【ファンタジー落語】メデューサ捕り
???? 「アニキ、やっぱりやめましょうよ」
???? 「どうしたい、怖気付いたってのかい?」
???? 「だって、ここメデューサの洞窟ですよ」
???? 「そうだよ。俺たちゃメデューサを生け捕りに来たんだからな」
???? 「やっぱりやめましょうよ。だってメデューサったら、アレでしょ?目が合ったら石になっちゃうっていう、女の化け物でしょ?そんでもって、髪の毛が蛇だっていう、とんでもないモンスターですよ?」
???? 「そうよ」
???? 「今までたくさんの冒険者たちが挑戦したけど、誰一人帰ってきたものはいない。みんな石になっちゃったっていう話じゃないですか」
???? 「そうよ」
???? 「やめましょうよ、そんな化け物捕まえにいくのは」
???? 「その化け物に王様が報酬をかけてるってんだから、行くんじゃねえか。ええ?見事メデューサを退治して、首を持ち帰ったものには100万ゴールド、生け捕りにしてきたものには500万ゴールドなんだから、行って生け捕りにしないわけにはいかねえ」
???? 「参加賞で2ゴールドっての、ありませんでしたかねえ」
???? 「あるわけねえだろ!なあ、ウンポコ。おめえは今まで何年冒険者やってきたんだ」
ウンポコ 「今年で10年になりますけど」
???? 「その10年間、いいことあったか?」
ウンポコ 「そうたいしてありませんでしたね。そろそろこんな稼業から足を洗おうかと思ってるんですけど、なにぶん先立つものがないもんですから」
???? 「そうだろう。でも、見事メデューサを生捕りにしたとなりゃあ、お前は英雄だよ?国民から末代まで称えられるよ。王様からがっぽり大金もらって、冒険者引退できるよ。そしたら王都の郊外に一軒家を建てて、田舎から両親を呼び寄せられる。それだけじゃない、田畑の2、3枚買ってもお釣りがくるよ。後は悠々自適の生活が待ってるってなもんよ」
ウンポコ 「そうですかねえ?エルフの嫁さんでも貰えますかね?」
???? 「エルフだろうがなんだろうが、よりどりみどりよ」
ウンポコ 「へへ、それじゃあ、張り切っちゃいましょうかね。ですが、アニキ、今、俺のこと、ウンポコって呼びました?」
???? 「おめえはウンポコだろ?」
ウンポコ 「いや、落語だと普通こういう場合、熊とか八になるんじゃないかと思って」
???? 「ファンタジーに熊とか八がいるかよ。ファンタジーにいるのは、ウンポコとロベールに決まってらあ」
ウンポコ 「するってえとアニキは?」
ロベール 「ロベールよ」
ウンポコ 「ずるいよ、アニキ。いい方取っちゃって」
ロベール 「俺の方が先輩なんだ、つべこべ言うな」
ウンポコ 「ところでアニキ。このまま洞窟の中に入っていっちゃって、大丈夫ですかね?出会い頭にメデューサとバッタリってなことになったら、どうするんです?」
ロベール 「それは大丈夫だ。今は昼間だろ?メデューサってのは、昼間は寝てるんだ。だからこっそり昼間に入っていけば、バッチリ生け捕りにできるっていう寸法よ」
ウンポコ 「へえ、昼間に寝込みを襲うんですかい。なんかいやらしいですね」
ロベール 「変なこと言うなよ」
ウンポコ 「でも、うっかり目を覚ましちまったら、どうするんです?トイレにでも起きてきたら?」
ロベール 「オヤジみてえなメデューサだな。そんなときでも平気なように、ちゃんと装備を持ってきたろ?この通り、裏が鏡になってる盾をわざわざあつらえてきたじゃねえか。この鏡を見ながら、後ろ歩きでそろそろ進めば、万が一、メデューサが目を覚ましたって、石になんかなりゃしねえよ」
ウンポコ 「へえ、そうなんですかい。でも、俺は盾を持ってませんよ」
ロベール 「おめえは俺の動きを見ながら、同じようにそろそろ後ろ歩きすりゃいいんだよ。ほら、四の五の言ってねえで、とっとと進むぞ」
ウンポコ 「へえへえ、ああ、何事もなければいいけどなあ。どうかメデューサが目を覚ましませんように。うわっ」
ロベール 「なんでい、急に驚いて」
ウンポコ 「せ、せ、石像が立ってますよ!」
ロベール 「ほう、こりゃメデューサに石にされた冒険者だな」
ウンポコ 「ま、まだ入り口入ったばっかですよ!まずくないですか?」
ロベール 「なんでよ」
ウンポコ 「だって、この辺までメデューサがやってくるっていうことでしょ?」
ロベール 「ちょうどいいじゃねえか。奥まで行かなくてもいいかもしれねえぞ。ははあ、こいつは戦士だな。『あっ』てな顔してんな、マヌケだな。メデューサを見て『あっ』っつって固まっちゃったんだな。こっちはエルフか?『ふぁ?』ってな顔してんな。戦士が『あっ』っつったから、『ふぁ?』って見たら、運悪く目が合っちまったんだな、メデューサと。おいウンポコ、いつまで見てんだよ。とっとと行くぞ」
ウンポコ 「いえ、俺、エルフをじっくり見たの初めてなもんですから。へえ、噂には聞いてたけど、エルフってのは綺麗なもんですね。この石像、持って帰って家の玄関にでも飾っておこうかな」
ロベール 「いやらしいこと考えてんじゃねえよ。さっきも言ったろう、メデューサ生け捕りにすりゃあ、エルフなんてよりどりみどりだって」
ウンポコ 「ねえ、アニキ。こいつら二人、出来てたんすかねえ?この戦士、エルフと二人でイチャイチャ冒険してたんすかねえ?」
ロベール 「知らねえよ、とっとと行くぞ」
ウンポコ 「あ、よく見るとこっちの戦士は、そうたいして男前じゃねえな。この野郎、こんなマヌケ面のくせしてエルフとイチャイチャか!かーっ、なんでこう世の中は不公平に出来てやがんのかな、チクショー!」
ロベール 「石像に嫉妬してんじゃないよ。ほら、先に進むぞ。盾を見ながら後ろ向きにそろそろ進むんだから、早くしねえと日が暮れちまう。メデューサが起きてこないうちにとっとと奥まで行こうぜ」
ウンポコ 「あ、待ってくださいよ。うわっ、たたっ!」
ロベール 「どうしたい急に?」
ウンポコ 「なんかにつまづいたんすよ。後ろ向きに進むってのは厄介ですねえ。あれ、これ、石像だねえ。アニキ、ここにも石像がありますよ。ははあ、こりゃホビットだな。お調子者みたいな面してやがる。あ、こっちはドワーフだね。酒樽みてえだな。なんだ、こいつら二人じゃなかったのか」
ロベール 「エルフとイチャイチャじゃなかったってわけだな」
ウンポコ 「いや、分かりませんよ。『おや、お二人さん、どこ行くんでがす?』なんてね。『そっちはさっき確認したでしょ、何もなかったでしょ』なんて。エルフと戦士の二人が、こそこそやってんのを、ホビットが目ざとく見つけたりなんかしてね。『ねえ、ドワーフのダンナ。あいつらまた二人だけでいなくなっちまいやがったですよ』『何、けしからん。だからワシはエルフの小娘なんかと組むのは反対だったんじゃ。あいつらこの斧のサビにしてくれる』なんてドワーフが言ったりしてね。そんでもってエルフが『ねえ、あのホビットとドワーフ、邪魔じゃない?』なんつって戦士に言うわけですよ。そんで戦士が『そうだな、よし、いい考えがある。あいつらをメデューサの洞窟に連れていって、石にしてしまおう』なんて悪巧みをしたときた。でも悪いことは出来ねえもんで、ホビットとドワーフを石にして、二人だけで逃げようと思っていたら、まさかまさかのメデューサがこんなところまで出て来て、『あっ』『ふぁ?』てなもんですよ。ねえ、アニキ?アニキ?どこ行くんです?待ってくださいよお!」
ロベール 「おめえのことは待ってらんねえ」
ウンポコ 「酷いじゃないですか、もう。俺に前を向かせないでくださいよ。メデューサが出てきたらどうすんです?」
ロベール 「だったら俺の側にいて、後ろ向きにそろそろ進みやがれ!」
ウンポコ 「はいはい、進みますよ、進みますよ。後ろ向きにそろそろ、そろそろと。やだねえ、洞窟は、陰気だねえ。そろそろ、そろそろ。もう奥まで進みましたかねえ?」
ロベール 「まだもうちょっと先だろ」
ウンポコ 「ねえ、アニキ。メデューサって、何を食ってんでしょうね?」
ロベール 「なんだよ、いきなり」
ウンポコ 「いやね。俺はてっきり、人を食うのかと思っていたんですけど、見た途端に石になっちまったら、食えないですよね」
ロベール 「まあ、そうだな」
ウンポコ 「じゃあ、何食ってんですかね?」
ロベール 「意外と菜食主義者なのかもしれねえな」
ウンポコ 「菜食主義?ベジタリアン?メデューサが?」
ロベール 「だってよ、人間が石になるってことは、動物だって石になるよな。その辺の鹿とか捕まえようとしたって、見た途端ピキーンて石になっちまうんじゃあ、食えないじゃねえか。だからよ、昼間は洞窟の中で寝て、夜は外で木の実や野草なんかを探し歩くのが、メデューサの生活なんじゃないかな」
ウンポコ 「へえ、メデューサが木の実や野草ですか。意外とお淑やかなのかもしれないですね」
ロベール 「あとは魚を半ぺらだけだな」
ウンポコ 「魚は食うんすか?何で半ぺらなんです?」
ロベール 「だって、魚は左右に片方ずつ目がついてるだろ?だからメデューサを見るとしたって、片方だけだよな。で、見た方はピキーンて石になっちまう。でも片側だけだ。そこで素早く二枚に下ろす」
ウンポコ 「二枚?三枚じゃねえんですかい?」
ロベール 「片側石になってんだから、三枚には下ろせねえ。だから二枚に下ろした半分を、干物にして、ひっくり返さないように注意して焼いたら、ひっくり返さないようにして食べる。注意深く食べなきゃならねえぞ。なんせ返した途端ピキーンだからな」
ウンポコ 「メデューサも苦労してんですねえ」
ロベール 「それだけじゃねえ。メデューサの髪の毛は蛇でできてんだ。この蛇の奴らを食わせなきゃなんねえ。蛇は鳥の卵を食べるよな。だから鳥の巣があるところまで木を登っていって、蛇に卵を食わせるんだよ」
ウンポコ 「へえ、そりゃ大変ですねえ。なんかメデューサが健気な奴に思えてきたなあ。アニキ、そんな奴を生け捕りにしちゃって、可哀想じゃないですかねえ」
ロベール 「可哀想って、500万ゴールドを忘れたってのかい?」
ウンポコ 「いや、そんなわけじゃねえんですけど」
ロベール 「大丈夫だって、悪いようにはしねえんだから」
ウンポコ 「そうすかねえ」
ロベール 「俺を信じろって。ほら、そろそろ奥まで着くぞ。くっちゃべってる場合じゃねえぞ」
ウンポコ 「あ、アニキ!鏡になんか、ぼんやり人影のようなものが映ってますよ!」
ロベール 「よーし、やってきたな」
ウンポコ 「メ、メデューサっすかね?」
ロベール 「ああ、メデューサだ、間違いねえ。気持ちよさそうに寝てんなあ。お休みのところ、アンタには悪いけど、ちょいと寝込みを失礼するよ」
ウンポコ 「あ、アニキ、蛇の野郎が起きてますよ!」
ロベール 「ああ心配すんなって。こんなこともあろうかと、蛇の餌を用意してきたからな」
ウンポコ 「蛇の餌?」
ロベール 「ああ、卵だよ。こいつを食わせりゃ、蛇は大人しくなるから。ちょっとここにランプを置いて、懐から卵を出してっと。おい、ウンポコ。おめえ、ちょっとこいつを蛇に食わせてやってくんな」
ウンポコ 「え、俺っすか?」
ロベール 「当たり前だろ。俺は片手に盾で片手にランプなんだから。ほら、見やすい位置に持っててやるから、こいつを蛇に食わせてやってくれ」
ウンポコ 「しょうがないなあ」
ロベール 「あっ、こら!メデューサの方を向くんじゃねえよ。石になっちまうだろ」
ウンポコ 「だって、見ないと食わせらんないですよ」
ロベール 「鏡を見ながら、後ろ手で食わせるんだよ」
ウンポコ 「そんな器用なことできますかね?えーっと、後ろ手で、そーっと?難しいな。ほら、蛇さん。卵をあげるから、大人しくしててちょうだいよ、と。あ、いけね。やっちまった。卵を割っちゃいましたよ」
ロベール 「あーあー、酷いな。卵の中身が蛇にかかっちまった」
ウンポコ 「うわあ、蛇同士がお互いに卵がかかった隣の蛇に噛みつきあってますぜ。共食いだ、こりゃ」
ロベール 「しょうがねえなあ、もう。このままメデューサをふん縛って持ってくしかないな。ほら、ロープを渡すから、今度はしっかりやるんだぞ」
ウンポコ 「また俺っすか?」
ロベール 「当たり前だよ。俺は片手に盾で片手にランプだって言ったろ?俺が指示してやるから、言う通りにやるんだぞ。ほら、そっちにロープを通して、そこを回して。だからメデューサの方を見るんじゃねえ!後ろ手にやるんだ、後ろ手に」
ウンポコ 「へえ、へえ。後ろ手ですねえ、後ろ手、後ろ手。こっちを通して、ここで回して。ああ、やりにくいったら、ありゃしない」
ロベール 「よし、出来たな。とっととずらかるぞ」
ウンポコ 「あ、アニキ!」
ロベール 「何だよ」
ウンポコ 「メデューサと一緒に、俺まで縛られちまってます!」
ロベール 「しょうがねえなあ。まあ、いいや。そのまま負ぶっていけばいいだろう」
ウンポコ 「負ぶってですか?よっこらしょっと」
ロベール 「ああ、帰りは前見てまっすぐ行けばいいからな。楽ちんでいいや」
ウンポコ 「そりゃアニキは楽ちんでいいですけど、俺はメデューサ負ぶってんですよ」
ロベール 「四の五の言ってんじゃねえよ。500万ゴールドがまってんだ、500万ゴールドが。エルフのねーちゃん、よりどりみどりだ」
ウンポコ 「ねえ、アニキ」
ロベール 「何だよ」
ウンポコ 「メデューサ、まだ寝てますよね?」
ロベール 「ああ、寝てるよ。ぐっすりだ」
ウンポコ 「どんな顔してんです?」
ロベール 「顔?意外と可愛い寝顔してんな」
ウンポコ 「え、じゃあ、割と美人なんですか」
ロベール 「割とっつうか、こりゃなかなかのもんだぜ。髪の毛は共食いしちゃってるから、今は荒れてるけど、トリートメントしたら意外と綺麗になるんじゃねえか?案外、絶世の美女と言っても通用するかもしれねえな」
ウンポコ 「絶世の美女っすか?」
ロベール 「下手すりゃ、さっきのエルフより可愛いんじゃねえか?」
ウンポコ 「え、そうなんですか。じゃあ、俺、このままでもいいかも」
ロベール 「何だよ、このままでもいいかもって」
ウンポコ 「いや、いえね、俺、ちょっと変な気持ちになっちゃったというか、その、なんか、さっきから背中が柔らかいんですよね」
ロベール 「おいおい、妙なこと考えるんじゃねえぞ」
ウンポコ 「俺、こんな風に女の人にべったりくっつかれるの、初めてなもんすから。メデューサって、菜食主義で、魚も半ぺらしか食わねえし、苦労してるみたいだし。嫁さんにするのには、エルフのねーちゃんより、いいのかな、なんて。ねえ、アニキ、メデューサさんを、俺にくれませんかね?」
ロベール 「俺はメデューサの親じゃねえぞ!」
ウンポコ 「いや、俺ならメデューサさんを幸せにできると思うんです!」
ロベール 「大変だぞ?一生、相手の顔を直接見れなくてもいいんだな?」
ウンポコ 「恋は盲目って言いますから」




