こども
倫理観の無い人が出てきます
千川夕間は停学になった。
うちのクラスで2人目だ。
こうなるから嫌だったのだ。
こんなことで停学になって。
元々見た目が不良っぽいからと言う理由で先生から目を付けられてるというのに。
私は千川邸に訪れていた。
バカみたいにデカイ家。我が家もそうだが。
さすが日本有数の大企業なだけある。
「クラスメイトの中井です。
千川くん……夕間くんはいらっしゃいますか。」
「ええ、いますよ。
どうぞお入りください。」
……この使用人は入ってまだ日が浅いのだろう。
でなければ私を家に入れたりなどしない。
都合のいいこと。
使用人は滑らかな仕草で廊下を進み、夕間の部屋まで案内した。
「夕間さん。お友達がいらっしゃいましたよ。」
「はあ?」
夕間は扉を開けながらこちらを睨みつけた。
……睨んでいるつもりはないのだろうが、何せ目つきが悪い。
彼の口元に赤い傷口が見えた。
喧嘩の痕だ。
「な、かい?」
「遊びに来たよ。」
「なんでいんだ、っ、部屋入んなよ!」
勢いよく扉が閉められる。
私は使用人に「案内ありがとうございます」と言って追い払った。
夕間の部屋のドアを開ける。
……汚い。
脱いだ衣服や本はその辺に散らかっているし、制服もハンガーに掛けられることなく机に無造作に置かれていた。
「入んなっつっただろ!?」
「お邪魔します。」
「聞けよ!」
夕間は慌てた様子で脱ぎ散らかされた衣類をかき集めている。
その足元には、水着の女性の雑誌が置かれていた。
「驚異のKカップねえ……。
確かに凄いわ。」
「は?」
彼は私の視線に気付いたのか、物凄い早さでそれを拾うと丸めてゴミ箱に投げ入れた。
「あらいいの?お世話になってたんじゃない?」
「……うるせえ……。
っていうか、出てけよ。」
「そうね。片付いたら呼んで。
……ちなみにあなたのオカズはそことそことそこにあるみたいだけど、隠すなら早めにね。」
私は『爆乳女教師~放課後レッスン~』と、『巨乳コスプレイヤー桃子の秘密のイベント』と、『デカパイメイドのご淫らなご奉仕』を指差した。
アダルトビデオとグラビア雑誌だ。
爆乳女教師という単語にノスタルジーを感じる。
「胸が大きいのが好み?」
「違う!とにかく出てってくれ!頼むから!」
夕間は顔を真っ赤にして私の肩を押した。
意地悪しすぎたか。
「廊下で待ってるから早くしてね。」
彼は何も言わず私を追い出すとドアを閉めた。
ドア越しに「机の上にあるものもちゃんと片付けといたら」と声かけた。
ガチャンガチャンと何かが落ちる音がする。
恐らくは洗濯済みの下着の存在を忘れていたのだろう。指摘されて大慌てのはずだ。
それにしても黒のボクサーとは。大人になったものだ。
昔は白のブリーフだったのに。
「爆乳女教師ねえ……。」
あれだけ巨乳で揃えておいて胸が大きいのが好みでないなんてことあるだろうか。
そういえば夕間の彼女だと言っていたあの女も胸が大きかったな。
自分の胸を見ると、平野のごとく真っ平らだった。
約10分後。
夕間は疲れ切った様子でドアを開けた。
「……入れよ。」
「ちゃんと片付けた?巨乳コスプレイヤー桃子。」
「忘れろ。」
夕間は耳まで赤くなっている。
そんなに恥ずかしがることじゃないだろう。
健全な男子高校生なら持っていて当たり前のものなはずだ。
我がクラスで持ってないのは光ヶ丘と拝島くらいだろう。特に拝島は田無のことを盗撮しているし、巨乳コスプレイヤーなんぞにかまけている場合ではないようだ。
「別にあなたが巨乳好きでも構わないよ。」
「違う。」
「ならどうしてあんな巨乳ばっかりなのかしらねえ。」
「………………………………全員おんなじ人だから。」
ああ、そういうことか。
さすがにさっきの一瞬で顔までは見ていなかった。
「そう。桃子が好きなの。」
夕間は返事をしなかった。
私から背を向けたままだ。
私は部屋の入り口に立って夕間を見つめた。
大きくなった。鍛えているのだろう。
ダンベルがベッドの横に転がっているのが見える。
「……適当に座れよ。」
夕間は自分のベッドに腰掛けた。
どこに座れというのか。床?
「いいわ。長居するつもりないから。
……それよりどうして停学になったの。」
「売られた喧嘩を買っただけだ。」
「いつもは買わないくせに。
あの3人に私のこと何か言われたの?」
サッカー部のはみ出し者。
自分たちが優れていると勘違いしている愚か者ども。
「お前は関係ねえよ。」
「なんて言われた?クソビッチとか、淫乱とか?」
まただんまりだ。
それじゃ肯定と変わらないというのに。
「本当のことだから、いちいち腹を立てる必要はないよ。
今後もこういうことがあるでしょうけど、相手しないでいいから。」
「本当のことじゃねえだろ。」
「13歳で妊娠しておいて、清廉とは言えないでしょう。」
夕間はまた黙った。
「言いたいのはそれだけ。
もう喧嘩なんてしないで。それが私のためだって言うなら本当に迷惑よ。虫唾が走る。
じゃあね。」
「…………お前は悪くないだろ。」
「……どういう意味。」
「悪いのはあのクソ教師だろ。教え子に手出したあいつが。
なのにお前がどうしてあれこれ言われなきゃなんねえんだよ。」
夕間は三白眼で私を睨みつけた。
クソ教師。全くその通りだ。
「今更どうにも出来ない。
あなたの言う所のクソ教師はもう死んだし、もう終わり。
あなたには関わりのないことよ。」
あの顔を思い浮かべるとズンとお腹が鈍く痛んだ。
あのことを思い出すとお腹が痛む。
私が13歳のときに、教師になりたての男が担任の先生になった。
先生は優しかった。
分からないことがあるとなんでも教えてくれたし、話は面白い。
私は先生が好きだった。憧れていた。
そして先生も私が好きだった。欲情していた。
先生は小児性愛者で、私は学校の中でも一際小さく、中学生だというのに小学生に間違われることもあったほどだったからだ。
彼は私を抱いた。
私は特に抵抗もしなかった。
気持ち悪いと少し思ったが、憧れの先生だったから構わないかと思ったのだ。
それの意味は分からないほど純粋ではなかったが、それの重大さがわかるほど賢くもなかったのだ。
私はアレが好きではなかった。痛いし、先生はアレの間私の体についてあれこれ言ってきた。
けれど先生はアレが好きだった。
隙あらばしてこようとしてきた。
アレが八回行われたあと、私は妊娠した。先生の子供だった。




