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悪魔の館

やって来ました、拝島遥の家!

さてさて、今日はどんな夕食を作っているんでしょうか、早速見に行って見ましょう!


「今の時間だと夕食はまだなんじゃない?」


「……こうでもしないと動けない……。」


何せあの拝島遥の家だ。

あの私を散々イジメ抜いた拝島遥の家。

ここで怖気付いてはいけない!

私は拝島遥と決着をつけるのだ!

さあ、インターフォンを押して……押し……押せない……。


「俺が押すね。」


「さすが光ヶ丘くん。」


光ヶ丘くんはためらいもなくインターフォンを押した。

……誰も出ない。

誰かいないのか?


「いないのかな。」


「自宅謹慎の身でありながら外に出るなど言語道断。

もういっちょ。」


……やはり誰も出ない。


「買い物に行ってるのかもよ。」


「せっかくここまで来てそれはないよ。

ポチッとな。」


光ヶ丘くんは間を置きながら何度もインターフォンを鳴らす。

7回鳴らした時、やっと返事が返って来た。


「はい。」


うわあ、拝島遥の声だ。

奴1人か。

光ヶ丘くんに付いて来てもらったのは正解だった。


「あ、ほらいた。

どうも、光ヶ丘ですけど。」


「なんの用だ。」


「田無さんが話があるんだって。

中入れてくれない?」


ガチャンとインターフォンが切れた。

やっぱり無理だったか。


「無理っぽいね。帰ろう。」


「まさか。」


光ヶ丘くんは玄関先から動こうとしない。

今日で用事を済ませてしまいたいのだろう。

でもなんかもうどうでもよくなってきた。


「もういいよ。ありがとう。」


「まあまあ。

拝島くん今着替えて迎える準備してるだけかもしれないじゃん。」


「どうかな……。」


あの感じだと帰れ!って意味だと思うが。

私は光ヶ丘くんの腕を引いた。

くっ、意外に力があるな!びくともしない!


「ほら!ありがとうございました!電車代あげるから!うちに来て!」


「そっか、田無さんの家もこの辺りなんだもんね。」


「そうだよ!めっちゃ綺麗な魚もいるよ!おいで!」


「なんでそんなに帰りたがるかな……。

決断したのは自分だよね?ちゃんと決別して、もうイジメられないようにしなよ。」


全くその通りだ。

言い返せない。


「……でも。」


「何やってんだ。」


パッと顔を上げると、拝島遥がそこにいた。

恐ろしい。

成長するにつれて体格が良くなっている。

何人の人間を殴り殺したことか。


「上がっていいみたいだよ。

田無さん手離して。」


「う、ん。」


「痛い痛い!なんで力込めるの!?

腕が千切れちゃうよ!」


「あ、ごめん。緊張のあまりつい……。」


私は慌てて光ヶ丘くんの腕から手を離す。

光ヶ丘くんは恨みがましくこちらを見ていた。

そんなに力込めたつもりはないんだけどな。


「……なんの用。」


拝島遥の悪魔の声が降りかかって来た。

心なしか顔も悪魔のような恐ろしげな表情になっている。


「……話があって。」


「光ヶ丘はなんでいるわけ?」


「ボディガード。」


こんな貧弱なボディガードも無いが、盾くらいにはなるだろう。


「……入れば。」


「お邪魔します。」


光ヶ丘くんはのん気に挨拶なんてしている。

馬鹿だ。ここは悪魔の住処。のん気にしてるとぶっ殺されるぞ。


「大きい家だね。

家の人はいないの?」


「いたらインターフォン1回目で出てる。」


「ああ、確かに。」


私は今にも気絶しそうな気持ちで悪魔の家に足を踏み入れた。

懐かしい。昔はよく来てたな……。イジメられるとわかっていながら遊びに行くのはなんでなんだろう。


拝島遥は二階に上がった。

光ヶ丘くんもそれに続いている。

……自室で話すのか……。


拝島遥の部屋は殺風景だった。

ベッドに机。あとタンス。


「それで、話って?」


「……あの時私に掴みかかって来たのはなんでなの?」


私はあの時拝島遥から逃げようと必死だった。

「さようなら!」とそう言っただけなのに。


「……光ヶ丘の前では話せないな。」


「まさか田無さんと君を2人きりにするとでも?

そんなことしたら、田無さんどんな目にあうやら。」


「光ヶ丘くんは置物だと思って……」


「無理に決まってんだろ!」


拝島遥の大声に体が震える。

怖い!まともに会話することすら出来ないのか!


そうだ、拝島遥はいつもこうだった。

気に入らないことがあるとすぐに手をあげる。大声で怒鳴る。

私が友達と砂場で遊んでいたら砂の城をぶち壊し、私のリカちゃん人形をボロボロにし、私のケーキを食べ、私のゲームを盗み、私の髪を燃やしてきた。


拝島遥と顔を合わせたくなくて小学校を休むと、彼は必ず家まで押しかけてきた。

挙句、お前みたいな馬鹿が学校休んだら授業について来られなくなるぞ!などと罵っくるのだ。お前がいるから学校に行けないんだろう!!

拝島遥が嫌で嫌で堪らず、中学校は公立の家から離れた学校に通うことにした。

ああ、中学校3年間はとても良かった。

何と言っても拝島遥がいないのだから。

一度彼に捕まって公衆の面前で罵られたこともあったが、防犯ブザーを鳴らしてことなきを得た。


なのに、高校でなぜ再会してしまったのか。


「田無さん?大丈夫?」


「あ、うん。大丈夫。」


「拝島くんが大声出すから。

やっぱり2人きりには出来ない。」


「光ヶ丘お前、調子になってんなよ。」


拝島遥……なんて恐ろしい。

しかしもっと恐ろしいのは光ヶ丘くんか。

彼に詰められてもどこ吹く風。

堂々としたものだ。


「これじゃ話になんない……」


その時インターフォンが鳴った。


「出たら?」


「どうせセールスだよ。」


しかし、インターフォンは鳴り止まない。

3秒起きくらいに鳴らされている。

なんてうるさい、そしてしつこいんだ。


「絶対セールスじゃないよ。」


拝島遥は苛立った様子で部屋のすぐそばにあったインターフォンの受話器を取った。


「しつこいんですけど!

……恋ヶ窪さん?なんでここに……」


恋ヶ窪さん。

その名前を聞いた瞬間、光ヶ丘くんは飛び出した。

お前、ボディガードだろ!2人きりにしないって言っただろ!


「恋ヶ窪さん!?」


「光ヶ丘くん!良かった!無事なんだね!」


本当に恋ヶ窪さんだ。

私と拝島遥は部屋を出て階段脇で玄関を見た。

なんでここにいるんだろう。


「恋ヶ窪さん……なんで俺の家知ってんの?」


「後つけてきたから。」


彼女はエヘヘとはにかんだ。

いつ?誰の?


「光ヶ丘くんが酷い目にあってるんじゃないかって心配で……。

あ、勿論田無さんもね!」


「は、はあ……。」


「危ないからついて来ちゃダメだよ!

というか、先生に拝島くんに近づいちゃダメって言われたよね?また喧嘩になるからって!」


あれは喧嘩というよりは一方的な暴力だったような……。


「ああ、うん。

私も拝島くん怖いし危ないと思ったから、バール持って来たんだ。」


「バール……。」


「そう、手頃だから。」


恋ヶ窪さんは鞄から錆びたバールを取り出し、ブンブン振った。

どうしてそんなものが鞄に?


「いや、違うよ恋ヶ窪さん。

この場合危ないのは拝島くんの命の方で、恋ヶ窪さんの方ではない。」


「っていうか殴る前提で俺の家来るなよ……!」


拝島遥は恋ヶ窪さんに殴られた時の痛みを思い出したのか、引きつった顔をしている。

……拝島遥のこんな顔が見られるなんて!


「どうも、拝島くん。

お陰で反省文書かされちゃったよ。」


「お前が俺を消火器で殴らなければいいだけの話だろ!」


「お邪魔します……。」


恋ヶ窪さんは恐る恐るといった様子で悪魔の家に入って来た。

すごい、恋ヶ窪さんってすごい。

全然拝島遥のこと相手にしてない!


「で、どうして光ヶ丘くんと田無さんはここにいるの?」


「田無さんが拝島くんに話があるらしくて。」


「なるほどね。

じゃあ田無さんにはい。」


「え?」


スッと差し出されたのはハンマーだった。

またまたどうしてそんなものが。


「な、なにこれ?」


「危ないから。」


「いや……なんていうか……」


「光ヶ丘くんもいるかな……。」


再びバッグを漁る恋ヶ窪さん。

出て来たのは先の尖ったヤスリだった。

恋ヶ窪さんのバッグの中身は工具箱なのか?


「……俺はいいよ。」


「そう?

じゃあ拝島くんにはこれ。」


拝島遥にも渡すのか?それだと本末転倒……と思ったが、それは明らかに工具でなかった。

それはアロマオイルだった。


「イライラを抑えて欲しくて……。

お風呂とかで使って。」


「…………ありがとう…………?」


あの拝島遥がお礼を!?

恋ヶ窪さん、訳がわからないけどすごい人だ……。


「恋ヶ窪さん、俺も欲しい。」


「あっ、そうなの?

ごめん、アロマオイルはあれしか買ってなくて……。

後は清瀬さんに渡されたコンニャクしか渡せるものないなあ。」


「コンニャク?」


「よくわからないんだけど、人肌に温めて真ん中に穴開けてから、私だと思って使ってねって言って光ヶ丘くんに渡しせば良いって言われて。」


清瀬さん……。最低だよ……。


「あー、なんで清瀬さん死なないんだろ。

まあいいか、それは俺いらないや。」


「コンニャク嫌い?」


「俺が嫌いなのは清瀬さんだよ。」


心中お察しします、としか言えない。


「なら家で食べるか……。

じゃあ準備も整ったし、拝島くんを再起不能に……」


「待って!そんなことしないでいいから!」


このバカップル、何故すぐに再起不能にしようとする。

それは話し終わってからにしてくれ。


「……とりあえず、俺の部屋来いよ。

もう何が何だか……。」


拝島遥は頭を掻きながら自室に戻っていく。

恋ヶ窪さんはすかさずその後ろ姿にバールをかざすも、光ヶ丘くんが真顔で止めていた。

……なんなんだろう、本当に。


「……それで、田無さんは拝島くんに何の用があるの?」


恋ヶ窪さんは拝島遥の部屋に入るなり切り出して来た。


「だから、拝島くんがなんであんなことしたのかってことを聞きたくて。」


「本人に直接……。

LINEとかじゃダメなの?」


「知らないし。」


それにこういうことは顔を見て話すべきだと思った。

何故あの時掴みかかってきたのか。

今まで何故虐めてきたのか。


「それで、どうしてなの?」


「悪いがお前のクソッタレ彼氏の前では話したくない。」


恋ヶ窪さんは再びバールを取り出した。

この人すぐ暴力に訴えるな……。


「恋ヶ窪さん!

いくら拝島くんが無礼で口が悪くて暴力的で最低の人間だからって、まだ殴っちゃダメだよ!

田無さんの話し合いが終わってから、ね?」


「あっ、そうだよね……。

ごめん、私、カッとなって……。

ありがとう。私また殴っちゃうところだった……。」


恋ヶ窪さんは頬を染めながらバールを下ろした。

が、しっかりその手に握ったままだ。


「……恋ヶ窪さん、バール仕舞わない?」


拝島遥はおずおずと提案した。

彼からしたらいつ殴ってくるかわからない相手を部屋に入れてしまって、気が気じゃないのだろう。


「え?言ってる意味がよくわからないな……。」


「なんでだよ……。

光ヶ丘も言えよ。」


「恋ヶ窪さん、バール仕舞おっか。」


「わかった。」


恋ヶ窪さんはすんなりバッグにバールを仕舞った。

露骨だな……。


「あ、ねえ、思ったんだけどさ。

拝島くんがそんなに光ヶ丘くんのこと嫌なら光ヶ丘くんは帰ればいいよ。代わりに私が部屋の外にいるから。」


恋ヶ窪さんがとてもまともな提案をした。

嘘でしょ、3秒前までバール持って脅してたのに。


「ダメだよ!

拝島くんが手のつけられないほど暴れたらどうするの!?」


「俺は猛獣か?」


「大丈夫だよ。

手錠も持って来たから。」


「は?」


恋ヶ窪さんはバッグから手錠を取り出した。

わかった。恋ヶ窪さん、勉強するために学校行ってないね。

リンチするために学校行ってるのかな?


「これで拝島くんをベッドサイドに縛っておこう。」


「……俺は猛獣か?」


「なるほど、いい考えだね。」


いい考えかなあ……。

拝島遥は今にも喉元に噛み付いてきそうな顔をしているが……。

しかし結局拝島遥はこの提案を飲んだ……というか、「ならバールで大人しくさせるしか……」と恋ヶ窪さんが脅したので飲まざるを得なかった。


「じゃあごゆっくり。」


「どうも……。」

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