メルたん
「は・・・?」
今、何て言った・・・?
混乱する俺に構わず、メルたんが続ける。
「今まで送られてきた死神は、未来で人工的に製造された魔物です」
あまりにも淡々とした口調に、思わずカッとなる。
「何だよそれ・・・!何で未来の人間が、過去の人間を殺すんだ!お前たちの・・・祖先だろ?!」
縋るように叫ぶ俺に、メルたんが冷たく目を細める。
「貴方は何も知らないくせに・・・!」
そう言われて、はっとする。
そうだ、ずっと疑問に思っていた。
誰も争わない、こんな平和な世界なのに、なぜ神は俺を導いたのかと。
ずっと、ぐるぐると心の奥底に眠っていた疑問が、ピースが埋まる様に模られていく。
「未来で、一体何が起きてるんだ・・・?」
俺の質問に、メルたんが赤いローブを脱ぎだす。
そしてその下の白いシャツも・・・って
「えええええええ?!」
動揺して後ずさる俺に構わず、メルたんはパサリと、床に落とした。
「ど、どうして・・・」
綺麗なメルたんの、その白い肌は、ひどく痣だらけだった。
服を着直したメルたんが、俺に、ベットに座るよう促す。
隣に腰かけると、メルたんはぽつりぽつりと、話始めた。
「私の本当の年齢は1140歳です」
「えっ?!見た目がそんな幼女・・・」
言いかけた俺を、ギロリとメルたんが睨む。
「私の家系はみんな小さいんですっ!」
ため息をついた後、混乱してるでしょうから、と続ける。
「現在の時間軸は、私の妹が死んで、婚約者が生きてる方・・・悪い方の未来になります」
「・・・メルたんを、痣だらけにしたのは・・・」
「1年前に結婚した婚約者です。いえ・・・でも、そんなことはどうでもいいんです」
遠くを見つめながら、メルたんが続ける。
「今から約1000年後の未来、私は、婚約者と妹が死んでいない時間軸を生きていました」
「ちゃんと、誰も死なない未来が存在するんだ・・・!」
喜ぶ俺に、メルたんは表情を変えないまま続ける。
「彼にプロポーズされ、妹に祝福され、私はとても幸せでした。でも・・・」
少し間を置いてから、メルたんが唇を噛む。
「彼と妹は、私に隠れて、浮気していたんです」
「妹は昔からそうでした。私の恋人を、片っ端から奪って行くんです。
それでも、今度こそ、彼なら私を裏切らないと、信じていたのに・・・!」
怒りをこらえきれないのか、メルたんの肩が震える。
「だから・・・1000年後のあの日、募集されていたクエストに、私は飛びつきました」
「クエスト・・・?」
「ええ、とある科学者が、過去の人間を殺す実験をしていたんです」
面接会場に赴くと、白髪まじりの、仮面をつけた男が白衣を着て待っていた。
彼は、被験者の親族を殺し、被験者にどんな影響が出るか調べる実験をしていると説明した。
多額の保証金が出ることよりも、何よりも、私はあの2人へ復讐するチャンスを手に入れたことが嬉しかった・・・!
「自分で殺す度胸も無いくせに、ズルいでしょう」
自嘲気味に笑うメルたんに、俺は言葉が見つからない。
「実験は全部で3回。親族を2人指名し、片方ずつ順番に殺す。そして最後に、2人とも殺す」
予定通り魔物が製造され、過去へと送られた。
「ところが、実験は失敗しました」
何度過去に死神を送っても、必ず何者かが阻害する。
「焦った私は、科学者の男に提案しました」
自ら過去に飛び、原因を探ると・・・!
「私は幸い長寿のエルフで、見た目はあまり変わらないですし、140歳の私を捕まえて、入れ替わるぐらい簡単だったんです」
「い、今140歳のメルたんは・・・」
「ちゃんと、信頼できる人に見張ってもらってます」
死神が妹を殺してくれたことを見届け、お祝いにお花畑を作り、結婚した1年後・・・
「貴方が、やってきました」
冷たい瞳が、俺に向けられる。
「最初は、半信半疑でした。過去に飛んで妹を助けるなんて、そんな未来の魔法を、貴方みたいな一般人が使えるとは思えなかったんです」
自ら近付き、妹を助けてくれとお願いした後・・・
「一瞬視界から消え、そして戻ってきた貴方が、婚約者を救えなかったと謝ったとき、疑問が確信へと変わりました」
目を見開く俺に、メルたんが皮肉まじりに笑って見せる。
「悲しんでいると思ったでしょう。違いますよ、あいつが助かったことが悔しくて、唇を噛んだんです」
「確信した私は、未来へ通信し、科学者に指示を仰ぎました」
そして、もう一度貴方に出会う過去へと飛んだ。
「科学者の指示通り、貴方に親切にし、貴方が被験者の親族に接するのを見守り、そして・・・」
メルたんが、こちらへ向き直る。
「何度か繰り替えして、やっと、貴方がアーティーを救うのに、失敗する過去に辿り着きました」
「お・・・俺にどうして欲しいんだ・・・」
ごくりと喉を鳴らし、尋ねた俺に、メルたんが続ける。
「科学者の指示通り・・・」
「貴方を、未来へとご案内します」




