表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

第2章 昼休みの図書準備室

金曜日の朝の教室は、いつも以上に賑やかだ。

前日の夜に放送されたTVドラマの話題で盛り上がる。

「昨日の〇〇ちゃん、可愛かったよね」

「この先二人はどうなるんだろう」

そんなたわいもない会話を続けながら、それぞれにカバンからブラシを取り出して、窓ガラスに映る髪型を整える。

千佳子もその輪の中にいる。

特別に目立つことがないように、皆に合わせて笑顔を見せる。

周囲を見て、うまく溶け込めていないクラスメイトには、さりげなく話題をふる。

場の空気がやわらぎ、会話が回りだすと、なぜか少しほっとする。

そういう役割を、千佳子は自然に引き受けていた。


それは、家の中でも同じだった。

祖父の代から続く印刷所を引き継いだ、職人気質の父。

祖父の亡き後、事務経理関係を一手に引き受けてきた、明治生まれの祖母。

無口な父と結婚し、働き者で完璧主義の祖母に気を使いながら、家業の手伝いと家事育児を担っていた母。

跡取りとして期待され、千佳子よりも夕食のおかずが一品多かった兄。

千佳子は、そんな五人家族で育った。

小学校六年生の時に祖母が亡くなるまで、千佳子は、家の中の空気を読み、祖母の機嫌をとり、母の手伝いをし、家が円満に回るようにふるまっていた。

祖母には可愛がってもらっていたので、そのことを不満にも、負担にも感じたことはなかった。



昼休みになると、クラスメイトの「購買にパンを買いに行こう」という誘いを、

「ごめん、今日は図書当番」と断って、お弁当を持つと教室の喧騒を離れる。

図書室の奥にある図書準備室は、いつも静かだ。

昼休みのここは、食べ盛りの高校生には忘れ去られた場所だった。

千佳子は、準備室のドアを閉め、カーテンを引くと、棚の奥からレーザーディスクを取り出す。

「風の谷のナウシカ」

画面一面に広がる空の青。

何度見ても、風に乗って空を舞うナウシカの姿に憧れる。

「勇気を出して」と励まされているような、懐かしく温かな気持ちになる。


お弁当を食べ終えた頃、図書室へ数人の生徒が入ってくる。

昼休みにやってくるのは本が好きな、いつもの顔ぶれだ。

その中に、同じクラスの谷川直太朗と村上冬実がいた。

何気なく二人の貸し出しカードを確認すると、二人は前後して同じ本を借りていた。

偶然のはずはない。けれど、これまで二人が一緒にくるところも、言葉を交わすところも見たことがなかった。

お互いが相手を意識していることに、二人は気付いているのだろうか?

そんなことを考えていると、昼休みの終了を告げる予鈴が鳴った。


千佳子は準備室を出て、またにぎやかな教室へと戻った。

窓際の列の一番後ろの席で、村上冬実が静かに本を読んでいる。

千佳子は自分の席に座ろうと振り返ったとき、 冬実の横顔を見つめる直太朗と目が合った――ような気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ