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モヤモヤした何か

学校に着くと、結衣が秋津くんとイチャイチャしていた。


秋津くんは結衣に寄りかかって、結衣はたまに何か話しかけながら読書をしている。


「な、結衣!ズルい!

私だって光ヶ丘くんとそういうことしたいのに〜!」


「へ?すればいいじゃん。」


「無理だよ!光ヶ丘くんと手を繋ぐだけでも精一杯なのに……!」


「あー……そうだったね。」


結衣はあははと笑う。秋津くんも笑う。

なんだなんだ!1日で恋人になったのか!?


「秋津くん!

あなた結衣といつから付き合ってるの?」


「えー?つきあう?」


「恋人同士なんでしょ?」


「違うけどー。」


違う!?つまり、クラスメイトの関係ってこと?

私が結衣なら秋津くんにここまでベタベタされたら殴ってる。

結衣ってば、優しいんだから。


「秋津くんとは友達になったの。

ほら、アヤそんなに膨れてないで仲良くしてよ。」


「そんな幼稚園の先生みたいなこと言って……。」


「はーい、アヤちゃん、亨くん、お歌を歌いましょうねー。

さん、はい!」


「え?い、幾千年 果てしなき 夢と希望を、一夜のうちに、消してしまったのか」


「なんでそこで聖飢魔II……?もっとポップファンタジーで可愛い曲をお願いします。」


「霧の立ち込める森の奥深く、」


「蝋人形の館じゃなくて……。

とにかく、仲良くしてね。

秋津くんも。」


秋津くんはぼーっとした目でこちらを見た。

目の下にクマがあるし、寝不足なのかな?

でも昨日は散々結衣と保健室で寝てたし……。


「我輩、せいきまつ?のこと知らないから歌えないな……。」


「歌わなくていい!ってか我輩って言ってるなら聖飢魔IIのこと知ってるよね!?」


「お前もろうにんぎょうにしてやろうか。」


「霧の……」


「アヤ歌わなくていいってば!

はあ……なんでだろう?いつもの倍疲れるな……。」


結衣は机に倒れこんだ。秋津くんはその結衣の上に倒れこむ。


「大丈夫?

ほら、ドーナツあげる。」


「背中さすってあげる。」


「ありがとう……。」


結衣元気ないなあ。

秋津くん上に乗らなければいいのに。

たった1日前に友達になったというのに随分馴れ馴れしい。ズルいぞ。


私だって光ヶ丘くんと……。

いや、そんなことできない。恥ずかしくて息できなくなる。

私は首を振る。邪念を払わなければ。


「ねえ秋津くん。

いきなりどうして結衣と友達に?」


「あさかさん優しいし。」


「それは完全に同意いたしますけど……。」


そういえば秋津くんっていつも誰といたっけ……。

……なんだろう、思い出そうとするとバールが欲しくなる……。


「今はるかいないから寂しくて。」


「はるか……あっ、拝島!」


そうだ。秋津くんはいつも拝島遥と一緒にいた。あの、拝島と。


「秋津くんもイジメられて舎弟に?」


「違うよー!はるかは悪い奴じゃない。

……何とか窪さんもはるか嫌い?」


「えっと、嫌い……じゃないけど。」


嫌いではない。けど、田無さんのことを思うとムカムカする。


「はるかは皆が思ってるほど悪い奴じゃないよ。

オレはむしろ、いずみのが悪い奴だと思う。」


秋津くんは結衣から体を起こして言った。

どういうことだ?


「依澄って、田無さん?」


「うん。

はるかが女の子に乱暴するとか、ものすごいいじめっ子とか、気に入らない奴は学校やめさせるとか、全部いずみが言ったんだもん。確かに本当のことだけど……でもいずみ以外にはやってないよ?

でもいずみが言いふらしたから……みんなはるかのこと誤解しちゃった。


上級生を病院送りにしたのも嘘。口論しただけ。カツアゲなんてしたことない。

いずみの言ったことが伝わってくうちにどんどん大っきくなっちゃった。

お陰ではるかは皆からこわがられてる。

はるかは喧嘩売られなければ乱暴しないのに。」


秋津くんは勢いよく言うと、再び結衣にもたれかかった。


「もうはるかは反省してるのに。

1番大好きな人から1番憎まれてもう充分苦しんだ。ゆるしてあげてよ。」


「わ、私は……。」


私、田無さんの視点でしか物事を見てなかった。

拝島くんのやったことは非道だと思うけど、私がどうこう言っていい問題ではなかった……?

いや、でも田無さんと光ヶ丘くんに掴みかかったのは本当だ。

ただ……掴みかかる前、何があったのかは知らない。

田無さんが実は挑発してた可能性だってある。


暴力的なところだって、千川くんにもある。

私は父親に似たところがあると、ただそれだけの理由で拝島くんを毛嫌いしていた。


「……ごめん。」


「はるかが学校に戻ったら、なかよくして?

はるかはいい奴だから。」


「うん。」


秋津くんは「いっぱいしゃべったから疲れたー。」と結衣に更に寄りかかった。

結衣は怒らないでよしよしと頭を撫でている。

お母さんみたい。


「秋津くんは拝島くんのこと好きなんだね。」


慈母の微笑みで結衣が言う。

秋津くんは無表情だが元気よく頷いた。


「そうだよ。

だからオレ、この学校入ったんだ。

はるかが入るっていうから……まさかいずみもいるとは予想外……いや予想内……?」


「そういえば田無さんとも仲良いの?

名前で呼んでるし。」


「べつにー。

おんなじ塾だっただけ。

はるかがいずみいずみっていうから覚えただけだよ。

はるかは本当、いずみが大好きなんだから。」


はーやれやれ、と真顔で首を振った。

大好き……なのか?

それにしては態度が辛辣すぎるけど……。


「拝島くんって田無さんのこと好きなの?」


「そうそう。

はるかよくオレの家に泊まるけど、いっつもいずみの話ししてるよ。

いずみが知らない男と話してた、いずみに彼氏ができたかもしれない、いずみがどんどん可愛くなって焦る、いずみが他の男とセックスしたらそいつ殺してしまうかもしれないってそんなんばっかり。」


なんだそれは。拝島くん怖い。

やっぱり無理。


「そんなに好きならどうしてイジメるのかな……。」


「こじれちゃったんじゃない?

はるか、いずみのことになるとバカになるんだよね。

いずみが少しだけでも受け入れたらはるかも素直になると思うんだけど……。」


それは叶わぬ夢じゃないだろうか。

少なくとも私なら幾ら金を積まれようと無理だ。


「田無さんは無理だろうけど、私はその……もうバールで脅したりしないって約束するよ。」


「そんなことしてたの?

それは拝島くんが可哀想だよ。」


「う、本当に申し訳ない。

私も光ヶ丘くんのことになるとバカになるから……。」


「それは知ってる。

今度謝りな?」


「そうするよ……。」


その時、ちょうど予鈴がなった。

そろそろホームルームが始まる。


「……秋津くん?どうして退かないの?」


「オレ、あさかさん膝の上に乗せて授業したい。」


「そんなの見せつけられるこっちの身にもなってよ……。」


秋津くんは納得しなかったが、結衣に「あとでいくらでも乗せればいいよ」と言われて渋々退いた。

それでいいのか、結衣。


✳︎


5限目が始まろうという時に教室のドアが開いた。


中井さんだ。

彼女は眠そうに目をこすりながら自分の席に着く。


「……中井さん。もう5限目だけど?」


光ヶ丘くんが中井さんにそっと声を掛けていた。

周りには聞こえないくらいの声で。

けれど私にはバッチリ聞こえていた。

日々の盗み聞きの賜物だな。


「あら光ヶ丘くんおはよう。

昨日はお世話になったわ。ありがとう。」


「それはいいけど……。

結局あのあとどうなった?」


「気付いたら千川くんの家にいたわ。」


昨日何があったんだろう。

昨日、私は光ヶ丘くんと一緒帰った。

そのあと2人……と千川くんと会っていたの?なんのために?

何があったのかモヤモヤする。

でも多分、光ヶ丘くんは教えてくれない気がする。

たまに、光ヶ丘くんは謎めいた行動をするのにその理由を教えてくれない。

私は恋人なのに。


「恋ヶ窪、いるなら返事しろよー。」


「あ、はい!すみません!」


考え込んでいたらいつの間にか授業が始まっていた。

その後もなんとなく授業に集中出来ずに、いつの間にか帰り支度となっていた。


「恋ヶ窪さん、今日は予定ある?」


「えっ?あ、えっと……」


結衣を見ると、秋津くんと一緒にいた。

今日も2人でどこかに行くのかもしれない。


「特にないよ。」


「なら一緒に帰らない?」


「うん。」


光ヶ丘くんは微笑んでいる。

……いつもと変わらないなあ。

何かあったとは思えない。


「どうかした?」


「う、ううん。

なんでもない!」


「……ならいいんだけど。」


光ヶ丘くんは私の指先を軽く握った。

それに鼓動が高鳴る。

手、繋ぐのかな……。

けれど光ヶ丘くんはそれ以上は触れず、少しだけ掴まれたままだった。


「そういえば兄貴、また清瀬さんとの約束反故にしたみたい。」


「そうなの?」


「助かったよ……。

兄貴の彼女が清瀬さんなんて悪夢だし……。」


「でも楽しそうじゃない?」


「冗談でしょ?」


……本当にいつもと変わらない。

考えすぎかな……。


私と光ヶ丘くんが校門を出て、しばらく歩くと大きな黒塗りの車が停まっているのが見えた。


「……あれ?

ちょっとごめん。あれ俺の家の車に見える。」


光ヶ丘くんがその車に駆け寄ると、側にかっこいい男の人と鷺ノ宮さんがいた。


「……沼袋さん、鷺ノ宮さん。」


このかっこいい人は沼袋さんというらしい。

人のこと言えないけど、すごい苗字……。


「あっ、翡翠くん。」


翡翠くん。

そういえば鷺ノ宮さんってずっと光ヶ丘くんのこと名前で呼んでる。

私も翡翠くんって呼びたい。


「……どういう組合わせ?」


「嫌だなあ、ただ困ってるみたいだから助けようと思って声掛けてただけ。

ね、沼袋さん。」


「……ええ。」


「沼袋さん、どうしてここに?」


「お父様から連絡が来ていませんでしたか?

マジュ様のことで少々……。」


光ヶ丘くんは、マジュという名前を聞くと顔色が少し変わった。

真剣な目で沼袋さんを見る。


「すぐ戻るべき?」


「可能であれば。」


沼袋さんは少しだけ困った顔で私をチラッと見た。

私に気を使っているようだ。


「……そう。

恋ヶ窪さん、乗って?送るから。」


「え、いや、いい。

大変なんでしょ?私電車で帰る。」


「でも、」


「いいから!」


自分でも驚くような大きな声を出していた。

光ヶ丘くんも驚いた顔をする。


光ヶ丘くんの負担になりたくなかったのに、逆に負担をかけてしまった気がする。


「あ、や、あの、気使わないで?

今日雨も降ってないし。」


「恋ヶ窪さん……。」


光ヶ丘くんに辛そうに名前を呼ばれ、余計に焦る。

どうしよう、面倒な女だと思われたかも。

でもどうしようもなくて、私は鷺ノ宮さんに助けを求めていた。


「鷺ノ宮さん、一緒に帰らない?」


「う、ん。

依澄待つけどいい?」


「もちろん。

あ、じゃあ私たちこれで。あの、光ヶ丘くん、また明日。」


私は笑顔を作って光ヶ丘くんに手を振った。

引きつってなかったかな。大丈夫かな。


「……また明日ね。気を付けて。」


光ヶ丘くんは寂しげに微笑んで車に乗り込んだ。

ああ、やっちゃった。


「……恋ヶ窪さん、大丈夫?」


「……どうしよう……。嫌な奴だと思われたかな……。」


「大丈夫だよ!気にしてないって!」


鷺ノ宮さんは励ますように明るい声を出す。

それがなんだか申し訳なくて、余計に辛くなった。


「あの沼袋さんって格好良くなかった?」


鷺ノ宮さんは落ち込んでいる私に気を使って別の話題を振ってくれる。


「うん。かっこよかった。」


「だよね。

あの人幾つなんだろ……。結婚してるのかなあ……。」


30代に見えた、と答えてふと思う。

鷺ノ宮さんはどうして沼袋さんといたんだろう。

車に乗ってた人が困ってるなんて分からない気がするけど……。

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