表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/34

30

 颯が去っていった方とは逆の方へと歩いた。

 千鶴はどこまで行ったんだろう?誰かに捕まってなきゃいいけど。……心配だ。


 角を曲がると、向こうから誰かを探しているような素振りを見せる見慣れた人物と鉢合わせた。


「あ!神宮寺さん!」


 げっ、滝川由岐!こんなところに!

 あれ?浴衣じゃないんだ。家柄的にこういう時は着てるもんだと思ってたけど。

 いつも通りの制服姿でなんかちょっと興冷めじゃない?颯は役割上仕方ないかなぁとは思うけど。


「滝川様、浴衣ではないんですのね」

「それよりも!大変なんです!」


 おいおい。君が冷静でいてくれなきゃ生徒会は正常に機能しなくなるよ?

 それに今さら大変だって言われたって何も驚かないし。だって私は毎日大変なんだから。…どんな自虐ネタだよ、これ。


「シャルル殿下が襲撃に遭いました」


 滝川由岐は距離をつめ、他の生徒の耳に入れまいとするかのように私の耳に囁いてきた。

 それは…確かに一大事だ。


「シャルル様はご無事なんですの?」

「えぇ。賊は警備員室に」

「シャルル様は?」

「今、七瀬先輩達が賊の身元を調べていて、それを見ておくと…」


 駄々をこねたのか。まぁ、他にもいる可能性があるから一ヵ所に集まっといた方がいいか。


「私達も行きましょう」

「えぇ」


 私達は急いで校舎へと向かった。





 ええっと…これはまた。


『はぁ…休暇だと思ってきたらコレか。もうさぁ、どうしちゃってくれてんの?死にたいの?死ぬの?いいよ、死のっか?』

『クルルギさん~っ!はやまらないでください~!!』

『ヘタレはひっこめ』

『そ、そんな』

『…とりあえずそこらでやめていただけると嬉しいんだけど』


 救いなのはこの場にいる千鶴がミルフィーリエ語を知らないこと。さりとて見てしまったものはしょうがない。

 賊の主犯格らしき男の腹をグリグリとブーツの踵部分でえぐっている女の人にお願いした。ブーツといえど踵部分がなかなかに高くなってるやつだったから結構痛いと思うよ?自業自得ながら…ご愁傷様です。

 心の中で合掌。遠くでチーンという音が聞こえるような聞こえないような。


「…あぁ、神宮寺家の。私はミルフィーリエ王国近衛部隊副隊長のチカゲ・クルルギと申します。以後お見知りおきください」

「まぁ、ご丁寧にどうも」


 先程まで賊やギルバートに暴言を吐いていた人と同一人物とは思えないほど流暢な日本語で丁寧に挨拶をされた。お辞儀も忘れてない。

 チカゲ・クルルギって日本人名だよね?見た目も西洋寄りだけど日本人っぽいし。

 見た目きりっとした美人さん。パリコレとかミス・ユニバとかに出てそ~。

 近衛部隊でしかもそこの副隊長さんだったらかなりのエリートじゃないか。うわ~かなり憧れるかも。妹も欲しかったけどお姉ちゃんも欲しかったんだよね。


「この度は我が国の問題を学園内にもちこんでしまい申し訳ございませんでした。即刻本国に連れ帰り色々と吐かせます。護衛に寄越された隊員達も一度帰国させ鍛え直しますので。代わりのまだマシと思える者を寄越しますのでご容赦ください」

「分かりました」


 クルルギさんの言葉に朝霞恵斗が頷いた。

 なんかどーでもいいとか思ってそう。

 それよりも私は隅に控える護衛の方達の青ざめ通り越して白くなってる顔の方が気になる。そんなに嫌なの?


『お前達…私の仕事をよくもまぁ増やしてくれたなぁ』

『………………っ!!!』


 ………私は知っている。本当の恐怖を味わった時、人は何も言えなくなることを。

 もう一度心の中で合掌。今度は明らかな八つ当たりの気がしなくも…ない、かな?


 これでシャルルが狙われるというミルフィーリエ王国を揺るがしかねない事態は無事収拾された。


 でもさ、何も人が集まる時に狙わなくても…。自分達も入りやすいけど、こっちにとってもクルルギさんみたいな人を配備できるんだから。

 まぁ、あれだよね。……計画性はあったけどツメの甘い馬鹿。

 せめて要注意人物の動向くらいは常に把握するべきでしょ。私みたいにね?




 その後はもう花火の時間だったから屋上にあがってそこで花火を見た。

 あーぁ、もっと楽しみたかったのに。

 ん?鍵?…………借りたんだよ。


「奈緒ちゃん、これ。ジュースとかき氷」

「ありがとう」

「かき氷はちょっと溶けちゃってるけど…ごめんね?」


 ……愛いヤツ。そんなの気にしないのに。


「奈緒様。私も持って参りました」


 ウッソ!どれだけ早く行ってきたの!?

 しかも…きちんと揃ってる。きっと全ての屋台の位置を把握し、最短経路で行ってきたんだろう。

 ホント、颯から逃げ回るのは至難のワザだよ。


「……なーちゃん、そんなに入るの?」

「………………」


 七瀬礼司にそう言われ、私は無言で配給することにした。

 いや、あの時は半ばヤケクソで言ったから…。


 そうだよね。食べ物を無駄にしちゃダメだよね。


「奈緒、あーん」


 うん。おいしいよ。


「あ、奈緒ちゃん、こっちも」


 うん。おいしいよ。


 あれ?餌付けされてる?私。

 まぁ、もったいないし…くれるって言うなら。

 仕方ないよね!そう、仕方なく食べているんだよ、私は。


 ………………………ていうかなんでこいつらも一緒にいるんだろう?

 私は千鶴だけを連れ込んだつもりだったのに!


 これはもうあれよね。

 こいつらに彼女をあてがうべきなのよね。

 ていうかあんたら両家の子息でしょ?婚約者の一人や二人や三人いないの?


 …まぁ、今回は屋台の食べ物も食べれたし、綺麗な花火も千鶴や明日香ちゃん達の可愛い浴衣も見れたし良しとするか。


 でも私は諦めないからね!?

 こいつらから離れることを!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ