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第13章 新しい風が吹く時

次の週末、千佳子は、いつものように冬実のブックカフェで閉店の片づけを手伝っていた。

お互いにバツイチで独身、子どももいないし、両親の介護も終わっている。

身軽になってから、金曜日の夜は一緒に夕食をとるのが二人の習慣になっていた。


その時、「まだ、いいですか?」と若い女性客がやってきた。

彼女は常連なのか、店主の冬実とは顔なじみのようで、二人の会話が始まった。

「冬実さん、先日はありがとうございました。お礼が遅くなってすみません」

「いいのよ、気にしないで。私はただ、情報を伝えただけだから」

「いえ、冬実さんが繋いでくださったから。これ、新婚旅行のお土産です」

そういうと、冬実に有名なパッケージのチョコレートを手渡した。


千佳子の方を振り向いた冬実が、説明をする。

「こちらのお客様が、うちのフラワーアレンジメントを気に入ってくださって、 あの花屋さんを紹介したの」

そして、若い女性は言葉をつづけた。

「結婚式のブーケを作ってくれる、センスのいい花屋さんを探していたんです」

「それはおめでとうございます」

千佳子は自分のセンスも褒められたようでうれしくなる。


「こちらは私の親友の宮本千佳子。あの花屋さんの入居しているビルのオーナーなの」

と冬実が紹介してくれた。

「お世話になりました」という、その笑顔に既視感を覚える千佳子。

もしかして? でもそんなことってあるだろうか?


「実は、冬実さんにどうしても聞いていただきたいことがあって」

「あっ、私、席を外そうか?」

「いえ、よかったら千佳子さんも一緒に聞いてください。

実はあの花屋は、私の実の父だったんです。

母から聞かされた時にはびっくりしました。

物心つく前に、母は離婚、再婚して、私は何不自由なく育ったんです。

だから私にとって父親は、育ててくれた父なんです。

でも、不思議ですよね。あの父のアレンジメントに、惹かれちゃった。

私の中に実の父が居たんです。

だから、実の父の作ってくれたブーケを持って、育ててくれた父とバージンロードを歩いたんです」

そう告げる花屋の娘の笑顔は、誇らしげに輝いていた。


「二人のお父様に護られた、幸せな結婚式をあげられたんですね」

冬実がしみじみと答える。

「はい。お二人が父との縁をつないでくださったんです。ありがとうございました」

そう言うと花屋の娘は、近くの駐車場で待っているという夫のもとへと帰っていった。


驚きの出来事に、しばらく千佳も冬実も放心状態だった。

「千佳は知っていたの?花屋の彼に娘さんがいるって」

「先週、聞いたばかり。まさか、その娘さんとここで会うなんて」

「素敵な娘さんだったね」

「うん。…とりあえず、ごはんに行こうか」


そこに谷川直太朗がやってきた。

「ちょうどよかった。今日は店じまいにして、臨時同窓会をしよう!」

と千佳子は、そそくさと身支度を始めた。


冬実は、その千佳子の横顔を眺めながら、親友の長過ぎる春から、ようやく少し季節が進むのではないかと感じていた。

話題についていけずぽかんとしている直太朗に冬実は、

「詳しいことはご飯を食べながら説明するから」

と声をかけ、三人で駅前のいつもの居酒屋に向かった。


いつもの顔ぶれの同窓生三人での気のおけない夕食。

冬実も直太朗も、花屋のことはあえて話題にしなかったけれど、千佳子はいつも以上に飲み過ぎていた。

直太朗は、心配して送っていこうとしたけれど、

千佳子は、「私はまだ飲むから、二人は先に帰って」といって聞かなかった。


「千佳は、ちゃんとお迎えがくるから。大丈夫、帰ろう」

冬実は、直太朗にそっと告げて、立ち上がった。

「じゃあ千佳、私たちは、先に帰るからね。もう、これ以上飲んだらだめだよ」

と念を押すように言う冬実に、

「もう、あんたは私のオカンじゃないんだから。

大丈夫だから、さぁ帰って帰って」

と千佳子は笑って答えた。


二人を明るく見送ったあと、千佳子はカウンターに残された空のグラスを見つめていた。

冬実と直太朗にとって、自分は邪魔者なのかもしれない。

自分にも、誰かと一緒に帰るような夜が訪れるのだろうか?

千佳子は、そんなことをぼーっと考えていた。


冬実と直太朗が店の外へ出ると、そこへ花屋がやってきた。

冬実が、「千佳子を迎えに来て欲しい」と連絡したのだった。

「私たちの大切な親友のこと、よろしくお願いします」

冬実は、花屋に告げる。

静かに頭を下げて、冬実と直太朗を見送った花屋は、千佳子の待つ店内へと入っていった。


次がエピローグで完結です。

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