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初期練習作(短編)

昔の名残

 この地域には、昔から戦争が多かった為か、

いくつもの古い城が点々とある。

ある城は白く高貴な雰囲気があり、

また他の城は幾分個性的であるというように、

それぞれの城が情緒にあふれている。

実は、城のどこかにお宝があるという噂を聞いた。

しかしあるのは、降り積もる塵ばかりだということだ。

それに焼け落ちて無くなってしまったものもあるらしい。

それらは歴史深くを流れる忘却の彼方にあるだろう。


 わたしは、住民達に聞き取り調査を行い、

このいくつもの城について、詳しくまとめてみることにした。

彼らが言うには、ほとんどの城が空っぽで、

今現在は全く使われていないとの事だった。

たまに近所の住民が荷物を置かせて頂いたり、

雷雨の日に家畜をお守り下さったりする、

と皆が言っていたが、一体どうして、

そのように丁寧に、古くさい城に頭を下げるのだろう。

大切なご先祖さまか何かを、あがめているのだろうか。

まさかとは思うが、誰かが住んでいることはないだろう。

ひとまず聞きまわるのは、この辺りで切り上げようか。

今日はとある茅葺小屋の旦那の家に、

一晩だけ泊めてもらう約束をしていた。


 部屋で休むと疲れが心地よい。

わたしは次の日に備えて早めに休もうとした。

しかし、家の者は揃って出かけたいと言う。

わたしは不思議に思ったが、

安心できるような賢い猫がいるというので、

その猫と一緒に留守番をすることになった。

猫はよくわたしの周りをぐるぐると動き回り、

手近にあった灯り用のひもで遊んであげると食いついてきた。

じっと見ると、確かに頼りになる目をしている、

ような気もしないことはない……。

さて、そろそろ寝よう。

わたしは明かりを小さく消して眠りについた。


 しばらく経つと、不穏な空気によって目が覚めた。

じわじわと寒気がし、わたしの歴史学者としての勘が警鐘を鳴らし始める。

ひとまず身支度をする。そして、いつでも出かけられるようにしておく。

猫は、そういえばどこにも見当たらない。

今のうちに明かりを増やしておこう。

予備の行灯をつけると、わいわいと皆が帰って来る。

「どうしたのだね、そんな慌てて」

にぎやかな空気に、どっと気が抜ける。

わたしの気のせいだったのだろうか。

少し話してから、また就寝することにした。

しかし家の者たちは皆、

どこに出かけていたのかということには口を閉ざし、

結局わたしに、何が起こったのかを知るすべは無かった。


 ふとんの中で寝そべっていたが、

目が冴えて眠れない。

先ほどの事について、頭の中で整理していた。

気晴らしにはなるが、まだうっすらと気味が悪い。

何かが隠されているような、そんな気がした。


 「なんだ、奴はまだ寝ておらんのか」

家の老人がふてくされている。

「まったく今の若い者は……」

おじいちゃん、それ関係ないから。

「何とか早く寝てもらえないかのう」

「そうそう、そうでないと、私たちも寝られませんものね」

「俺らは行灯の火が付いている間しか、人間の形を保てないからな」

困ったね。本当に。

え、私のこと?

気になるのなら教えてあげる。

私はね、いわゆる妖怪なんだ。

人をびっくりさせないように、

本来の姿のときは隠れているんだ。

特にあの学者さんには、見つかりたくないんだよねえ。

だって、何でもかんでも嗅ぎ回りそうじゃない?

真実をあばかれようものなら、まったく目も当てられない。

さっきはあの人にたくさん遊んでもらったけど、

本当は行灯の油が欲しかったんだ……

やれやれ、早く帰ってくれないかなあ。

この地域は、化け猫の集落なんだということを、

知られたくないからね。

そんなことが噂になったら、

きっと三味線屋さんに目を付けられてしまうだろう。

私たちは、いい音色になるそうだよ。

その為にこの辺り一帯は、えらい人(猫?)を中心に、

はるか昔、ほとんど全滅してしまったんだ。

今は、その子孫が細々と暮らしてるけど……

怖いから、人間にだけは気を許してはいけないな。

さて、おじいちゃん、そろそろ大丈夫だよ。

老人たちは跡形も無く消え、あとには油のシミだけが残った。

そして、いくつもの塵がかすかに城のほうへと飛び去り、

永久に続く夜の彼方へと消えていった。

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