃわないか?」
た、確かに。
あさかさんはハッとなってオレから距離を取った。
それで距離近いって言ったのか。はるかは頭良いなあ。
「見ちゃダメだよ!」
「わかってるよー!
ほら、はるかもやろー?」
はるかは嫌そうにベッドに腰掛けて配られた札を取った。
「ルールは?」
「私が親の役で、2人は子ね?
7枚ずつ配って余ったカードはここに置く。これが山札。
で、私から左に回って山札を引いていくの。
引いたカードと同じ色と数を手札に持ってたら捨てられるよ。
残り一枚になったらウノって叫ぶ!
忘れたら山札から2枚引かなきゃいけないの。」
成る程!とっても楽しそうだ。
「よーし!オレ絶対勝つから!」
その宣言通り、オレは三回連続勝った。
「秋津くん、イカサマしてる?」
「いや、なんでか知らないけど昔から亨はゲームに強い……。」
オレは得意になって踏ん反りかえった。
「ふふん、凄いでしょー?」
「ウノはやめよう。
ブラックジャックにする?」
「いいよー!」
「……負ける気しかしねえ……。」
「ええ?じゃあやめよう……。
あ、そうだ!オセロも持って来てるよ!」
あさかさんは鞄からドンとオセロを取り出した。
こんなにおもちゃ持ってきて重くなかったのかな。
「オセロ超得意!」
「ええ!?」
「全部オレの色にしてあげるー。」
そしてやはり宣言通り、盤の上には黒色しか残らなかった。
白だったあさかさんと傍観していたはるかは唖然としていた。
「秋津くんの苦手なゲームって何?」
「しりとり。」
「そうじゃなくて、この中で!」
オレはトランプ、ウノ、花札、オセロを見た。
どれも得意だ。負けることはほぼ無い。
「無いかなあ。」
「そんなあ。折角持って来たのに。
これじゃ拝島くんと私の一騎打ちしかならない……。」
確かに2人とも弱い。互角だろう。
これじゃつまらない……。
「あ、そうだ。いいこと思いついた。
もう1人呼ぼう!」
あさかさんはポンと手を打つとパーっと部屋を出て行ってしまった。
「あ、朝霞?
……行っちゃった……。
普通ゲームを変えないか?」
「でもオレ、ゲーム強いよ。」
「そうだけどな……。」
一度やればルールは覚えられる。
それに計算を当てはめれば簡単に勝てるのに、みんなそれをしないのは不思議だ。
一度聞いてみたら「何言ってるのかなサッパリだ」と言われてしまった。
「……朝霞には話したのか?
お前が夜眠れないこと。」
「話したよ。」
「そうかあ……。」
はるかは感慨深げに頷いた。
オレは夜、1人で眠ることができない。
それは小学校3年生の時に誘拐されたからだ。
下校中に道を歩いていると、いきなり後ろから抱き上げられ、車に詰められた。
真っ暗なトランクの中だった。
どれくらいの時間閉じ込められていたのかわからなかったが、あまりの恐怖で失禁してしまった。
それに気付いた誘拐犯はオレをたくさん殴った。
車から乱暴に降ろされた後も、やはり暗いところに閉じ込められた。
お腹が空いたと泣くと、黴びたパンを投げ渡された。
それしか渡されなかったのでオレは丸呑みして食べた。腹を壊し、脱糞してしまうとやはり殴られた。
酷い場所だった。
何日そこにいたのかわからないが、気が付いたらオレは助け出され、病院にいた。
犯人は身代金目的の誘拐だったらしい。無事逮捕されたようだ。
犯人は叔父だった。
両親は泣きながらオレに謝っていた。
あの日以来、オレは頭に靄がかかったみたいにボンヤリして、うまく喋れなくなった。
頭ではわかってるのに言葉に出来ない。
それから、1人で眠ることも出来なくなった。
暗いところはあの場所を思い出す。
1人で眠れず、両親に縋った。
両親は頼めば一緒に寝てくれたが、2人とも恐ろしく忙しいので家にいないことの方が多かった。
と言っても放置されているわけではない。
ハウスキーパーさんがいるし、家の警備も厳重だ。
ただ、さみしいだけで。
はるかはそんなオレと一緒に遊んでくれた。
オレが眠れないのだと言うと、泊まりに来てくれた。
あさかさんも。
オレが不眠症だと言うと一緒に寝てくれた。
2人とも優しくて大切なオレの友達。
「俺が謹慎処分でお前の家に行けない時はどうなるかと思ったよ。
ただでさえ最近遊びに行けてないのに。」
「あさかさんが助けてくれたから。」
「よかったよ。
前より顔色良いんじゃねえの?」
「まあね。
だってあさかさん、柔らかいし、良い匂いするし、眠くなるんだよねー。」
目を瞑るとあさかさんの感触が思い出される。
あさかさんは不眠症の特効薬だ。
「……………………………………………………一緒の布団で寝たことがあるのか?」
「え?うん。
はるかも一緒がいい?」
「そうじゃなくて…………。
朝霞は……それでいいって?」
「わかんないけど……でも狭くないか聞いたら平気だって言ってたよ。」
オレの言葉にはるかはまた顔を覆った。
「俺がおかしいのか?」とか「いやいや……。おかしいのはこいつらだろ……。」とか呟いている。
「何言ってんのー?」
「……俺は今特にお前の家に遊びに行けなくなってっから、朝霞が来てくれたのは良いことだと思う。
そう、これは良いことだ。」
「何をいまさら?」
「……亨だもんなあ……。」
「はるかー?」
はるかは自分の世界に入ってしまったようだ。
オレははるかを放っておいて、1人オセロをやることにした。
途中ではるかが参戦し始めたのでぼこぼこにしてやった。ふふん。




