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この恋を繋ぐのは死

「今日は楽しかったね。」


「うん。

ありがとうね〜。」


その後合流した小平さんと萩山くんと一緒に水族館を後にする。

初めてのデートは大成功じゃないだろうか。

とっても楽しかった。

キスもしてしまった。


「あれ?憲一は?」


「………………ああ、萩山くんか。

どこだろう?」


「トイレだって。

俺もちょっと行ってくる。」


「いっといれ〜〜。」


光ヶ丘くんが見たこともないくらい冷たい目で小平さんを見た。


「わ、私は面白いと思うよ。」


「……ありがとう。」


小平さんは儚げに微笑んだ。

傷口に塩を塗ってしまったかもしれない。


「こ、小平さんって萩山くんのこと名前で呼んでるんだね!

い、いいね!カップルっぽくて!」


私は無理矢理話題を逸らした。


「うん、憲一。

憲法の憲に1番2番の一だよ。」


萩山 憲一?

どこかで聞いたことがある気がする。

同じ学校だからじゃなくて、テレビとかで……。

それもつい最近。


……違う。萩山憲二くんだ。

私が、私たちが知っているのは。


一年ほど前、西武白獅子病院で医療ミスがあったとニュースがあった。

なんの病気だったか、私は覚えていない。

ただ、憲二くんに使用期限の切れた薬を多量に投与されたと聞いた。

病院側はこれを否定したが、家族は怒り裁判を起こした。

しかし結果は敗訴。

そう、何ヶ月か前にニュースでやっていた。


「…………萩山くんって……お、弟いる?」


「いたよ。」


「……小平さんのお家って、病院だよね。

私が入院したとこ……。西武白獅子病院……。」


「そうだよ。」


「萩山くんは……萩山憲二くんのお兄さん?」


小平さんは笑っていた。

私は寒気が止まらない。


「そう、憲一は西武白獅子病院に殺された萩山憲二くんのお兄さんだよ。」


やはりそうなのだ。

これは偶然なのだろうか。


「そんな……。

萩山くんは、小平さんの家のこと知ってるの?」


「当たり前じゃん。憲一がこの学校に入学したのもその為なんだから。」


「どういう意味?」


「憲一は父に復讐するためにあたしと付き合ってるの。」


復讐?


「あたしをどうするつもりかは知らないけど。

優しくしといてこっ酷く振るとか?妊娠させて捨てるとか?それとも殺すとか。

そうやって間接的に父を傷付けたいんだよ。

直接対峙は負けちゃったからね……。」


「そんなまさか!

小平さんのお父さんが憲二くんを殺したわけじゃないじゃない!」


そもそも本当に医療ミスがあったのか。

敗訴の理由だって医療ミスがあったか証明できなかったからじゃないか。


「でもさ〜、医療ミスがあったのも、隠蔽したのも事実だよ?

あたし知ってるんだ。父が電話で色んな人に隠蔽工作手伝わせてたの聞いたから。

それにたっかい金積んで、勝訴にさせたみたい。

殺したくもなるよね。人の家族殺しておいて自分はなんの罪にも問われず笑ってるんだから。」


私は力が抜けていくのを感じた。

憲二くんが死んだのは本当に医療ミスだった。

なのに、それを証明できず敗訴となった。

萩山くんは許せなかったのだ。

だから小平さんと付き合って、復讐の機会を狙っている……。


「……小平さんはどうして萩山くんと付き合ってるの……?

何かされるかもしれないのに。」


「どうしてって、あたしも父が憎くて堪らないから。」


「……え?」


「……恋ヶ窪さんならわかってくれるよ。

父は外面はいいけど、家だとまさに暴君。

殴る蹴るは当たり前で、母はそれに文句言わない。

お陰で兄はうまく喋れなくなったし、生まれてくるはずだった妹も流れちゃった。

それでも、父はあたしたちを愛してるって言うんだよ。馬鹿みたい。


だから憲一があたしと付き合いたいって言ったとき嬉しかった。

憲一は父に復讐したいんだってわかったから。」


小平さんは私を見つめた。

私のお腹あたりを。

彼女はどうして私の父が暴君だと知っているのだろう。

彼女の家が経営する病院に入院したからではない気がする。


もしかしたら、同族だとわかったのかもしれない。私はわからなかったけれど。

こんなに綺麗な小平さんが父親に殴られているところを想像する。

何故父親というのは暴力しか与えないのだろう。


「お父さんの復讐のために付き合ってるんだ……。」


「厳密に言うと違うかな。

……好きな人と、同じ目的を成し遂げたいから。

好きな人が自分と同じ目的を持ってるだなんて、運命的じゃない?」


小平さんは奇妙に歪みゴツゴツした手で私の両手を持った。

穏やかな顔をしている。

これが復讐する人の顔。


「だから、絶対邪魔しないで。」


✳︎


「また学校で〜!」


小平は恋ヶ窪さんと光ヶ丘に大きく手を振っていた。

俺も少しだけ手を振る。

光ヶ丘に鋭く睨まれた。

恋ヶ窪さんだけじゃなくてお前にも手振ったんだよ。振り返せ!


「いやあ、お似合いの2人だね〜。」


「そうか?

氷と綿って感じするけど……。」


「正反対だからこそお似合いなんじゃんか。」


お似合いなのだろうか。

恋ヶ窪さんは利用されてる気がする。

光ヶ丘が誰かを好きになったりするところが想像できない。


とはいえ、待ち合わせの時に恋ヶ窪さんと話していたら覇王のような顔でこちらに来たのは驚いた。

嫉妬だろうか。怖いからやめてほしい。


「意外だよなあ。」


「そうかな?

結構わかりやすいよ。」


「恋ヶ窪さん?」


「恋ヶ窪さんはもちろん、光ヶ丘くんも。」


小平が笑う。

そのことに苛立つ自分がいた。

光ヶ丘と仲良いことに嫉妬している。


「光ヶ丘ってわかりやすいか?」


「うん。だってあたしとか清瀬さんとか中井さんとか睨まれっぱなしなのに、恋ヶ窪さんにはニコニコしてるし。

憲一もさっき睨まれてたよね。」


「めっちゃ怖かった。」


小平はまた笑った。

彼女はいつも笑っている。


俺は彼女を責めたくなった。

なに笑ってるんだ。

俺がなんの目的でお前と一緒にいるか知ってる癖に。


憲二が死んで一年以上経つ。

とてもそうは思えない。

今も家に帰れば憲二がいるんじゃないかと思う。

暴れん坊で、俺の物をよく壊した。

8歳の癖に小6相手に喧嘩してボロボロにやられたりもした。

とにかく元気で明るかった。

7つも下だったから、生意気でも許せた。


憲二がジャングルジムから落ちて骨折して運ばれたのがあの病院じゃなければ。

医療ミスなど無かったと言い切った小平の父親が憎かった。

無かったなんてよく言えるな。

俺たちは知っていたのだ。薬が過剰に投与されていたことも。使用期限が切れていたことも。

看護師どもがそう話しているのを聞いたのだ。

何故止めなかった。

全てが憎い。でも1番はやはり小平の父親だ。


金が欲しいんだろう。

子供の命を使ってまで搾取しようとするとはな。

恥ずかしくないのか?


侮蔑しきった目で俺たちにそう言ってきた。

俺たちが欲しいのは金じゃない。

罪を認めろ。謝罪しろ。

医療ミスを隠して経営を続けるお前こそ、金の亡者じゃないか。


「憲一?」


「あ、ああ。悪い。

お土産買い忘れたなって思って。」


「あ!忘れてた!」


小平が焦った声を出し、口元を押さえた。

小平の曲がった指。

本人は体育の授業中の怪我だというが、父親に潰されかけたのだと知っている。

だからなのか、彼女は手を繋ごうとしない。俺に触ろうとしない。


彼女はあの憎い男の娘なのだ。

こいつを傷付ければ自分の罪もわかるだろう。

同情する必要なんかない。

こいつを憲二と同じような目に合わせてやればいい。


「……また今度来ればいいよ。」


だと言うのに俺はどうしても彼女を傷付けられないでいた。

ミイラ取りがミイラになったのだ。


「えっ?」


「ほら、今回はイルカショー見なかったし、次は見たいじゃん。」


「うん……!」


小平の笑顔が眩しい。

こいつを傷付ければいけないのに。

憲二のために、両親のために。

だというのにどうして好きになってしまったのか。


俺は小平の手を握った。

曲げられた指の関節はゴツゴツとしている。


「あっ……。」


「……嫌、だった?」


「ううん。……嬉しいよ。」


いずれ必ず彼女を不幸にする。

でもそれまでは、こうして恋人のふりをしていよう。

その時までは。

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