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ドワーフの家族



翌日、今度は2枚目の被害者を助けに行くことにする。

被害者は、ドワーフの女性。30代で、夫と娘の、3人家族だ。

冒険者ギルドがある町から少し離れた山奥に住んでおり、人生初のドラゴンタクシーで向かうことにしたのだが。


「・・・なぜ魔王様がついていく必要があるんですかね・・・」

疲労困憊といった感じで、側近のお兄さんがため息をつく。

「ふん、このドラゴン料を払っているのは妾じゃぞ」

「ユイチ殿、貴方は良いのですか?」

「ご主人様のご命令ならなんでも聞きますブヒイ!!」

四つん這いになって魔王様の椅子になるユイチの恍惚とした表情に、迷いなどひとかけらもない。


かくして、奇妙な3人を乗っけたドラゴンタクシーは、ドワーフの里へと向かうのだった。



「ようこそ、魔王様~!!」

「うむ、苦しゅう無いぞ」

到着するなり、ドワーフたちの里をあげての歓迎に、魔王様の人気ぶりを目の当たりにする。

ドワーフの民、1人1人と握手をする魔王様の姿を、遠目で見守る。

「・・・本当に、全種族に愛されているのですね・・・」

しみじみと呟く俺の言葉に、側近が得意気に微笑む。

「慈悲深い方ですから。ご自分の贅沢より、民の生活を優先させられるお方です」

戦争で壊滅だったドワーフの里に、自国の資産を売り払ってまで、膨大な寄付をしたらしい。


名残り惜しげに子どもたちに手を降る魔王様を連れながら、

俺たちは件の家族の元へと向かった。


小さな洞穴の形をした民家から、小柄なドワーフの男性が出てくる。

「妻の事件のために、わざわざお越しくださりありがとうございます」

一通り挨拶を済ませ、さっそく本題に入る。

「当時の現場を、見せていただけますか」

こちらです、とドワーフが俺たちを、庭へ案内する。

「あの日、妻はここで、洗濯をしていました。わしは室内で鉱石を鑑定しており、娘は自室で絵本を読んでいました」

悲鳴が聞こえたのは、9時頃です、と続ける。

「慌てて外へ出ると、2Mぐらいの、黒い人型の塊が、妻を襲っていました」

一瞬のことで、何もできませんでした・・・と、肩を震わす。

ふと、窓に目をやると、室内の机に、家族3人の写真が飾ってあるのが見える。

そこで満面の笑みを浮かべるドワーフの男性は、幸せそうにぷっくりと太っている。

そして、今、目の前にいる同一人物の、細く折れてしまいそうなやせ細った肩・・・!

彼の悲しみの大きさが切なくて、奪った死神が憎らしくて、俺はぎりっと歯を噛み締めた。


「それじゃあ、ちょっと過去に飛びますから」

人払いをした後、魔王様にそう告げると、優しく頬を撫でられる。

「妾のかわいい子豚よ、無事で帰ってくるのじゃよ・・・」

心配そうな瞳でつぶやかれ、かっと頬が赤くなる。

今なら、無茶なおねだりも聞いてもらえるかも・・・

「帰ったら、ご褒美に思う存分、踏みつけて罵ってください」

「よいぞ、より痛い様、ハイヒールを用意して待っておる」

俺たちのやりとりに、側近のお兄さんは、ついていけないといった感じで肩をすくめる。

「それでは行って参ります!ぶひー!」

なんかいろいろ台無しだろおおおお!!!と側近が叫んだ声は、途中でぷつりと聞こえなくなった。


地面が地震の様にぐらっと揺れ、当時の庭に降り立つ。

「キャアアアア!!!!」

途端に叫ばれ、血相を変えた、ドワーフの父親が飛び出してくる。

ですよねー!庭に突然、見知らぬ男が出てきたら、そりゃそうなりますよねー!!!!!

そう思って、影が出てくる直前に飛んで来ましたからー!

俺から逃げようと後ずさる母親の背後に、黒い塊が忍び寄る。

「させるかよ!!」

ずばんっと切りつけ、あっけなく幕引く。

震えながら、抱きしめ合う2人を視界の隅で確認し、じんわりと胸が熱くなる。

嬉しいような、泣きたいような、どうしようもない気持ちを抱え、俺は元の時間軸へと飛び立った。


先ほどの庭へと戻ってきた。

過去が変わったことで、現在の夫婦は、俺を知らないだろうから、足早に立ち去る。

また叫ばれちゃあ、たまんないもんな。

去り際に、静かに佇む民家に、お幸せにとエールを送る。


よし!これで後は、冒険者ギルドへドラゴンタクシーに乗って帰るだけ・・・

ってあああああああ!!!!!!!!!しまったあああああ!!!!!!!!!

事件が無くなったということは、魔王様たちがここに来ることは無くなったということで、

つまりは、帰るためのお金が・・・な・・・い・・・

どさっと膝から崩れ落ちる。


ああ・・・もう終わった・・・何もかも終わった・・・

こうなるなら、ドラゴンタクシーになんて乗るんじゃなかった。

冒険者ギルドで、馬でも借りて、自力でここまで来ればよかった。

一度は乗ってみたいと、浮かれてタクシーを選んだ俺のばかー!!!!


一通り叫んだ後で、はっと気付く。

そうか!乗る前の朝の時間軸に戻れば、そもそもここに来なかったことになって、

冒険者ギルドに帰れるじゃないか!!


あああ俺って天才!自分が怖い!なんて賢くてスマートな男なんだ!

浮かれながらタイムリープした後、それよりも重大で重要な、

魔王様にハイヒールで踏んでいただくという約束が無かったことになっていると気付いて、

しにたくなるのはそう遠くない未来の話である。




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