44.「最高の喜劇を演出するには毒となろう」
「そ、なら今から始めても問題ないんだ?」
「問題はないが…」
「大丈夫よ、まだ始めないし。ていうか、よくあの短時間で私を仲間に入れることを決断したわね?」
まだ始める時間帯ではない。教皇と女神と貴族たちが集まるパーティーが舞台だから。最高の喜劇にしてやろう。
「まぁ、お嬢ちゃんがエノクの民だというのもあったし、何よりも目だな」
「目?」
「そうだ。力強くて、狂気に満ち溢れた目だ。そんな目をして『一緒に教皇派潰さない?』って持ちかけられりゃ、なぁ?」
「…ふーん。目、ね」
正直、すぐ私を仲間に引き入れたことが疑問だった。信じる信じないにしても、余所の人間をそんな国家問題に踏み込ませて良いのか否か。そんな国家問題に海賊がいるのも、可笑しな話なんだけど。
ただ、意外と上の立ち位置があったラルファに認められたおかげで、情報を収集しやすくなったのも事実。北の国の王子の母についても調べることが出来たし。
「それがどうしたんだ?」
「いや、助かったってだけよ。これから教皇を殺して、ちゃんと独立出来るまで彩帝国が面倒を見てくれる筈だし」
「え?」
「え?」
「さ、彩帝国?何で?」
「あれ?その説明してなかった?エノクの王女が私の主人なんだけど、彩帝国の第三皇子に嫁いだの。で、怪物たちと王女と彩帝国の皇帝と第三皇子と宰相を交えて会議した結果、私が此処に来るようになったのね」
「…初耳ナンデスケド」
「したつもりで居たんだけど。それで、最初はこの国を滅ぼすつもりだったの。皆殺しルートよ。でも、貿易が盛んな港があるから教皇派だけ潰すことにして、私が乗り込んできたの。恐らく、全てが終わり次第で皇帝の部下たちが来て、色々政策を取り計らってくれるから」
要約して付け足した説明に、ラルファは目を見開いて固まってしまった。後者の説明に関しては、千景君も私の考えが分かってくれていると思ってした。
「私もこの国が独立するまで面倒みるつもりだし、帰ってくる王子の付き人がエノクの怪物なんだけど、多分そっちも最後まで付き合ってくれると思うから」
言わずもがな、我が両親の事である。北の国の王子のこと大好きだもんねー。私よりそっちを優先するぐらいだし。良いのよ、別に?あの人たちは、何よりも仕事が大好きなだけだしさ。
「エノクって…!!彩帝国って…!!」
「その旨も、他の人たちに伝えといて。だから、安心して教皇派を潰しましょうね」
我に返ったラルファは頭を抱えて叫び始めた。忙しいわねぇ。でもま、安心して教皇派が潰せるんじゃないかな。
「――ルチア、」
「なぁに、ルリア」
「そろそろ準備に移ろう。誰よりも美しい毒となって、流るる水を穢せるよう」
白銀の髪と水色の瞳をした女性――ヘルシリアことルリアだ。流石、竜の頂点にたつだけあって何よりも美しい。それ以上の言葉が見当たらない程、彼女は美しいのだ。
「女の支度はなげぇもんな。俺もそろそろお暇するよ。まだ準備が残っているしな」
「ラルファ、ありがとう」
「礼を言うのはまだなんだろう?セイレーン、今夜の喜劇を楽しみにしておくよ」
「失敗も成功もない、たった一つの選択肢しかない喜劇。たんと着飾っておいで、共に血に濡れよう。そして新たな意思と礎を築きあげよう」
ラルファはニヒルに笑って、背を向けて音もなく出て行った。今夜が本番だ。夜から明け方にかけて行って、明日の昼には帰る予定ではあるが、予定は未定だ。どこで何が狂うかは分からない。
急ピッチの3日で仕上げようというのだから。予定や計画は狂ってなんぼだろ。




