序章
皆さんはこの世界が実はゲームの中の世界だったとしたらどう思うだろうか?しかも前世の自分がしていたゲーム。
待て。いや、すみませんごめんなさい、待ってください。私は頭の痛い子なんかじゃありませんから。事実なんですって。
確かに端から見たらかなり馬鹿げてるけれど。実際、私の周りでそういう人がいたらかなりひく。いや、私がそのそういう人なんだからひくもなにもないけどね。むしろ私がそうされる側だから思いっきりひかれる側なんだけどね?絶対そんなの嫌だ。
自分がされて嫌なことは相手にもしちゃいけない。うん、学んだよ?学びすぎて、あ、どうしよう涙と一緒に血吐きそう。
…話を戻そう。
まだこの学園に入学する前、本当に小さい頃からある学園の名前を聞いてもやもやというかぞわぞわというか…とにかく妙な気持ちになっていて、いざ通うことになって、やっとようやくその理由が分かった。
大きな門の向こうにそびえ立つ校舎を見た瞬間、脳内であの有名なベートーベンの曲が流れた気がしたね。ダーダーダーダーンってやつ。こんなBGMはいらない。運命ってなに、暗示なの?逃げられないぞ?っていう暗示なの?なんなの死ぬの?
前世の記憶を思い出した私は悟ってしまった。とんでもなくまずいことを。もう、ほら、ビビっと電流が走ったみたいだった。
私、コロサレル。
なにせゲームタイトル【永遠~愛か死か~】
うん。前世の私をぶん殴りたい。猛烈にぶん殴りたい。なにも、今わの際までやることはないはずだ。そんな時までゲームの画面を食い入るように見ていたなんて本当にお前は病気だったのか?未練たっぷりで死んでしまったからこんなとんでもない世界に生まれかわってしまったじゃないか。どうしてくれるんだ、私の人生。
聞こえるはずのない前世の私に向かっての文句。悲しすぎる。
ゲームの世界に生まれ変われるのか?ということは聞かないで欲しい。現実逃避するにはこの世界ではまだ序の口だ。
さて、この世界のことを先に説明しておこう。
決して道連れ…いやなんでもない。忘れて欲しい。
ゲームの舞台は私立、洸蘭学園。
日本最大規模を誇るこの学園は幼等部から大学までの全ての学舎を揃えており、その在学生徒数、敷地面積たるや日本最大の名を欲しいままにしている。
寮以外に住宅家屋はないものの、レストラン、公園、映画館、大型ショッピングモールなどなどと他にもたくさんこういったありえない施設が敷地内にあることからしてそこはもはや一つの街の形をとっているといっても過言ではない。
さすが上流階級ばかりが通う学園。
中には奨学金で通う生徒もいるが、そんなの一握りだ。
そして洸蘭は二大勢力が生徒をまとめあげている。
生徒会と風紀委員会で、どちらも生徒に様々な理由で絶大な人気を博している。
といったところがまぁ良いところって言えば良いところになる。
次、問題点だ。
ぶっちゃけ私は生まれ変わった環境に不満はない。
まぁ上流階級の子供に生まれ変わったせいで自由はないが、愛されているし、生活に不自由もない。
不満どころか満足ばかりだ。
しかし、それもここまで。
この学園に二大勢力がいることはさっき言った通りだ。
問題はその二大勢力、生徒会と風紀委員会だ。
この二つは仲が大層よろしくなく、いつでもいがみ合っている。そんな二つの組織に大層気に入られ、愛されたのがこのゲームの主人公。
ここで一つ、救いがある。
私は主人公ではない。主人公の友人Aだ。いじめっ子じゃなくて良かった。あっちになってたらどのエンドを通ろうと最悪なものしかない。…あ、でも死にはしなかったな、あっちの方は。
……いや!私は平和主義者だから穏便に友達でいたい!傍観者ルートも避けがたいけど、前世でこういう風になっちゃった携帯小説見てたら傍観者を選んでも結局片足どころか全身つっこんじゃってたからそれを生かしての友達ルートで!
あぁー、ゲーム片手に携帯小説読んで妄想してた日が懐かしい。ゲームはプロの作成者だから当然といえば当然だろうけど携帯小説はプロの人が作ったんじゃないのにとっても面白いものばっかりだった。…くっ。何故それだけで満足しなかったんだ私!
しかも二大勢力に愛された主人公は最後どうなったのか実は知らない。
知る前に前世の私は死んでしまったのだ。
なんて無責任な奴だったんだ、前世の私は!
…………こほん。
タイトルから想像するからにろくな最後にはならないだろう。
私も友人になる主人公がそんな目に会うのはいただけない。
だからとりあえず私にやれることをやってみよう。
私は隣でご機嫌な様子で私の手を引っ張るお母様を見上げた。
「お母様」
「なぁに?奈緒ちゃん」
「私、ここには行きたくありません」
「えっ!」
そう驚かないでください。
まだ見ぬ友のためです。
そして私のためでもあるんです。
可愛い可愛い娘がヤンデレ共のとばっちりにあって殺されてもいいんですか!?お母様!!
私に甘いお母様はきっと聞き入れてくれるはず。
結果、ダメでした。……私、高校卒業まで生きてられるかなぁ。今度こそ華の女子高生ライフを満喫したい!友達とショッピングしたりして遊びたい!野望ともいうべき望みは人並み以上にある。
やっぱり理由言わなきゃダメだったかなぁ?…言ったら精神科に連れていかれたかもしれないけど。
ものは試しと言ってみたら精神科には連れていかれなかった。
その代わり家に来た。お医者様が。オゥ。ソウデスヨネ~?
冗談だと嘘をつき、丁重におもてなしをした後帰ってもらった。本当に冗談だったら良かったのに。
どうやら大人達の間では私が彼らの気をひきたいがためについた嘘ということになっているらしい。仕事から帰ってきたお父様からフリッフリのワンピースやらドレスやら宝石やらが私に贈られた。なかなか構ってやれなかったお詫びの品だそうだ。
お父様達はよかれと思ってしたことだろうけど、かえって拷問だった。あのドレスを着せられて夜会に出たときの恥ずかしさは一生忘れない。