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70.「世界を巡る輪廻も美しい」

アマルティア様が世界の理なら、ルル王女は世界そのものだった。ルル王女を調べているにつれて解ったことだ。






数百年に一度、『世界』と称される子供が生まれる。『世界の理』もそうだが『世界』という神がかった役割は、ほとんど解明されていない。けれど、本来ならばエノクの民として生まれる筈なのだ。人から離れたヒトであるべき存在の私たちの血族として。






どういうわけか、その道から逸れ徒人として生まれてしまった。それがルル王女の運の尽きだったのだろう。生まれて直ぐに運を尽くすとは、まことに不幸な娘よ。エノクの民として生まれていたならば、バケモノと罵られ幽閉されることもなかったのに。






しかし、そんな『IF』の話をしたって既に終わったこと。生を持ったことが運の尽きではあったが、これから運を引き込めば良い。ゼロをイチにするのは融通が利く。己の手で掴めば良いだけなのだから。これは、また機会があれば本人に話そう。





まずはルル王女が『世界』という重要な役目を持っていることについてだ。





〈守れるのか、本当に〉




「神の遣いが何を言ってるの。だぁいじょうぶ、守るわよ」




この命が、そのため(護るため)に散るのなら何も厭わない。竜と共に死に逝くのが本望ではあったが、彼女たちを守る為に死ぬのも何ら悪くはない様な気がする。なんという自己犠牲精神か。己のことなのに、他人のことのように思う私もエノクの民である。






〈お主の、その自己犠牲は年々と酷くなるばかりだな〉




「飛鷹まで言うのね、宰相にも言われちゃったわ」




〈お主は自ら倖せから遠のいていないか?あの日、千景に怒った癖にだな〉






「それとこれとは話が別よ。陛下の御身は呪われていたとしても綺麗だもの。対して、私は穢れているわ。骨の髄、魂の奥深いところまでね。私は陛下には生きて幸せになって欲しい。アマルティアに幸せになってほしい。エノクの民だった皆が再び世界に見えた時、今度こそ徒人で幸せになれる世界を望むの」





他人の幸せが私の幸せなのだ。この国が幸せなら、私だって幸せだ。アマルティア様やイゼベル姉上がこの国で幸せになるのなら、更に幸せになれる。





この身が背負っている闇と疵は、誰にも渡せない私だけのものだ。誰も背負えない。ならば、私が背負い続けよう。どうか願わくば、世界に降り注ぐ闇が私だけに降りかかることを。どうか願わくば、私に関わる全ての人が幸せになることを。





〈愚かなことよ、哀れなことよ〉






「これで良いの。徒人だった私が神の喧嘩に巻き込まれて死んだ。そしてエノクの民という特殊な民に生まれ、エノクの罪を背負った。これは何かの縁なのよ。

飛鷹という神獣と出会い、メルキゼデク、レイヴァールというエノクの怪物に出会って育てられた。アマルティアという世界の理に仕え、エノクを滅ぼした。

これを運命と言わずして何になるかしら!愛しい国を滅ぼし、愛しい者の子を育て、異国でかつて愛した男の魂と再会することが出来た。物語としては出来過ぎなぐらい最高よ。世界は美しいわ。世界を巡る輪廻も美しい。世界を見守る神々もまた美しい。そうでしょう、飛鷹王」






〈……真夜よ、〉




「私はルーチェ・アルグレッセルよ。弱かった雑賀真夜は死んでるわ。この世に落ちたのは、エノクの歴史を塗り替えた女の魂なの」





ふふっと笑って見せる。飛鷹がブワッと体を大きく膨らませた。




私は2つの記憶を持っている。雑賀真夜の記憶とエノクの初代女王ヘルの記憶を。エノク第三王としてエノクの史書に名を遺した。




「私も、なかなか波乱万丈な人生だわ」




〈…もう寝てしまうかなァ〉




「そうね、明日も早いわ」




呆れたように呟いた飛鷹を、ふわりと夜空に上げた。私は真夜のような人生を歩まない。私はヘルのような人生を歩まない。私はルーチェの人生を歩む。私は、私の人生を―――。





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