63.「だが、城外に出ることは禁ずる」
「で、何の話をしてたんだっけ?阿呆臭くて忘れたんだけど」
「…ルル様の外出の許可云々の話でしょう」
「あ、そうそうソレ」
「別に外に出るのは良いけどよ、城内だけにしてくれな」
「何故?」
意味が分からない。城外にも連れて行きたいじゃないか。確かに、この城の敷地は広い。馬鹿みたいに広い。だからと言って、城内だけで過ごすつもりはなかったのだが。
「それは言わん。だが、城外に出ることは禁ずる」
「ほう」
私はルル王女が、琳国の王女だという情報しか持っていない。一重に、そこまで興味がない。基本、エノクの民は好奇心が少ない。例外としてレイ兄様。レイ兄様は好奇心というか探究心が旺盛でエノクの民でも珍しいタイプ。興味を示すということをあまりしない。
「気に食わなそうだな、ルーチェ」
「分かってるんじゃないか、陛下」
だから、ルル王女が王女にも関わらず魔術の教育がされていないということと、17歳の女の子にしては細く小柄であるという外部的情報しか持っていないのだ。
「だが、教えることはできない」
「別に知りたいと思ってねーよ」
多分、アマルティア様であれば私は食事をする暇も寝る暇も惜しんで情報を得るだろう。アマルティア様が誘拐された時の様に調べる。
――私の隣に居るルル王女は、気に入っているけれど、そこまで興味をソソられない。ただ、仕えるべき主に言われて近衛兼侍女をしているのだ。最も、離れろと言われれば離れれるだろうし、アマルティア様に何かがあれば切り捨てることすら容易くやってしまうだろう。
「その割には、不服そうだけどな」
「そりゃーな。ルル王女は守るべき対象だ。持ち手が少ないと、対応しずらいだけだ」
もしかしたら、守れないかもしれないけどな?
自ら調べるという無駄な手は省きたい、その一心で私は陛下を煽る。知っている者が、目の前に居るのだ。喋らせるに限る。知りたいとは思っていないが、面倒事は出来る限りさけたい。
彩牙千景はルル王女に溺れている。
どんなに不機嫌で魔力が重たく圧し掛かろうとも、ルル王女が隣に居る限りそれは軽減されている。陛下は魔力に対して、とても素直だ。その感情のまま、魔力に映る。
そんな不機嫌になりつつある陛下を眺めていると、ぎゅっと私の手を引いたルル王女。ルル王女と目を合わせるべく、自然と視線が下がった。
…ルーチェ様?
「何かな、ルル王女」
どうか、陛下を怒らせないで下さい。
怒りは陛下のお身体を蝕むの、知っているのに。
懇願する様な、非難する様なそんな声音が耳に入る。別にそんなつもりはないんだけど、これは陛下がもどかしさに勝手に怒っているだけだ。いや、怒らせてるんだけど。
「そりゃ、陛下に言わねーとなぁ。自分の身体とは、もう何年も一緒なのに何も分かってないのは陛下の方だし」
でも…。
「でも、って言われてもね。制御が出来ていないのは陛下で、感情に素直のも陛下だ。これも、一種の自業自得なんだよ。何もかも呪詛の所為にするのは駄目だね」
肩を竦めて、ルル王女の視線を往なす。まぁ、要らん地雷を踏んだのは私だ。『守れなかった』というのは、今でもトラウマなんだろう。怒りと憎しみ。今の陛下から感じられる感情。
私も陛下も、未だどっちつかず。前世と今世に区切りをつけた。私はそう思っているし、海燕殿にもそう言った。過去であり現在ではないと。
けれど、根付いたものは深い。
陛下がルル王女に溺れているのも、そんな要因を含んでいるような気がする。ルル王女の顏は『守れなかった』雑賀真夜なのだから。
まだまだ、私も陛下も若いということで。
「しゃーない。陛下にルル王女を任されている以上、何があっても守る。けど、それなりに情報くれる?」
最大の譲歩を見せた。キリがないし、話にオチがつかない。ただ外出許可を貰いに来ただけなのにね。




