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【ファンタジー落語】メデューサ捕り

作者: 村上しのぶ
掲載日:2026/09/09

????   「アニキ、やっぱりやめましょうよ」

????   「どうしたい、怖気付いたってのかい?」

????   「だって、ここメデューサの洞窟ですよ」

????   「そうだよ。俺たちゃメデューサを生け捕りに来たんだからな」

????   「やっぱりやめましょうよ。だってメデューサったら、アレでしょ?目が合ったら石になっちゃうっていう、女の化け物でしょ?そんでもって、髪の毛が蛇だっていう、とんでもないモンスターですよ?」

????   「そうよ」

????   「今までたくさんの冒険者たちが挑戦したけど、誰一人帰ってきたものはいない。みんな石になっちゃったっていう話じゃないですか」

????   「そうよ」

????   「やめましょうよ、そんな化け物捕まえにいくのは」

????   「その化け物に王様が報酬をかけてるってんだから、行くんじゃねえか。ええ?見事メデューサを退治して、首を持ち帰ったものには100万ゴールド、生け捕りにしてきたものには500万ゴールドなんだから、行って生け捕りにしないわけにはいかねえ」

????   「参加賞で2ゴールドっての、ありませんでしたかねえ」

????   「あるわけねえだろ!なあ、ウンポコ。おめえは今まで何年冒険者やってきたんだ」

ウンポコ   「今年で10年になりますけど」

????   「その10年間、いいことあったか?」

ウンポコ   「そうたいしてありませんでしたね。そろそろこんな稼業から足を洗おうかと思ってるんですけど、なにぶん先立つものがないもんですから」

????   「そうだろう。でも、見事メデューサを生捕りにしたとなりゃあ、お前は英雄だよ?国民から末代まで称えられるよ。王様からがっぽり大金もらって、冒険者引退できるよ。そしたら王都の郊外に一軒家を建てて、田舎から両親を呼び寄せられる。それだけじゃない、田畑の2、3枚買ってもお釣りがくるよ。後は悠々自適の生活が待ってるってなもんよ」

ウンポコ   「そうですかねえ?エルフの嫁さんでも貰えますかね?」

????   「エルフだろうがなんだろうが、よりどりみどりよ」

ウンポコ   「へへ、それじゃあ、張り切っちゃいましょうかね。ですが、アニキ、今、俺のこと、ウンポコって呼びました?」

????   「おめえはウンポコだろ?」

ウンポコ   「いや、落語だと普通こういう場合、熊とか八になるんじゃないかと思って」

????   「ファンタジーに熊とか八がいるかよ。ファンタジーにいるのは、ウンポコとロベールに決まってらあ」

ウンポコ   「するってえとアニキは?」

ロベール   「ロベールよ」

ウンポコ   「ずるいよ、アニキ。いい方取っちゃって」

ロベール   「俺の方が先輩なんだ、つべこべ言うな」

ウンポコ   「ところでアニキ。このまま洞窟の中に入っていっちゃって、大丈夫ですかね?出会い頭にメデューサとバッタリってなことになったら、どうするんです?」

ロベール   「それは大丈夫だ。今は昼間だろ?メデューサってのは、昼間は寝てるんだ。だからこっそり昼間に入っていけば、バッチリ生け捕りにできるっていう寸法よ」

ウンポコ   「へえ、昼間に寝込みを襲うんですかい。なんかいやらしいですね」

ロベール   「変なこと言うなよ」

ウンポコ   「でも、うっかり目を覚ましちまったら、どうするんです?トイレにでも起きてきたら?」

ロベール   「オヤジみてえなメデューサだな。そんなときでも平気なように、ちゃんと装備を持ってきたろ?この通り、裏が鏡になってる盾をわざわざあつらえてきたじゃねえか。この鏡を見ながら、後ろ歩きでそろそろ進めば、万が一、メデューサが目を覚ましたって、石になんかなりゃしねえよ」

ウンポコ   「へえ、そうなんですかい。でも、俺は盾を持ってませんよ」

ロベール   「おめえは俺の動きを見ながら、同じようにそろそろ後ろ歩きすりゃいいんだよ。ほら、四の五の言ってねえで、とっとと進むぞ」

ウンポコ   「へえへえ、ああ、何事もなければいいけどなあ。どうかメデューサが目を覚ましませんように。うわっ」

ロベール   「なんでい、急に驚いて」

ウンポコ   「せ、せ、石像が立ってますよ!」

ロベール   「ほう、こりゃメデューサに石にされた冒険者だな」

ウンポコ   「ま、まだ入り口入ったばっかですよ!まずくないですか?」

ロベール   「なんでよ」

ウンポコ   「だって、この辺までメデューサがやってくるっていうことでしょ?」

ロベール   「ちょうどいいじゃねえか。奥まで行かなくてもいいかもしれねえぞ。ははあ、こいつは戦士だな。『あっ』てな顔してんな、マヌケだな。メデューサを見て『あっ』っつって固まっちゃったんだな。こっちはエルフか?『ふぁ?』ってな顔してんな。戦士が『あっ』っつったから、『ふぁ?』って見たら、運悪く目が合っちまったんだな、メデューサと。おいウンポコ、いつまで見てんだよ。とっとと行くぞ」

ウンポコ   「いえ、俺、エルフをじっくり見たの初めてなもんですから。へえ、噂には聞いてたけど、エルフってのは綺麗なもんですね。この石像、持って帰って家の玄関にでも飾っておこうかな」

ロベール   「いやらしいこと考えてんじゃねえよ。さっきも言ったろう、メデューサ生け捕りにすりゃあ、エルフなんてよりどりみどりだって」

ウンポコ   「ねえ、アニキ。こいつら二人、出来てたんすかねえ?この戦士、エルフと二人でイチャイチャ冒険してたんすかねえ?」

ロベール   「知らねえよ、とっとと行くぞ」

ウンポコ   「あ、よく見るとこっちの戦士は、そうたいして男前じゃねえな。この野郎、こんなマヌケ面のくせしてエルフとイチャイチャか!かーっ、なんでこう世の中は不公平に出来てやがんのかな、チクショー!」

ロベール   「石像に嫉妬してんじゃないよ。ほら、先に進むぞ。盾を見ながら後ろ向きにそろそろ進むんだから、早くしねえと日が暮れちまう。メデューサが起きてこないうちにとっとと奥まで行こうぜ」

ウンポコ   「あ、待ってくださいよ。うわっ、たたっ!」

ロベール   「どうしたい急に?」

ウンポコ   「なんかにつまづいたんすよ。後ろ向きに進むってのは厄介ですねえ。あれ、これ、石像だねえ。アニキ、ここにも石像がありますよ。ははあ、こりゃホビットだな。お調子者みたいな面してやがる。あ、こっちはドワーフだね。酒樽みてえだな。なんだ、こいつら二人じゃなかったのか」

ロベール   「エルフとイチャイチャじゃなかったってわけだな」

ウンポコ   「いや、分かりませんよ。『おや、お二人さん、どこ行くんでがす?』なんてね。『そっちはさっき確認したでしょ、何もなかったでしょ』なんて。エルフと戦士の二人が、こそこそやってんのを、ホビットが目ざとく見つけたりなんかしてね。『ねえ、ドワーフのダンナ。あいつらまた二人だけでいなくなっちまいやがったですよ』『何、けしからん。だからワシはエルフの小娘なんかと組むのは反対だったんじゃ。あいつらこの斧のサビにしてくれる』なんてドワーフが言ったりしてね。そんでもってエルフが『ねえ、あのホビットとドワーフ、邪魔じゃない?』なんつって戦士に言うわけですよ。そんで戦士が『そうだな、よし、いい考えがある。あいつらをメデューサの洞窟に連れていって、石にしてしまおう』なんて悪巧みをしたときた。でも悪いことは出来ねえもんで、ホビットとドワーフを石にして、二人だけで逃げようと思っていたら、まさかまさかのメデューサがこんなところまで出て来て、『あっ』『ふぁ?』てなもんですよ。ねえ、アニキ?アニキ?どこ行くんです?待ってくださいよお!」

ロベール   「おめえのことは待ってらんねえ」

ウンポコ   「酷いじゃないですか、もう。俺に前を向かせないでくださいよ。メデューサが出てきたらどうすんです?」

ロベール   「だったら俺の側にいて、後ろ向きにそろそろ進みやがれ!」

ウンポコ   「はいはい、進みますよ、進みますよ。後ろ向きにそろそろ、そろそろと。やだねえ、洞窟は、陰気だねえ。そろそろ、そろそろ。もう奥まで進みましたかねえ?」

ロベール   「まだもうちょっと先だろ」

ウンポコ   「ねえ、アニキ。メデューサって、何を食ってんでしょうね?」

ロベール   「なんだよ、いきなり」

ウンポコ   「いやね。俺はてっきり、人を食うのかと思っていたんですけど、見た途端に石になっちまったら、食えないですよね」

ロベール   「まあ、そうだな」

ウンポコ   「じゃあ、何食ってんですかね?」

ロベール   「意外と菜食主義者なのかもしれねえな」

ウンポコ   「菜食主義?ベジタリアン?メデューサが?」

ロベール   「だってよ、人間が石になるってことは、動物だって石になるよな。その辺の鹿とか捕まえようとしたって、見た途端ピキーンて石になっちまうんじゃあ、食えないじゃねえか。だからよ、昼間は洞窟の中で寝て、夜は外で木の実や野草なんかを探し歩くのが、メデューサの生活なんじゃないかな」

ウンポコ   「へえ、メデューサが木の実や野草ですか。意外とお淑やかなのかもしれないですね」

ロベール   「あとは魚を半ぺらだけだな」

ウンポコ   「魚は食うんすか?何で半ぺらなんです?」

ロベール   「だって、魚は左右に片方ずつ目がついてるだろ?だからメデューサを見るとしたって、片方だけだよな。で、見た方はピキーンて石になっちまう。でも片側だけだ。そこで素早く二枚に下ろす」

ウンポコ   「二枚?三枚じゃねえんですかい?」

ロベール   「片側石になってんだから、三枚には下ろせねえ。だから二枚に下ろした半分を、干物にして、ひっくり返さないように注意して焼いたら、ひっくり返さないようにして食べる。注意深く食べなきゃならねえぞ。なんせ返した途端ピキーンだからな」

ウンポコ   「メデューサも苦労してんですねえ」

ロベール   「それだけじゃねえ。メデューサの髪の毛は蛇でできてんだ。この蛇の奴らを食わせなきゃなんねえ。蛇は鳥の卵を食べるよな。だから鳥の巣があるところまで木を登っていって、蛇に卵を食わせるんだよ」

ウンポコ   「へえ、そりゃ大変ですねえ。なんかメデューサが健気な奴に思えてきたなあ。アニキ、そんな奴を生け捕りにしちゃって、可哀想じゃないですかねえ」

ロベール   「可哀想って、500万ゴールドを忘れたってのかい?」

ウンポコ   「いや、そんなわけじゃねえんですけど」

ロベール   「大丈夫だって、悪いようにはしねえんだから」

ウンポコ   「そうすかねえ」

ロベール   「俺を信じろって。ほら、そろそろ奥まで着くぞ。くっちゃべってる場合じゃねえぞ」

ウンポコ   「あ、アニキ!鏡になんか、ぼんやり人影のようなものが映ってますよ!」

ロベール   「よーし、やってきたな」

ウンポコ   「メ、メデューサっすかね?」

ロベール   「ああ、メデューサだ、間違いねえ。気持ちよさそうに寝てんなあ。お休みのところ、アンタには悪いけど、ちょいと寝込みを失礼するよ」

ウンポコ   「あ、アニキ、蛇の野郎が起きてますよ!」

ロベール   「ああ心配すんなって。こんなこともあろうかと、蛇の餌を用意してきたからな」

ウンポコ   「蛇の餌?」

ロベール   「ああ、卵だよ。こいつを食わせりゃ、蛇は大人しくなるから。ちょっとここにランプを置いて、懐から卵を出してっと。おい、ウンポコ。おめえ、ちょっとこいつを蛇に食わせてやってくんな」

ウンポコ   「え、俺っすか?」

ロベール   「当たり前だろ。俺は片手に盾で片手にランプなんだから。ほら、見やすい位置に持っててやるから、こいつを蛇に食わせてやってくれ」

ウンポコ   「しょうがないなあ」

ロベール   「あっ、こら!メデューサの方を向くんじゃねえよ。石になっちまうだろ」

ウンポコ   「だって、見ないと食わせらんないですよ」

ロベール   「鏡を見ながら、後ろ手で食わせるんだよ」

ウンポコ   「そんな器用なことできますかね?えーっと、後ろ手で、そーっと?難しいな。ほら、蛇さん。卵をあげるから、大人しくしててちょうだいよ、と。あ、いけね。やっちまった。卵を割っちゃいましたよ」

ロベール   「あーあー、酷いな。卵の中身が蛇にかかっちまった」

ウンポコ   「うわあ、蛇同士がお互いに卵がかかった隣の蛇に噛みつきあってますぜ。共食いだ、こりゃ」

ロベール   「しょうがねえなあ、もう。このままメデューサをふん縛って持ってくしかないな。ほら、ロープを渡すから、今度はしっかりやるんだぞ」

ウンポコ   「また俺っすか?」

ロベール   「当たり前だよ。俺は片手に盾で片手にランプだって言ったろ?俺が指示してやるから、言う通りにやるんだぞ。ほら、そっちにロープを通して、そこを回して。だからメデューサの方を見るんじゃねえ!後ろ手にやるんだ、後ろ手に」

ウンポコ   「へえ、へえ。後ろ手ですねえ、後ろ手、後ろ手。こっちを通して、ここで回して。ああ、やりにくいったら、ありゃしない」

ロベール   「よし、出来たな。とっととずらかるぞ」

ウンポコ   「あ、アニキ!」

ロベール   「何だよ」

ウンポコ   「メデューサと一緒に、俺まで縛られちまってます!」

ロベール   「しょうがねえなあ。まあ、いいや。そのまま負ぶっていけばいいだろう」

ウンポコ   「負ぶってですか?よっこらしょっと」

ロベール   「ああ、帰りは前見てまっすぐ行けばいいからな。楽ちんでいいや」

ウンポコ   「そりゃアニキは楽ちんでいいですけど、俺はメデューサ負ぶってんですよ」

ロベール   「四の五の言ってんじゃねえよ。500万ゴールドがまってんだ、500万ゴールドが。エルフのねーちゃん、よりどりみどりだ」

ウンポコ   「ねえ、アニキ」

ロベール   「何だよ」

ウンポコ   「メデューサ、まだ寝てますよね?」

ロベール   「ああ、寝てるよ。ぐっすりだ」

ウンポコ   「どんな顔してんです?」

ロベール   「顔?意外と可愛い寝顔してんな」

ウンポコ   「え、じゃあ、割と美人なんですか」

ロベール   「割とっつうか、こりゃなかなかのもんだぜ。髪の毛は共食いしちゃってるから、今は荒れてるけど、トリートメントしたら意外と綺麗になるんじゃねえか?案外、絶世の美女と言っても通用するかもしれねえな」

ウンポコ   「絶世の美女っすか?」

ロベール   「下手すりゃ、さっきのエルフより可愛いんじゃねえか?」

ウンポコ   「え、そうなんですか。じゃあ、俺、このままでもいいかも」

ロベール   「何だよ、このままでもいいかもって」

ウンポコ   「いや、いえね、俺、ちょっと変な気持ちになっちゃったというか、その、なんか、さっきから背中が柔らかいんですよね」

ロベール   「おいおい、妙なこと考えるんじゃねえぞ」

ウンポコ   「俺、こんな風に女の人にべったりくっつかれるの、初めてなもんすから。メデューサって、菜食主義で、魚も半ぺらしか食わねえし、苦労してるみたいだし。嫁さんにするのには、エルフのねーちゃんより、いいのかな、なんて。ねえ、アニキ、メデューサさんを、俺にくれませんかね?」

ロベール   「俺はメデューサの親じゃねえぞ!」

ウンポコ   「いや、俺ならメデューサさんを幸せにできると思うんです!」

ロベール   「大変だぞ?一生、相手の顔を直接見れなくてもいいんだな?」

ウンポコ   「恋は盲目って言いますから」

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