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お花畑の中で


翌朝、3人目の被害者の資料を読みながら、ギルド宿舎で朝飯を食べていると、

俺の心のアイドル、魔法少女メルたんが近付いてきた。

「それが、魔王様に依頼された1件目の資料ですか?」

そう聞かれ、はっとする。そうか、俺が解決した事件は、無かったことになっているのか。

じんわりと温かい気持ちになりながら、俺はやっと、神様が俺にさせたいことに、合点がいった。

死神が一体何者かはわからないが、さくさくと解決して、人々を守れって言うことだな!

1人で鼻高々な俺に、メルたんは衝撃の一言を振り下ろした。


「私、婚約してるんです」


んー・・・こんにゃく?

あれだな!俺の魔法少女メルたんが、そんな、男なんかとこんにゃくしてたなんて

ちくしょおおおおおこれは夢だあああああああああ!!!!!!!!!!

ガンガンと机に頭を打ち付ける俺に構わず、メルたんが語り出す。


「彼とは、ずっと、幼なじみでした」

はいそのパターンきた滅べ!地平線の果てまで滅び散れ!!!!!

「最初は意識して無かったんですが、50歳を過ぎたころから、ドキドキし始めて」

よくありますーそういうのよくありますから地平線の果てまで滅び散れ!!!!!

「100歳頃に両想いになって、139歳のとき、ついに婚約したんです」

そうそうこんにゃくはおでんにぴったり地平線の果てまで滅び散れ!!!!!


「その年に、彼は死神に殺されました」


手元の資料で、美しい顔立ちの好青年が、幸せそうな笑顔を浮かべていた。



「ここが現場です」

メルたんに連れられ、エルフの里までやってきた俺は、一面に広がるお花畑の中にいた。

風に吹かれて、花弁がひらひらと舞い、メルたんを包み込む光景は、幻想的だ。

「今、ちょうどこの時間、彼は死神に殺されたんです」

悲しそうに笑うメルたんの、精一杯強がる微笑みが、あまりに切なくて・・・


思わず、彼女を抱きしめてしまった。


「ユイチさ・・・」

「必ず、メルたんの婚約者を守ってみせるから」

ばっと体を引き離し、決意のこもった目で、メルたんを見つめる。

メルたんがこくっと頷いたのを確認すると、俺はスキルを発動させた。


地面がぐらっと揺れ、何もない茶色の地面が、辺りに広がる。

「き、君は突然現れて、誰だい?」

顔立ちの美しいエルフの好青年が、動揺した顔でこちらを見ている。

そして気付いた。彼女は、魔法の力で、あのお花畑を作り出したのだと。

死んでしまった婚約者の弔いに、どんな気持ちであの花を育てたのだろう・・・!

無理して笑う、メルたんの笑顔が脳裏に浮かび、怒りが沸いてくる。


と、その時・・・!

「危ない!!」

呆然とするメルたんの婚約者の背後に、突如黒い塊が現れ始める。

ザシュッ!!

一撃で影をし止め、彼が無傷なのを確認すると、俺はスキルを発動させた。

地面がぐらぐらと揺れる中、俺の心はじんわりと温かくなる。

メルたんはどんな笑顔で待っているのかな?

あんな悲しいお花畑は、すっきり消え去っているだろう。

いや、そもそも無かったことになっているのに、メルたんがいる分けないか・・・


晴れやかな顔で、元の時間軸に降り立つと・・・

「そ・・・んな・・・どうして・・・!」



先ほどと同じ様に、辺り一面にお花畑が広がっていた。


目の前で不安そうな表情を浮かべるメルたんに、俺はもしかして失敗したんじゃないかと、不安がよぎる。

いや、そんなわけはない、確かに倒した・・・!倒したのに・・・!

「ご・・・ごめん・・・」

俺の言葉に、メルたんの顔が悲痛に歪む。

「メルたんの婚約者を、助けられなかったよ・・・!」

土下座して詫びる俺を見下ろす、メルたんの表情が怖くて見れない。

カタカタと肩を震わす俺に、メルたんがそっと手を置いた。

「いえ、すべてわかりました。貴方は私の婚約者を、ちゃんと救ってくれましたよ」

なら、どうしてお花畑が・・・

眉を寄せる俺に、メルたんは、何も答えず、唇を噛み締めていた。



冒険者ギルドに戻った後、俺は迷わず魔王の元へと向かう。

相も変わらずPTに断られ続ける彼女の手を、ぎゅっと握り締める。

「・・・何かあったのか?」

俯いたまま、こくりと頷く俺の頭を数回撫でると、彼女は魔王城へと転移した。

俺を引き連れて、帰ってきた魔王様に、側近のお兄さんが慌てる。

「下がっておれ」

そのまま俺は、魔王の寝室へと連れて行かれた。


バタンと、重厚なドアのしまる音が、広い部屋に響き渡る。

そして、柔らかいベットの上に座らされる。

「ユイチ、何があったか、順番に話せ」

目を逸らさずに、俺をしっかりと見つめてくれる小さな彼女に、

泣きそうになりながら、俺は自分が失敗したかもしれないことを、ぽつりぽつりと話し始めた。



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