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哲学的ゾンビは何も知らない

作者: 和銅修一

 彼は選択を強いられていた。

 とある研究施設に閉じ込めたこの五人の中にいるはずの世界の敵を殺さなくてはいけないのだが見分ける方法がない。

 哲学的ゾンビ。

 数年前に突如として出現した存在を我々はそう呼んでいる。というのも奴らは自分が世界を崩壊させているという自覚がない。それだけではなくどんな検査をしても普通の人間と変わらない。

 故に哲学的ゾンビなのだがこれが厄介でゾンビとはいってもこれは便宜上の呼び方で本当にゾンビというわけではない。

 包丁で刺したら死ぬし、高いところから落としたら死ぬ。つまりは哲学的ゾンビを殺してもそれが本当に哲学的ゾンビだったかを確かめる方法がないのだ。

 だが見つける方法はある。

 異変のある中心にいる人物、それが哲学的ゾンビのはずなのだが今回はその中心に五人もいたので仕方なくこうして全員捕らえ、密室空間に閉じ込めたのだがお偉いさんはこれでは実験もできないから手段は問わないから早々に処分しけ欲しいとのことだがどうも気が進まない。

 というのは人間的良心が働いてのことではなく、一人の研究員として折角捕まえた被験体をみすみすドブに捨てるような真似はしたくないだけに過ぎないのだ。

 だが、実験しようにもこの五人の中の誰が哲学的ゾンビか特定できていない以上実験のしようもないので彼らに放送でその中にいる誰かが誰かを殺せと提案してみた。

 もし運良くそれが哲学的ゾンビだったのなら世界の崩壊が止まる。それが観測され次第生き残った全員を解放すると懇切丁寧に説明してやったのだがそれは断られてしまう。

 理由は単純に殺しをしたくないという人間らしいものだった。そして誰も不自然な態度をとったものはおらず、やはり哲学的ゾンビには自覚がないのだと再認識できたがこの展開には困る。

 まず俺の存在を知られてしまったのに何の進展もないのがまずい。何人かここから出せとか自分は関係ないだの文句を言ってきたが哲学的ゾンビの話をしてやった途端黙り込んだ。

 嫌というほど知っているのだ。どれだけ哲学的ゾンビが世界の脅威なのかを。そしてその脅威が自分の近くにいる。空気が重くなるのは当然といえよう。

 なので、変化を与えてやる。

 哲学的ゾンビを殺したものには一生遊んで暮らせる金をやる、と吹き込んでやったのだ。

 人間とは浅はかで愚かな存在だ。餌を垂らせばそれに喰いつく。結果、空気は変わるがすぐに動くはずもなく一日が過ぎる。

 その一日で彼らの箱庭は修羅場と化す。

 文句を言っていた奴の片方、元暴力団関係者という男が死んでいた。

 犯行は夜、電気を消した後のようで誰も犯人の姿を見ていないらしい。ただ一人を除いては。

 そう、殺人を勧めたこの俺。監視カメラには赤外線サーモグラフィーが備わっており暗闇でも犯人は特定できる。

 言うわけないがな。

 犯人からしたら俺が言わない前提での行動だろう。勧めた本人が報告するなんて鬼畜以外のなにものでもない。

 第一、まだ世界の崩壊は止まっていない。つまり決死の覚悟で犯行に及んだのだろうがその男は哲学的ゾンビではないハズレ。

 実験(勝手に)をしている身としてはこれは助かったのだが俺の期待とは裏腹に団結して仲良くやろうという面白くない展開に進む。

 眼鏡をかけた如何にも頭の良さそうなインテリア野郎、実際医者でインテリアなのだが俺ほどではない。だって、一人殺してそれで失敗したら諦めるような奴だからな。

 狙いは俺の隙をついての脱走。

 どうやら俺を甘く見ているらしい。原因はあの一言か。俺が直接手を下すことはない、と断定しているらしい。

 確かに直接手を下すのは無理だ。直接は。

 あまり深くその部屋の構造を考えていないようだが逃げられないよう細心の注意を払い作られた部屋だ。蟻の子一匹通る隙間さえない。だがそれでは中にいる被験体が窒息死してしまう。

 流石にそれではまずいと通気口をと思ったがそれはフィクション作品ではよく逃走経路に使われる。なので小さな穴、小指が入るか入らないかくらいの小さな穴から空気を部屋に入れて調節するしているのだがこれには隠された機能があるのだ。

 それは酸素や二酸化炭素などを別々に噴射できるというもの、しかしここで部屋を二酸化炭素で埋め尽くして窒息死させるのかと思う人は多いかもしれないが残念ながら二酸化炭素は残り少ない。

 ならばどうするか? 酸素を大量に入れる。ただそれだけ。

 酸素と聞いてそれで人が死ぬのかと疑問を抱くだろうが長期にわたって酸素のみを取り込みと酸素中毒になり、最終的には死に至る。

 つまり間接的に殺せるのだ。

 そろそろ哲学的ゾンビをここに留めていたせいでこの周辺が崩壊する。それだけは一人の研究員として、一人の人間として避けなくてはいけない。

 何か眼鏡の医者が企んでいるようだがもう遊びは終わりだ。小煩い餓鬼がいようと、女がいようと、男の癖に女の格好をしている奴がいようと関係ない。俺はそのボタンを押し、彼らに平等の死を与えた。

 誰が哲学的ゾンビなのかを知ることなく。






「結局、世界を救う為に全員を殺したか。普通の人間と変わらん実につまらん結果だな」

「仕方ありませんよ。哲学的ゾンビは無意識に世界を崩壊に導いているだけでそれ以外は普通の人間なんですから。でも、僕らと同じ研究員だなんてあまり気が進みませんね」

「気にすんなよ。実験を円滑に進める為の偽の記憶だ。それとここじゃあそんな優しさ邪魔になるだけだぜ。お前の上司みたいに冷酷にならなきゃいけねえぜ」

「貴様はさっさとあれを睡眠ガスで眠らせて次の実験場に運ぶ手はずを済ませろ」

「お〜、くわばらくわばら。言われなくても仕事はするさ。全人類の為だもんな」

「全人類……、本当に僕たちだけで救えるんでしょうか?」

「この実験で哲学的ゾンビの見分け方、もしくは弱点か何か発見できたら救えるだろうな」

「でもあの被験体は救われませんよ」

「感情移入をするな。今後に支障をきたすぞ。それに少ない希望に未来を託している俺らより何も知らずにいられるあいつの方が幸せかもしれんぞ」

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