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求・ヤンではなくクーな人達  作者: 綾織 茅


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19

 私の視線の先には件の彼、有馬君がいる。といっても向こうは気づいていないだろう。私が一方的に見てるだけなんだから。


 ………ストーカーじゃないからね?歴とした目的があるんです。


「神宮寺さん、この日本語訳は?」

「“世界には貧困地域が数多く存在するが、経済格差は広まる一方である。先進国などからの援助でなんとか持ちこたえている国もあるもののそれもまだ十分とは言えないだろう”……これでどうでしょうか?」

「……すばらしいわ!」


 なーにがすばらしいわ、よ。絶対私が話を聞いてないと思ってたわね?どう考えても当たる順番じゃないもの。それくらい計算してるし。しかもその笑顔の影でちらつく苦々しさ。

 …残念ね。私は挑戦は受ける主義だから。子供だからって甘く見られちゃ困るわ。


 …まぁ、集中していなかったのも本当だけど。だって理解できているものをできていないかのように振る舞って過ごすのってかなり根気がいることなんだから。息抜きぐらい、いいじゃない?いくら自分が選んでそうしているからっていってもね。


「ねぇねぇ、奈緒ちゃん」

「ん?」

「どうしたの?さっきからちらちら有馬君の方見てるけど」

「…ちょっと可愛い後輩の応援をね」

「後輩の?」


 退屈極まりなかった授業が終わり、机の上を片付けていると千鶴がトコトコとやってきた。


 先日会った有馬君の妹の親友である明日香ちゃんはいわゆる一目惚れをしたらしい。そう、有馬君に。会った瞬間、この人だっ!とビビッと何かが体の中を走ったそうな。


 幼等部の頃かららしいからかれこれ……三年か。それなりな数、なのかなぁ?うーん。なにせ私、何を隠そう片想いやら一目惚れやらはここにトリップしてくる前をトータルした人生でも一度もない。

 ………女として問題ないだろうか、この状況。別に私の理想が高いわけじゃないのに。普通の人。一般ピープル。優しい人だったらなお良し。ね?別に高望みしてるわけじゃないのに。誰かいないかなぁ…リア充羨ま。


「…………そうだ。千鶴は今までに好きな人いたことある?」

「…うん!奈緒ちゃん!」

「………そうね、私も好きよ?でも今は違うのよ。異性でってこと」

「あー…小さい時に近所に住んでたお兄ちゃんがかっこいいなぁと思ったくらい。すっごいんだよ?私と一つしか違わないのにすっごく物知りで」


 それから千鶴はその男の子がいかにすっごいのかを延々と教えてくれた。長い、長かった。ガールズトーク恐るべし。


 分かった、分かったよ!千鶴、君はその男の子のことを好きだったんじゃないか?そこに天然もってきちゃったかぁ。

 だけど、ふむ。年上を好む傾向が小さい頃にはあるらしいな。


 ………なぜ私がそういう人と巡り会わなかったか分かった気がする。小さい頃といえば向こうでは病院と家の往復だったし、こっちでは颯と朝霞恵斗がずっと側にいた。あの二人がくっつき虫のようにくっついていて近寄る者なんてたかが知れている。攻略キャラ達しかいない、だろう?


 なんだ?あいつらは何の恨みがあって私にこの仕打ち。


 ………あれか。ゲームをしていた時、一人くらいはヤンデレ回避行動をとっても大丈夫だろうと、たかがゲームだろうと侮っていたのがいけなかったのか。

 ……………………あー悲しすぎて涙すら出てこん。


 それよりも千鶴だ。


「その方は結局どうなったの?」

「んーなんか有名な研究所の人に連れていかれちゃった。何か分からないけどすっごい力があったって聞いたよ?」


 おい。フラグか?フラグなのか?

 でも、攻略キャラにはいなかった。ヤンデレとか変態とかそういうんじゃなかったら再会したら応援してあげよう。

 ………研究所っていうのが気になるけどね。


 千鶴が何やら至極ご機嫌なのでもうしばらくこのすっごいお兄さんの話を聞かせてもらうことにしよう。千鶴が嬉しいなら私も満足だ。

 そんな中、水をさすように私達の横に影ができた。


「神宮寺さん、放課後いいですか?」

「ごめんなさい。放課後は千鶴と勉強することにしているんですの。ほら、試験が近いでしょう?」


 だから君達はお呼びではないんだよ、滝川由岐クン。

どうせあの話だろう?私に聞くな。私も知らん。


「なら僕達が教えてあげますから」

「僕達と言っても、朝霞様とあなたしかいないではありませんか。お二人の勉強の邪魔になってはいけませんし。……なにより千鶴はあなた方の一つ下ですのよ?」


 暗に教えられる必要はないと言っておく。だって本当に必要ない。

 千鶴、天然だけどこの粒ぞろいの洸蘭の中で学年三位だもの。それがたまーにいる勘違いな方々に疎まれるの理由の一つでもあるんだけどね?

 私も別に今の順位から上がろうなんて思ってないし。むしろ苦労してこの順位だし。上位に来そうな人達の解答時のミス傾向や得意不得意分野による順位の変動予想。それから導きだされるこの教科での取得点数配分。 いやぁ~試験前ともなると苦労するのよ。可もなく不可もない位置にいることは。


「ナオ!試験があるとは本当か!?」

「え、えぇ」


 …びっくりしたぁ!シャルルや、あんたは気配を消す術をどこで手に入れたんだい?

 ……私にも教えてもらえないだろうか。

 それにしても試験を気にするなんて…あぁ、勉強嫌いか。


「ギル、ギルバート!」

「ここにおりますよ!」

「お前、ナオと勝負しろ。ナオが勝ったらお前は国へ帰れ。お前が勝ったらナオは学園祭の時に僕と回れ。二人共、いいか?」


 いいわけあるかぁ!それ、どちらにしろあんたに好都合だろ!むしろ損なし利益ばっかりだろうがっ!


 同じかどうかは分からないけど問題意識はあるらしくギルバートも難色を示している。

 ヘタレではあるが一応公爵家跡取り。頭は悪くない、どころか英才教育をされてきているから良い、かなり、良い。

 それなのに難色を示すのはこれがシャルルの悪い癖、我儘だからだろう。幼馴染み兼侍従兼お目付け役としては無理もない。


 そして私は話を聞いていた滝川由岐がスマホでどこに連絡をとったのかが気になる。大いに気になる。


 やはり我儘王太子はどこまでも私を振り回しに来たらしい。私の順位工作を全くの無下にしようとしている。


「殿下。そのお話しには乗れませんわ。シンクロワ様の方が頭がよろしいのは分かりきったことなんですもの」

「ほぉ。ナオ、勝負の前から棄権か?諦めて負けを認めるのか?」


 ……だまらっしゃい。そう何度も確認するな。私はそんな挑発に乗るような安い女じゃない!


 ………嘘、実はちょっと危なかった。


「奈緒」


 …認めたくはない、認めたくはないが、この会話の流れをぶったぎってくれそうな人物がやって来た。


 朝霞恵斗、この洸蘭の王様の登場だ。


 それにしてもこいつ堂々と他のクラスに入ってきて。しかも名前で呼ぶなよ!君は神宮寺さんで、私は朝霞様。OK?


「生徒会室へ行くぞ。あいつらに勉強教えてやれ」

「あいつら?」


 あいつらって……西條呉羽に神園瑠偉のことでしょ?でも、あの二人、試験をサボってるだけで頭は悪くないはず。


 …つまりなにか、私はあの二人が真面目にするための餌か、撒き餌か。


 まぁ、これ以上ここにいて勝負のことを持ち出されても困るし。


「千鶴、私、今から行ってくるけど」

「私も行く!」


 間髪入れずに返ってきた答えは予想できたものだった。なにかと西條呉羽に対抗意識を燃やす千鶴にとって勉強会をすることは都合がいいはずだ。いつもいつも言い負かされて煮え湯を飲まされているのだから。


 でもね、千鶴ちゃん、彼らは勉強をしないだけでできないわけじゃないのよ。

 そうよね、ムカつくわよね?でもこれが彼らに与えられたスキルなのよ。

 

 恨むならあなたを主人公として作り上げたゲーム制作者を恨んでちょうだい。私の分までよろしく!

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