死神
そこからの、死神討伐隊の活躍は、目覚ましいものだった。
数十人ごとに小隊を作り、各地の村を警護する。
死神発生の連絡を受けた際には、近隣の討伐隊が駆けつける。
最初こそ、死神に反撃されて死んだ隊員を、過去に戻って救うという仕事が、俺にもあったが、
最近では、無傷の圧勝で、拍子抜けするぐらい呆気ない。
未来でタールたちは焦ったのか、死神の数を、200、300と増やして行ったが、
隊員はどんどん強くなって行き、反撃は叶わなかった。
さらに、今回の事件で、星全体の自衛意識が磨かれたのか、
一般人の平均レベルは30~50だったのが、100前後まで伸びるという、
まるで魔王再来の様な事態になっていた。
そんな平穏な日々が続く中・・・
ここはとある会議室。
死神討伐隊の隊長クラス10名が、一同に集まっていた。
会議を仕切るのは、ルドだ。議題に必要な資料が、各隊員に回ったことを確認し、声を上げる。
「では、第10回全体会議を始める!」
ルドの言葉に、まずは剣士隊長が手をあげる。
「私は、もう少し強度を増すべきだと思います」
折れてしまっては、続けられなくなるという言葉に、皆が頷く。
次に、魔導士隊長が恐れながら、と手をあげた。
「魔導士の方は、これ以上の技術改良は不可能です。上級魔法を惜しみなく注いでいますが、この上となると・・・新魔法開発の域へと達します」
もうそこまで来たか、と一同がっくりと肩を落とす。
続いて、聖職者が手を上げる。
「上級の聖職者を、介助者として派遣していますが、そろそろ皆の不満が限界です。あれは、一般人には耐えられません」
悲しそうに寄せられた眉に、他の隊長が同情の目を向ける。しかし、聖職者の代わりはいないのだ。
それでは私も、とアーチャーが手をあげる。
「そもそも、こだわることがいけないのです。そろそろ、別の物を、試すときではないですか??」
「じゃあ、貴方は弓を捨てて、他の武器を使えると言うんですか!!」
すかさず言われた言葉に、アーチャーがうっとつまる。
そうなのだ。誰しも、使い慣れた武器を手放したくないように、別の物をあげられて、はいそうですか、とは言えない。
意見が出し切られたところで、ルドがごほんと咳払いをした。
「では、皆の意見をまとめると・・・
魔王様とユイチ殿がプレイでお使いになる、ハイヒールは、強度を増したいが魔法では限界なので、新魔法開発まで改良を見送るという結論で」
ルドのばっさりと切り取られた言葉に、聖職者が悲鳴をあげる。
「目の前で行われるプレイを見ながら、行き過ぎた傷を治すという仕事は、もう勘弁してください!聖職者たちで交代制にしていますが、もう限界です!!」
「だが・・・魔王様たちが、見られている方がいいとおっしゃるのだ」
いやあああ!!と泣き叫ぶ聖職者に、他の隊長たちは、心の中で合掌した。
そんな会議が知らぬところで行われている昼下がり、俺と魔王様はいちゃいちゃしていた。
「あと数日で、ルドから新作のハイヒールが届くはずじゃ。嬉しいだろう、この豚め♪」
「楽しみでブヒー!」
俺たちは相変わらずのラブラブっぷりだ。
「そ、それはそうとだな」
「はい?」
「たまには、ユイチが戦っておるところが見たいぞ・・・」
顔を赤らめて言われ、俺は思わず身を起こしそうになる。
いかんいかん、ご主人様にせっかく椅子にして頂いているのに・・・
「お、俺なんかが戦っているところで良ければ・・・」
ポッと顔を赤らめながら、喜びを噛み締める俺に、リザの冷たい視線が注がれる。
だが、何も言わない。いつものことなのだ。
俺たちを無視して、リザは資料まとめを再開した。
・・・ふと、資料をみつめて、リザがぽつりと言う。
「おかしいなあ」
「何がじゃ?リザ」
魔王様に聞かれ、リザはうーんと唸った後、資料を差し出した。
「最近、人間の村が死神に襲われた時の報告書なんですけど」
「うむ」
「ここ見てください。13歳の少年が、死神を自力で倒したと書いてあります」
リザの言葉に、俺は首を傾げながら、聞く。
「何がおかしいんだ?死神の数が増えてから、よくあることじゃないか」
「黙れ豚」
「何がおかしいのじゃ?」
「はい魔王様」
ちょっ、待てよ!とキムタク風に突っ込む俺を無視し、リザが続ける。
「今まで、エルフやドワーフ、魔族の村で、老人や子供たちが自衛したときは、違和感はありませんでしたが・・・ただの人間がそこまでできるのは、ちょっとおかしいです」
そう言われて、魔王様が眉を寄せる。
「・・・ユイチ、お前の戦うところが見たかった所じゃ、ちょうどいい。この事件、遡って見てきてはくれぬか?」
魔王様からの久々の(戦闘方面の)命令に、俺は歓喜して承諾した。
ザッ
人間の村にたどり着き、死神討伐隊の待機所へと向かう。
「どうも~」
「あ!ユイチさん!貴方が来ってことは・・・」
「そ。今日の12時ごろに、死神の大群が来るから」
俺の言葉を聞いて、隊長が、部下に情報を行き渡らせる様命令する。
「まあ、知っていても知らなくても、自衛はできますがね」
苦笑する隊長に、俺もつられて笑う。
人間の村ですら、このレベルの危機感だ。他の種族は、もっと簡単だろうと想像できる。
俺は、隊長に断ると、例の子どもが襲われた場所へと、足を運んだ。
民家の裏の、洞窟を覗いて、合点が行く。
そこでは、小さな子どものウルフが、人懐っこそうな目を向けていた。
「どこの世界も、子どもが親に隠れてやることは変わらないね~」
そうつぶやきながら、時間が経つのを待つ。
しばらくすると、ウルフに餌をやりに来た少年が、洞窟へ入ってきた。
「うわあ!!」
「驚かせてごめん。もうすぐ死神が出るから、奥でウルフを守っていてくれる?」
少年が頷くのを確認すると、俺は剣を構えた。
12時になり、黒い塊が出現する。じわじわと人型に変わり、襲ってくるのを待つ。
「・・・あれ?」
おかしい。いつまで経っても、その死神は、俺を襲ってこない。
呆然として、見つめていると、ふと、そのシルエットに見覚えがあることに気がついた。
心の中で警報が鳴る。
「・・・・・・?」
俺が名前をつぶやいたのを確認すると、その死神はこちらに向かってきた。
呆然としていたが、触れられたら自分が死んでしまう。
自衛本能が働いたのが、俺は反射的に死神を切り裂いていた。
死神が消滅していく・・・
俺は、膝から崩れ落ちた。
くせっ毛のある髪、尖った耳、ローブを着ているかの様なシルエット・・・
あれは確かに・・・
メルたんだった。




