表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/37

遥か彼方にさようなら

光ヶ丘くんと恋ヶ窪さんは部屋を出た。

私は拝島遥と向き合う。

彼はベッドサイドに手錠で繋がれた状態だ。

とは言え怖いので、手の届かない距離に座る。


「……別にこんなことしなくても、もうお前に何かする気はねえよ。」


「信じられると思う?」


「……思わない。」


お互いの間に沈黙が流れる。

なんだかおかしなことになってしまった。

拝島遥は窓の方を見つめていたが、やがてゆっくりとこちらを向いた。


久しぶりに拝島遥の顔をじっくり見る。

……正直なところ、かっこよくなったと思う。

しかしそれが彼の恐ろしさを助長させていた。


「お前さ、そんなに光ヶ丘が好き?」


「……は?」


「あいつ彼女いんだろ。……頭おかしいけど、お似合いの。

諦めろよ。」


「私光ヶ丘くんのこと好きじゃない。」


姉の結婚相手を探してもらっている手前、嫌いとは口が裂けても言えないが。

でもやっぱり恋ヶ窪さんへの態度は気持ち悪いとは思う。


「ああ、メロンよりは好きだっけ?

……好物だよな、メロン。」


「いや全然。

昔は好きだったけど、食べ過ぎて飽きたんだか今は顔も見たくない。」


「……は?」


拝島遥はぽかんとした表情のあと、空いてる手で髪をガシガシと掻いた。


「…………そうか、アイツわざと……。やっぱいけ好かないな。光ヶ丘。」


「……光ヶ丘くんの話はどうでもいい。

どうして殴りかかるような真似をしたの?

……というか、なんで私のことあんな、虐めてきたの?」


拝島遥は黙った。

答えに詰まっている。


「……答えたくない……?

私、拝島くんの所為でどんなに辛かったか……!

大体どうしてあの学校受けたの……?」


「お前がいるからだよ。」


拝島遥の冷たい声が耳に響いた。

私がいるから?そんな……。


「まだ虐め足りないってわけ……?

……わかった。もういい。好きなだけ虐めればいいよ。

私、別の学校に編入するから。」


「ハア?何言ってんだよお前。」


「拝島くんがいる教室に入りたくなんかない!」


「また俺から逃げる気か!」


拝島遥は憎々しげに私を睨んだ。

またって、中学の時のことを言っているのか?


「……当たり前でしょ。

あなたがいない空間がどれだけ素晴らしいか……。」


「……絶対追いかけてやる。

俺から逃げられると思うなよ……!」


拝島遥の目はそれは恐ろしいものだった。

目だけで人を殺せる。

嫌だ。もう嫌だ。こんな化け物から離れたい。

恋ヶ窪さん、助けて。

しかし恋ヶ窪さんに助けを求めるよりも前に拝島遥の腕に囚われていた。


言い争っている内に、いつの間にか彼の手の届く場所に身を乗り出していたようだ。


「離して……!やだ!」


「離さない。誰が離すか。」


拝島遥の腕は私の腰をがっしり捉えている。

逃げられない!

声をあげたくても、あまりの恐怖で喉が引きつって上手く声が出せなかった。


「嫌だ……!拝島くん……!」


「遥。」


「……え?」


「昔みたいに遥って呼べよ、依澄。」


拝島遥の顔は先ほどと違って苦しげだった。

今にも泣きそうな……。

泣きたいのはこっちだというのに。

けれど、だからなのか、私は思わず彼の名前を呼んでいた。


「は、はるか……。」


「もう一回。」


「…………遥。」


拝島遥は私の肩に額をつけた。


「……昔は仲よかっただろ。

名前で呼び合って、いつも一緒にいた。」


「そんなことない!

いつだって遥は私を虐めてきた!

私のおもちゃ壊すし、友達と遊ぶとその子に乱暴して、私に友達が出来ないようにした!」


「それは依澄が俺より大事なものを作るからだ。」


「なにそれ……。」


「俺が1番だって言ったくせに……!」


ふと昔のことを思い出した。

幼稚園が始まる前の、本当に幼い時は遥と仲良しだった。

遥と私は家が近所で、いっつも遊んでいた。


ある時、クマのぬいぐるみを親に買ってもらい、それを宝物だと遥に見せたら遥はそのぬいぐるみを取ってしまった。

返して、と頼んだら「依澄が俺と遊んでくれなくなるからダメ」と言った。

その時に私はこう答えたのだ。

「遥が1番だから、遥がいないときはそのぬいぐるみで遊ぶけど、遥がいる時は遥とずっと一緒にいるよ」と。

幼い私は本気だった。


けれどいつの間にか、遥は私を虐めてくるようになり、私はそれが恐ろしくて堪らなかった。

遥は友達なのに、どうしてこんな酷いことばかりするのだろうと。

私は遥を遠ざけるようになった。

けれど遥は私にしつこくまとわりつき、意地悪ばかりしてきた。


どうしてそうなってしまったのだろう。


「遥が悪いんじゃん。

遥は虐めてばっかり。やめてって言ったのに!何回も!」


「俺が話しかけても無視してきた!

気を引こうと必死で……。」


「それは遥が虐めてくるから関わりたくなくて……!

それどれだけ怖かったと思ってるの!?私学校行けなくなったんだから!」


本当に怖かった。

段々遥の体は大きくなるし、日に日に力も強くなった。

なのに遥は私に手加減など一切しなかった。


「遥なんか嫌い……!」


私は泣いていた。涙がドンドンと溢れてくる。

小学校時代、私は惨めだった。

友達を作ろうとすれば遥に阻止されるのに、遥は意地悪しかしてこない。

孤独だった。

先生に相談しても状況は改善されず、遥と同じクラスにしないで欲しい、席を離してほしいと頼んでも必ず同じクラスにされた、席は近くだった。


だから学校に行かないことにした。

2年間も。学校に行かないとより孤独になっていった。

家に来るのは遥だけ。

その遥は変わらず虐めてくるだけ。


「大っ嫌い……!」


「……わかってる。」


遥は私を抱き締めた。

なにがわかってるだ、なにもわかってないくせに!


「離して!恋ヶ窪さん呼ぶよ!」


「わかってるよ。

お前が俺を嫌いなことぐらい。

俺はお前に好かれないって気付いたから、だからいっそ憎んでもらいたかった。

お前が俺を憎めば憎むほど、お前の中に俺の居場所ができるんだ。」


「……は……?」


「依澄のことが好きだよ。この世で1番、会った時からずっと。

でも依澄は違う。依澄はどんどん友達を作って、俺がどんなに必死で引き止めても俺から離れようとした。

……俺はこんなにもお前が好きなのに……。

だから俺は決めたんだよ。

お前に嫌われようってな。

聞いたことないか、嫌いは好きの一種だって。

どんな形でもいいから、お前に俺を好きになってもらいたかった。」


頭が回らない。

遥が、あの人を惨たらしく虐める遥が私を好き?

だから虐めてきた?どんな思考回路してるんだ。


「……なに、言ってんの?

まさか、あんたに告白されて私が喜ぶと思ってる?それで私を笑い者にするつもり?

言っておくけど遥に告白されて喜べるほど……」


「そんなわけない。俺は本気だよ。

本気で依澄が好きだ。」


遥の目は鋭くて強かった。

背筋がゾクッとする。

このまま何かされてしまいそう……。


「は、離して!」


叫ぶと体が軽くなった。

遥が私から体を離したのだ。

私は慌てて立ち上がり、遥から距離を取る。


「……私、遥のこと好きにならないから。

この世で1番嫌い。」


遥は無表情で私を見た。

が、その目はギラギラと輝いている。


「……でもそれが遥を喜ばすなら私は許すよ。

今までの行いを無かったことにする。

遥は私にとってただのクラスメイト。私を虐めてたことなんてなかった。」


「い、ずみ。」


「さようなら、拝島くん。」


その言葉を吐き捨て、部屋を出た。

なんでこんなことに。

疲労感を感じつつドアを開けると、恋ヶ窪さんがバールを持って無表情で立っていた。


「ヒッ!恋ヶ窪さん……」


「何回か入るべきかなって思ったんだけど言い返せてるから平気かな……って。

平気じゃなかったね……。ごめん。」


「え?平気だよ。」


確かに何度か助けてくれ!と思ったが、結局何もされずに済んだ。


「……これ。」


恋ヶ窪さんが私にハンカチを渡してきた。

そうか、私泣いてたから。


「ありがとう。

感情が高ぶって思わず……。」


「わかる。

子犬とか見ると泣いちゃうよね。」


「それはわからないけど……。」


「光ヶ丘くんが外で待っててくれてるんだ。行こう。」


私は遥の部屋を見た。

出てきそうな気配はない。


馬鹿な遥。

私のこと好きなら虐めたりなんかしなければ良かったのに。

そしたら今頃お互い想いあっていたはずだ。

だって昔から遥が1番なのだから。


外に出ると光ヶ丘くんが駆け寄って来た。


「話し終わった?」


「うん。

2人とも今日はありがとう。」


「いえいえ。

それで結局イジメの原因ってなんだったの?」


「あー……。

小学生男子にありがちなやつかな……。

しょうもない理由だった。」


「掴みかかって来たのはどうして?」


そういえばどうしてなんだろう。

聞くのを忘れていた。

でも今ならなんとなく想像がつく。

私が「さようなら拝島くん」と言ったのが嫌だったのだ。

他人扱いされたことが。


「それもくだらなかったな。

……でも私も少し悪いから。」


彼の気持ちに気付かず拒否し続けた。

もし受け入れていたらここまで拗れなかっただろう。


「何があろうと、手を上げた方が悪いんだよ。」


恋ヶ窪さんは笑った。

そう思うならバールを持ち出すなよ。


「……そういえば拝島くんって今手錠で繋がれたままだよね。」


「……あ。」


「……まあいいか。」


「鍵渡して来たら?」


「いや、あれ100均のオモチャだからすぐ外せるよ。

ちょっとコツいるけど。」


外せるとわかるなら、とっくに外してた気がするが……。

まあいいか。


私は空を仰いだ。

爽やかな空だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ