リザとルド
「・・・は?」
俺の悲痛な叫びに、2人が呆然とする。
「侵入者が出ました!はいスパイかもしれません!そしたらどうするんです?何するんです?
拷問でしょ!ご・う・も・ん!!!!セオリーでしょ!定説でしょ!お約束でしょ!!!!!
あああ俺はすげえ楽しみにしていたのにいいい!!!!!
敵の城に潜入して捕まって拷問・・・!ずっとずっと夢見てた美味しいシチュエーションがあああ!!!!
なんで?なんで拷問しないの?ねえ、してよ!ちょっとだけでいいからああ!!!!」
おねがいいい!!!!!と続ける俺に、リザさんがドン引きだ。
「魔王様こいつ変態です、今すぐ殺しましょう」
「・・・」
「魔王様?」
「はっ・・・い、いや、け、決してこいつを可愛がってやったら楽しそうだとか思っていたわけじゃないぞ!」
さすがご主人様!!時間軸が変わっても合法ドSロリ幼女っぷりは変わりませんね!!
ルドがいたら「お前らお似合いカップルだよ」と心の中でツッコミそうである。
「・・・そういえば、ルドさんはいないんですか?」
側近なんだから、真っ先に侵入者の確認に来そうですけど、と続けると、2人の目が見開かれる。
「お前・・・!なぜ弟を知っている!!!」
檻にがしゃんと掴みかかり、殺気立つリザさんに、魔王様が落ち着けと肩を叩く。
「お主、ルドの知り合いか?」
冷えた淡々とした口調に、ぞくりと背中が沸き立つ。
「それとも、3ヶ月前、ルドを殺したのはお前なのか?」
「・・・え?」
衝撃で、それ以上の言葉が出ない。
ルドさんが死んだ・・・??あまりの展開に、頭が付いていかない。
次に、魔王様がぽつりと呟いた言葉に、さらに衝撃が走る。
「ルドを殺したのは、死神だと思っていたんだがな」
「し、しにがみ・・・?」
まさか・・・まさか俺はメルさんの時の様に失敗を・・・?!
いやだ・・・いやだ・・・!!!
「うあああああああ!!!!!!!うそだああああああああああああ!!!!!!!!!」
動揺して床に頭を打ち付ける。俺のせいで・・・俺のせいでまた守れなかった・・・!
「・・・どうやら、死神の件を知っている様だな?」
しゃがんで俺を覗き込む魔王様に、力なくコクリと頷く。
詳しく話せと言われ、今までの経緯を、掻い摘んで説明する。
俺の話をすべて聞き終わった後、魔王様は、思案する様に目を閉じた。
「・・・リザ、こいつを妾の部屋まで連れてこい」
「魔王様・・・!いいのですか?!」
「命令じゃ」
そこの豚立て、と言われ、ばっと顔を上げる。
「お主に、資料を見せてやる」
魔王様の部屋に着くと、過去を改変する前とは違う点に気がついた。
「何だかこの部屋・・・荒れてますね」
家具は壊れ、床はゴミだらけだ。空気も何だか篭もっている。
「・・・妾の城は、ルドが掃除をしていたからな」
自嘲気味に笑う魔王様に、俺は首を傾げる。
「その・・・召使いみたいな人とか、雇わないんですか?」
「・・・妾は、貧乏魔王じゃ。ルドやリザたちは、無償で側にいてくれておる」
ドワーフの里で、ルドさんが、魔王様は財産を切り崩して寄付したと言っていたのを思い出す。
魔王様に促されて、椅子に座ると、リザさんが資料を持ってきた。
1件目の事件の被害者を何気なく見ると、そこには、ありえない写真が貼られていた。
「そ・・・そんな・・・!どうして・・・・!」
資料の上で、あどけなく笑う、アーティーが、こちらを見つめていた。
他の資料も荒々しく掴み取り、机にすべて広げる。
2件目被害者は、ドワーフの娘
3件目被害者は、メルたんの妹
「・・・そして、4件目がルドさん・・・」
呆然とする俺に、魔王様がしっかりしろと檄を飛ばす。
「お主の話と照らし合わせて、妾は仮説を立てた」
あらかじめ、運命は2人の内どちらか1人が必ず死ぬと決められている。
「そ、それに逆らえない、と言うんですか?」
「あくまで仮説じゃ。だから、それを立証する。お主もう一度過去へ飛べ」
そしてルドを助けるじゃ、と魔王様が続ける。
・・・それではリザさんが・・・。思わず彼女の方を振り向くと、悲しい顔で、嬉しそうだった。
「弟が死んだとき、思ったんです。なぜ私ではなく、優秀なルドの方が死んでしまったのかと・・・」
私が死んでも城は回るだろう。けれど、ルドがいないと、3ヶ月でこの有様だ。
何度も何度も思った。私が代わりになれたらいいのに、と。
泣き腫らした目で、リザさんが微笑む。
「感謝しますよ。その願いが、叶うのです」
「・・・リザ、少しこの男と2人きりにしてくれんかの」
俺たちを見守っていた魔王様が、遠慮がちにリザさんに命ずる。
リザさんが部屋から出たのを確認した後、俺は床にひれ伏せる。
「何の真似じゃ?」
「え?俺を踏みつけて罵ってくださるんじゃないんですか?」
2人で存分に楽しむために、人払いしたのかと・・・と続けると、魔王様が真っ赤になる。
「わ、妾は別の時間軸では、ずっとお主とそんなことをしていたのか・・・!」
慌てる魔王様もかわゆいなあとニヤニヤしていると、ムッとしたのか、話を戻される。
「・・・もう1つ仮説があるんじゃよ」
「リザとルド、どちらか2人が死ぬかもしれんとしてだな」
「はい」
「ルドが生き残った未来では、城はどんな雰囲気じゃった?」
「えっ・・・えっと、普通でしたけど」
「・・・リザの生き残ったこの未来はな、妾の破滅に繋がっておる」
そう言って、分厚い帳簿を持ってくる。
「これは魔王城の全財産の記帳じゃがな、この3ヶ月で、国家予算レベルで赤字じゃ」
魔族たちからの批判も大きく、妾は打ち首じゃ、と自嘲する。
「ルドがいなければ何もできんというリザの言葉はもっともでな」
妾個人としては、リザと2人で田舎に引っ込むのも悪くないと思っておる、と続けた上で、
「客観視したら、こちらは、より悪い方の未来じゃ」
魔王様の言葉に、はっとして顔を上げる。
「他の3件も、より悪い未来に変わっている、ということですか・・・?」
「そのつもりで、構えておけ、という意味じゃ」
張り付いた様な笑顔でそう答える魔王様の、本当の言葉の意味は、
3件を目の当たりにしたときに、存分に思い知ることとなる。
「では、お世話になりました」
「ああ、リザには、妾から伝えておく」
「・・・魔王様、1つだけ質問をしてもいいですか?」
「なんじゃ?」
「どうして、侵入者で敵かもしれない俺の言葉を、信じてくれたんですか?」
「・・・死神の事件の、被害者たちを詳しく知っておったからな」
他にも、まだ理由がありそうな雰囲気だが、魔王様は言う気は無い様だ。
「さあ、早くルドを救いに行け」
背中を押され、俺は一礼すると、スキルを発動させた。
地面がぐらっと揺れ、ルドさんが襲われる直前の過去に飛び立つ。
さくっと影を倒し、呆然とするルドさんを残して、
次は、ルドさんが生き残った未来の、過去に飛ぶ直前の時間軸へと戻る。
ザッ
過去に消えたはずの俺が目の前に出てきて、魔王様とルドさんが目を見開く。
「な・・・どうしたんだ!ユイチ殿?!リザは!リザはどうなった!!」
怒りに震えながら叫ぶルドさんに、本当のことを話すのは、ひどく残酷な時間だった。
「なるほどな、どちらか1人しか救えんのか・・・」
考え込む魔王様と、項垂れるルドさんを目の前に、心がじゅくじゅくと痛む。
「しかし、その・・・もう一つの未来の妾が言っていた言葉が気になるな」
「・・・悪い方と、良い方の話ですか?」
「ああ・・・お主が改変する前の未来がすべて、良い方が選択されているとしたら・・・
何かこう、人為的なものを、妾は感じる」
「な・・・!つまり、誰かがどちらが死ぬのか決めているって言うんですか?!」
「まだ、確証は持てん」
だから、残りの3件を、どうか頼むと、魔王様が頭を下げる。
「わ、わ、魔王様がそんなことをしては・・・!」
「民のためなら、妾の頭など、何度でも下げようぞ」
そう言って、ふっと笑う、魔王様は、まぶしくてとても綺麗だった。
魔王城を後にした俺は、冒険者ギルドへと走り出した。
ギルドには、未来を変えた後の、妹の方を失ったメルたんが居るはずだ。




