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オーパーツ

自分そっくりの獣人を殺し、ディムの様子を確認するアドナイン。なんと、ディムは泡を吹いて倒れていた。それに気づいた直後はディムを心配するアドナインであったが、ふとディムを必死に助ける理由が見つからないことに気付き、横転した馬車の周辺を調べる。

 月明かりが目の前の顔の潰れた仰向けの死体を照らす。戦闘が驚くほど呆気なく終わったことに少し動揺するも、暫くディム様を放っておいたことを思い出し、振り返る。目に飛び込んできたのは、ディム様が泡を吹いて倒れている光景だった。

「ディム様!!!」

慌ててディム様の側に駆け寄り、軽く左頬を叩きながら意識の有無を確認する。

「ディム様、返事してください!!!」

何度か呼びかけたが反応が無い。さっき殺した獣人の脳と血液が混ざったものでベチャベチャになったディム様の顔を眺めていたら、いくら形式上奴隷になったからといって、会って間もない金持ち冒険者をここまで必死に守る必要があるのだろうかという疑問が浮かんだ。今は緊急事態故、万が一ディム様が死んでしまっても、過去を少し知ったことで抱いた多少の尊敬の念によって何日か落ち込む程度の損害を被る可能性はあれど、責任を追及される心配はないだろう。仮に追及されたとて、尻ぬぐいをするのはあの奴隷商。僕は軽い罰を受ける程度で済むはずだ。そんな無責任で楽観的な予想を言い訳にして、状況の理解を深めるべく横転した馬車の周辺を調べることにした。あの獣人が単独で馬車を襲ったという確証はない。僕はミコト様に再開し、また一緒に暮らしたい。万が一にもこんなところで死ぬわけにはいかない。


 ボディーガード達においては全員息がなく、死因は短剣で喉仏を切り裂いたことによる出血多量だろう。一方御者と馬に目立った外傷はなく気絶しているだけだ。恐らく馬車を襲ったあの獣人は洗脳魔法の一種を使ったのだろう。今回のようなイレギュラーケースを除き、洗脳魔法は通常相手に致命傷を負わせるほどの決定打になることはほぼない。いくら膨大な魔力を持っていたとしてもだ。他の系統の魔法を使えるならもっと殺傷力に特化した魔法で襲ったはずだし、やはり仲間がいる可能性が高い。そんな事を考えていると、背後から声が聞こえた。


 「あのぉ、いきなり顔を潰すなんてひどいですよぉ...。うぅ。」

耳を疑った。暫く思考が止まる。振り返ると、殺したはずの獣人が、所々頭蓋骨を露出させた顔に引き攣った笑顔を浮かべてこちらを見つめていた。飛び掛かろうとする僕を宥めるようにこいつは言い放った。

「ミコト様について知りたくないですか?私知ってますよいろいろ!!!」

こいつの言葉に不安と疑念を抱きつつも、図らずも舞い降りたミコト様の情報を得るチャンスをものにしたいため、一か八か会話を試みた。

「あんた、ほんと?」

「オルタードです。」

「...オルタード、ミコト様の件の前に、馬車を襲ったのはあんた?あんたならなぜ?」

「私です。理由はぁ、発作?みたいな?」

「?...単独犯?」

「はい。友達いないので。」

「?...単独犯である証明をして。」

「もし私に仲間がいたら、アドナインさんがボンボンの男の子、ディムさん?の安否を確認していたときに襲われていたと思いますよ。」

「(なぜ僕の名を?!いや落ち着け。こいつはミコト様のことを知っているのだから僕のことも知っていて当然だ。僕も動揺しているな。というか見られてたか。それはともかく、主張に関しては、確かに一里ある)...ミコト様は今どこにいるの?」

「詳しくは分かりませんが大体見当はついています。MA国の南方に位置するⅢ家の領地のどこかです。」

「バカにしているの?MA国のⅢ家の領地がいかに広大か知らないなんてことはないでしょ。」

「そんな事言わないでくださいよ。この話を聞かなかったら国を跨いであちこちを虱潰しに探す羽目になっていたはずですよ。というのも、ミコト様は現在行方不明ですからね。」

「...今話した情報は誰から聞いたの?それとも、あんたの勝手な推理?」

「あの、あんたではなくオルタードと呼んでくださると嬉しいです。」

「答えないなら殺すよ。」

「あっ、はぃ。それは...言えないですっていうのはありですか?」

「なんで?」

「あの、知らないんです。」

「提供した奴が素性を明かしていないと。」

「そうです。」

「場所は?」

「すぐ近くの街の酒場です。ただ、情報屋さんは拠点をコロコロ変えますからね。知ったところで...。」

「そう。分かった。ありがとう。じゃあ殺すね。」

「っちょ、待ってください。私はそもそもアドナインさんのお手伝いをしたくてここに来たんです。馬車を横転させたり、ボディーガードさん達をうっかり殺したり、ディムさんを気絶させたりしちゃったのは、私の発作みたいなものとこのオーパーツのせいなんです。私のせいじゃないんです。」

こいつはそう言って会話の間に再生しきった顔に無機質な微笑みを浮かべて、首に巻かれている縄を掴んで揺らしてみせた。今度はなぜが強烈な魔力の気配は生じなかった。

「?...何を言ってるの?実際魔法は使ったんでしょ。」

「はぃ。」

「じゃあ、あんたのせいだよ。」

「はぁ、オルタードって名前がちゃんとあるのに。あと、ホール君が私のせいじゃないって言ってたから私のせいじゃないです。」

わけの分からない返答が多すぎて話す気が失せた。情報を引き出したら殺そうと思っていたが、こいつが言ったオーパーツというのは一体何なんだ。新手の魔導具だろうか。それだけ聞いたら殺そう、そう決意して口を開いた。

「そういえば、オーパーツって何?」

「オーパーツというのは、一般に知られている当時の技術力では到底開発なんてできるはずなくてぇ、ん~、まぁ要するにどのようにして創られたのかってことが全く解明されていない謎に包まれた魔導具のことです。私のオーパーツ、俗に言う"希死念慮の縄"においては、現代の最先端魔法技術でも再現不可能なものです。凄いですよね!!!あっ、そういえば、ミコト様が所有されている"魂の檻"もオーパーツの一つですね。」

"魂の檻"、その名称が耳に入った途端、ダムが決壊したように忘れていた記憶が頭の中に流れ込んできた。いや、忘れていた記憶ではない。必死に思い出さないようにしていた記憶だ。

獣人同士の会話を想像したら、可愛すぎて興奮しました。

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