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話を数話繋げました!

ご迷惑をおかけした方、申し訳ございませんm(__)m

 あれから十二年。長いようで短かった。

とうとう今日は高等部の入学式。


 予定でいえば今日の入学式後に迷子になっていた主人公を助けだすことになっていたはず。


 高等部から奨学金で通うことになった主人公だ。そのまま庶民的な学校感覚でいると痛い目をみる。洸蘭学園(ここ)は馬鹿みたいに広い敷地だし、さもありなんといったところか。


 さて、黒のシャツに黒みがかかった紅色のチェック柄スカート、気分で変えられるリボンかネクタイ…今日はネクタイの気分だからネクタイにして、最後にジャケットを羽織れば支度の完成。


 うん、制服は気に入っていたりする。

着たい制服ナンバーワンにもなり続けているし。


 身支度を済ませて時計を見ると、そろそろ出る時間だ。


 中等部からは全生徒寮生活になり、例にもれず私もそのうちの一人。なんでもこの制度は家名を背負ってたつ子供達に少しでも安息の時間を、ということで始められたらしい。


 でも、私からしてみればいい迷惑にしかならない。なにが楽しくて四六時中奴等の近くにいなきゃいけないんだ。家で閉じ籠れるもんなら閉じ籠っていたいというのが私の率直な今の気持ちだ。


 そんなことできないというのは分かりきっているけど。


 寮の部屋から出てると自動的に鍵が閉まった。ちなみに開けるときは指紋認証型だ。いかんせん前世の記憶があるばかりに時々ふと物悲しくなる時がある。


 こんな寮部屋があっていいものかと。


 その寮自体も大勢の生徒がいるせいでいくつかに分かれ、どれもが一流ホテルのように内装が豪華だ。もちろん部屋の中も一流デザイナーが全て手掛けている。


 おかげでめちゃくちゃ居心地が悪くて私は入寮したその日に模様替えを敢行した。

 何が悲しくて部屋にシャンデリアなんぞをつけなければいけないのか。そんなものはホテルか実家で十分だ。

 実家のでさえ何度あの吊り部分から根こそぎ落としてやりたいと思ったことか。


 まったく。


 私の部屋は二階で、エレベーターを使う必要がないので毎日螺旋階段を登り降りしている。


 エレベーター…螺旋階段…。

なにも言わないでくれ。金持ち学校だから仕方ない。

公共のものだからこればっかりは変えられない。


「あら、神宮寺様。ごきげんよう」

「ごきげんよう。早く講堂の方に参りませんと入学式に遅れますわよ?」

「あら、本当」

「神宮寺様もご一緒に行きましょう?」

「誘っていただいてありがとうございます。でも私は別の方と待ち合わせしておりますの。申し訳ありません」

「あら、残念だわ」

「では、お先に失礼いたしますわ」

「えぇ」


 にこりと軽く微笑むと一階で談笑していた同じクラスの子達は寮のエントランスを出ていった。


 ふぅ。


 お嬢様言葉は本当に疲れる。これくらいの芸当身に付けなければここではやっていけない。必要な猫かぶりだ。

大目に見てほしい。


 まさかあんな言葉使いをする人達が実際にいるとは。

主人公がカルチャーショックを受けるはずだ。

私だって生まれや慣れがなければ同じ症状に陥っていた。


 さて、彼女達が行ってからだいぶ時間も経ったし、そろそろ行こうかな。なんで嘘ついたんだ、なんて野暮なことは聞かないで欲しい。


 主人公をちゃちゃっと見つけ、仲良くなる。

これ、今日の私の目標!!


 ドアを開けようとした時、私は後悔した。見たかったテレビ番組の予約を忘れていた時のあの、ん~ってなる後悔とは比べものにならないくらい。

 なんでさっさと行かなかったんだ、と。


「あれー?奈緒ちゃんじゃん!」


 出たんです、奴が。


「おっはよー!今から行くとこ?僕も一緒に行ってもいいかな?」


 ニコニコと眩しい笑顔を周囲にふりまきながら背後からやってきました。

生徒会書記、西條呉羽。

本性腹黒です。本性腹黒です。

大事なことなので二回言いました。


「……おはようございます、西條様。実は私、別の方とお約束がありますの」


 言外に行きたくないと伝えた。賢い彼はこれで気づいている。

 はずだ。はずなのだ!!


「えー?だって今出ていこうとしてたよね?」

「そう、ですか?」 ニコリ

「うん」 ニコリ


 …我が友よ。

もしかしたら助けられないかもしれない私めをお許しください。


 ………いかん。

こんなところで挫けるわけにはいかない。

なんのために今日まで色々と準備してきたんだ。


 がんばれ神宮寺奈緒!つまりがんばれ私!


「そういえば神園様はどうなさったんですか?」

「瑠偉ならまだ部屋で寝てるんだよ。なんかパスだってー」


 いかんでしょ、生徒会会計!

かなりマイペースなのにもほどがあるって!


 それに後から出てこられるのもまずい。

この世界、私が今までに立ちそうだったフラグをほとんどへし折ってきたせいで結構なバグが起こるようになってしまった。


 なんでか奴等になつかれてしまったではないかっ!

あれか、傍観者ルートもいじめっ子ルートもダメなら友達が正解のはずだ、ウハハハと心の中で高笑いしていたのがバレたのか?


 下手すると入学式後に迷子になるはずの主人公が入学式前に迷子になって、神園瑠偉とはち合わせ、なんてなってしまった日には…目も当てられない。


 えぇ、フラグをへし折りまくってきた私のせいですとも。

自覚はありますとも。


 だからこそ、この場も回避せねば。


 向かう先変更!講堂なんかじゃなく、ただ一つ。


 神園瑠偉の部屋!


「あ、奈緒ちゃん!待って!」


 エレベーターで最上階一つ下の階に行く。

階段なんかで行こうものなら足が筋肉痛になるのは間違いない階数だ。私にそんな自分の体を苛め抜く趣味はない。


 一緒にいくつもりなんてさらさらなかったのに、滑り込みセーフで西條呉羽が乗り込んできた。

運動神経のいい奴は嫌いだ。


 エレベーターのドアが開いた瞬間、私はここがいかに特別なもののために作られた階か改めて思い知った。

横でニコニコ笑ってる西條呉羽もこの階の住人だ。


 生徒会役員、風紀委員幹部のために作られた空間。正直、彼らを同じ階にした教師達の思考回路が分からない。

年上の方々に対する暴言はできるだけ避けたいが…バッカじゃなかろうか。


 …それに普通、廊下にうん千万もする絵画やら国宝級の陶器やらおくか!?いーや、置かないね。


 そう考えられる私はまだ多少なりとも庶民感覚が残っているようで嬉しい。


 …そんなことは今はどうでも良かった。

さっさと目的を果たさねば。


 ………ここだ。

純金のネームプレートには神園瑠偉とローマ字で彫られている。


 私は何のためらいもなくドアをドンドンドンと叩いた。

借金の取り立て屋になった気分だ。


 なんで私がこんなことまでしなきゃならんのか。

私は目覚ましじゃない!


 しかも起きない。


 もう一度叩く。


 起きない。


 ………ムカッ


「神園る…い様!お部屋にいらっしゃるのは分かっているんですのよ!早くお目覚めなさいませ!」


 ふひー危なかった。

つい怒りに我を失っていつも心の中で呼んでいるフルネーム敬称なしバージョンで呼んでしまうところだった。


 苦節十二年。

あと最短で三年は続けなければならない猫かぶりをここで水の泡にするわけにはいかない。


 もう一度ドアを叩こうとした時、中から開かずのドアと化していたドアが開かれた。


「………奈緒?」

「おはようございます。神園様。早くご準備をなさいませ。入学式に遅れてしまいますわよ?」


 青筋をたてないように、たてないように。

顔面表情筋のみなさん、頑張ってくれ!

 それでも頬がピクピクしてたのが自分でもわかってしまった。


 まだ眠たそうな目をゴシゴシとこすりながら神園瑠偉はさらにドアを開けた。


 今日が入学式ということをこの男は知らんのでは?

そう思えるくらい何の準備もしていない。


「入って」

「ここで結構ですわ。さぁ、早くご準備を」

「入ってくれたら、する」


 だぁーっ!!貴様は幼稚園児かっ!?


 だけど、本っ当に早くして欲しいので大人しく入った。


 ここには何度か訪れたことがある。あの時もやっぱり不可抗力だったっけ。何だかんだ流されている気がする。怖い。


 勝手知ったるもので、私は黒のソファーに腰を下ろした。


「ホント瑠偉って奈緒ちゃんの言うことだけは聞くよね?今日だって奈緒ちゃんが来なかったら行くつもりなかったでしょ?」

「うん」


 そこ、やめぇい!

 これ以上余計なフラグは立たさんで欲しい。


 今日からは主人公が私の友達になるんだからフラグへし折り回るには時間がなくなるんだよ。

これでも結構いっぱいいっぱいなんですよー、私。

これ以上するなら金とるぞ、こら。


 ……こほん、失礼。


「あ、由岐からLineが来てる」

「なんて?」

「早く来てください。あと五分」

「…無理ですわね」

「うん、無理」


 生徒会副会長、滝川由岐。

生徒会一の良心、またの名を苦労人。

ここが狂愛の舞台で、攻略対象だと分かっていなかったら、滝川由岐と主人公がくっつくというなら。

私は手伝っただろうに。まぁ、後で全っ力で後悔しただろうけど。


 間に合うのは無理と分かっていても、滝川由岐を待たせるのは忍びない。

できるだけ神園瑠偉を急がせ、三人共部屋を後にした。


 会長副会長はもう講堂にいってスタンバってるみたいだから、よし、これでもう大丈夫だ。いける。

さりげなく二人が両脇に回り、手を繋いできたが、放っておいた。

どこかに行かれるよりましだ。



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