表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

路上演説

作者: うめひじき

「私は願いを叶えられる力を持っている。お前になら使ってもいいと思った」


 突如目の前に現れた、黒いスーツを着る長身の男。20代後半から30代半ばくらいの年齢だろうか。汚れ一つないピカピカの黒いスーツと帽子と革靴が、すごく似合うダンディーな男。口を開くと、整えられた口髭が動いた。


「私はお前の演説に心を打たれた。この世の悲惨さを哀れんだ、この世の平和を唱える演説にだ。誰でも自分にとっての平和がある。だがしかし、それがあるからといって何かしようというわけではない。しかしお前は違う。人前で恥ずかしがりも悪びれもせず、演説している」


 そう、私は演説をしている。戦争ばかりする戦争馬鹿がつくった、こんな国と世界が不満だからだ。今もどこで誰かが撃ち殺されているのが不満だからだ。自分の身だけ案じる隣人達が不満だからだ。ただただ、不満だからだ。

 私は立ち上がる決心をした。こんなクソみたいな世界を、平和で住み良い世界につくり変える為に。だが道を歩く者達は、誰も私の話を真面目に聴いてはくれなかった。真面目に話を聴いてくれたのは、この黒いスーツの男だけだ。何日も何ヶ月も演説をした。だが、この男だけだった。


「どうする。君の願いは何だ?」


 ……私の願い。この悲惨で残酷な不満だらけの世界を、平和で住み良い世界に変えること。この男の言うとおり、人それぞれ自分にとっての平和がある。そう、ならば、だから、私の願いはこれだ。


「私の不満をとってくれ」


「……いいだろう、願いを聞き入れよう」


 そう言うと、男はどこかへと姿を消した。その後、路上演説をする男の姿を見たものはいない。

人それぞれの平和、ですから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 痛烈な風刺ですね・・・ でも実際戦争にまで至ったらみんな動き出す・・・はず。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ