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止めた先


最初の森の中から、冒険者ギルドまで飛ぶと、俺はアーティーを探した。

もしかしたらケイティーの方がいるかもと、辺りを見回すが、どちらも見つからない。

そのまま、ギルマスであるメルたんを呼び出し、死神の件を聞くと、目を伏せながら答えた。

「その2人は1年前、別の場所で同じ時間、死神に襲われて死にました」


・・・そう来たか!


だが、確信した。タールは、俺が時を止められると気付いていない。

過去に飛ぶことしかできないと判断して、強行に出たのだろう。

メルたんにお礼を言って、外に出ると、準備体操の屈伸をした。

「・・・思い返せば、あの小説をくるくる回してからかったのも、試していたのか」

俺が時を止めて、小説を奪わないかどうかを。

「つくづく、バカにしてくれるなあ」

口端をひくひくと痙攣させ、空の彼方を睨みつける。


「さあ・・・俺のターンがやってきたぜ!!」



まずはケイティーがいる孤児院の過去まで飛び、教会へ向かうアーティーを尾行する。

「幼女の後をつけるとか、マジで犯罪者っぽいな・・・」

セルフツッコミしながら、15時になるのを待つ。

そして、アーティーの目の前に死神が出現するのを確認すると・・・


俺は時を止めた。


う・・・うおお!!!何だろう、初めて過去に飛んだときと同じ様な感動がある。

アーティーの目の前で手を降るが、固まったまま反応しない。

ちょ、これ、今なら裸になって颯爽と町を歩くとかできるんじゃね!!!

ドM心をくすぐられながら、ふっと気付く。

見てる。これ絶対マリア(神)様が見てる。


「紳士な俺は、こんなところで足踏みしないんだぜ」


フッと髪を掻き上げながら、片手で死神を刺し殺す。

よし!次はケイティーだ!!

そのまま孤児院へ戻り、裏手へと回る。案の定、ケイティーの目の前に死神がいる。

ザシュッ!!と片付けると、冒険者ギルドの未来へと戻った。


きょろきょろと辺りを見回し、メルたんを探す。

いや、メルたんに、確認するまでもなかった。

掲示板の前では、ケイティーに肩車されたアーティーが、クエストを選びながら笑っていた。

あれを受けよう、これを受けようと言い合いながら、楽しそうだ。

兄を助けてと叫んだアーティー。死ぬのが怖いと泣いていたケイティー。

2人を救えた喜びに、胸が震える。


俺は、成功したんだ・・・!


踵を返すと、そのままドワーフの家族の元へ、走り出した。



過去へ飛び、庭で奥さんを助けた後、子供部屋の娘も助ける。

未来へ戻ってくると、部屋の中で、仲睦まじそうな夫婦が、やさしい瞳で娘を見守っていた。

じんわりと、心が熱くなる。

今度こそ、どうぞお幸せに、とエールを送る。


次はメルたんの婚約者と妹だ。

2人を助けたからと言って、メルたんが傷つくのは変わらない。

でも、それでも、彼女は婚約者から殴られ続ける結婚生活を送らずに済むのだ。

好きな人を何度も何度も奪われる人生を送らずに済むのだ。


時を止めて、2人を助けると、お花畑は消えていた。



最後に、魔王様の元へと向かう。

過去に飛び、渡り廊下で襲われていたリザさんを助け、講堂前で襲われていたルドさんも助ける。

時を動かし、死神が消え去るのを確認すると、3ヶ月後の未来へと戻ってきた。


突然目の前に現れた俺に、3人が目を見開く。

「ま、魔王様、数ヶ月前に私たちを助けた男です!」

「何甘いこと言ってるのルド!敵かもしれないでしょ!」

ぎゃあぎゃあと言い合うルドとリザに、戸惑う魔王様と、ふと目が合う。


魔王様の、綺麗な赤い瞳に、ああ、俺はやっとここまで来たんだと、泣きそうになる。


ふらりと倒れこむ様に跪くと、俺は叫んだ。

「全ては・・・全ては貴女様のためにいいいい!!!!」

そのままスライディングでズシャアと魔王様の足元に四つん這いいいいい!!

「な、な・・・」

わなわなと震えつつ、グアッと振り上げられる、魔王様のお御足いいいい!!


あはあああん!!!!!!!


かくして、呆然とする側近2人と、ひたすら踏みつけられて喜ぶ俺とまんざらでもない魔王様という、

なんともいえないカオスな空間ができあがったのだった。




「・・・で」

ひたすらご褒美で踏みつけられて満足した後、事の経緯を話すこととなった。

ルドに入れてもらった紅茶を飲みながら、魔王様はしばらく目を伏せた後、

「話はよく分かった。ご苦労だったな」

そうあっさりと言い放った。

慌てたリザが、俺を指差す。

「こんな得体もしれない輩を信じていいのですか!魔王様!!」

「・・・俺も不思議です。どの時間軸の魔王様も、俺を信じてくれました。どうしてですか?」

不思議そうに首を傾げて見せると、魔王様は押し黙った。

じわじわと、手の先から肩、首にかけて、最後は顔まで真っ赤になる。

ますます訳がわからない、俺とリザに、ルドが納得した様にため息をつく。

震えながら、魔王様が言い放った。

「ひっ・・・」

ひ?


「ひとめぼれしたからじゃああああ!!!!!!!」


言われた言葉は昇天しそうなぐらい嬉しかったが、照れ隠しに辺り一帯が破壊し尽くされ、

本当の意味でも昇天しかねない出来事となったことは、後々の笑い話である。




そして数ヶ月後。

死神騒ぎが嘘のように、平和な日々が続いていた。


俺と魔王様がいつもの様に、2人っきりでいちゃいちゃしていると、

ふいに、ルドが飛び込んでくる。


「魔王様!!大変です!!」


俺を踏みつけていた魔王様が、何事かと問う。

最近、ルドは踏まれている俺を見ても驚かない。

むしろ、呼んでくださればハイヒールを用意しますのにと申し出るくらいだ。


息を整えながら、ルドが続けた言葉は、俺と魔王様を奈落の底へと叩き落とした。




「死神が大量発生し、近隣の村人が全滅しました」




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