第1章 母と娘とお弁当
目覚まし時計のアラーム音で目を覚ます。
一度止めて、五分後に鳴る2度目の、少し大きくなった音で、布団を跳ねのけて起き上がる。
それが、千佳子の朝のルーティンだった。
布団をたたみ、制服に袖を通す。
自室のある三階から階段を下りると、すでに一階から機械の低い音がしていた。
一定のリズムで、途切れずに続く音。
その音が聞こえると、この家がもう動き出しているのだとわかる。
二階にある台所で、食パンをトースターに入れる。
冷蔵庫からヨーグルトと牛乳を出す。
時計を見ながら、手早く口にほお張る。
弁当箱を手に取り、炊飯器からご飯をきっちり半分に詰める。
残り半分のスペースに、母が用意してくれた卵焼きと、つくね団子と煮豆を詰める。
美味しいのだけれど、華やかさに欠けるなと思いながら、手早く弁当布巾で包む。
「梅干し、入れたの?」背後から母の声がする。
「…あっ、忘れてた。でもまあ、いいか」
そのままカバンに入れようとすると、特に声を荒げるでもなく母が言う。
「食中毒になっても、知らないわよ」
この家では、いつだって母は正しい。
千佳子は何も言わず、包みを解いて梅干しを入れる。
「もう少し早く言ってくれたらいいのに」という言葉を飲み込んで、「行ってきます」とだけいつも通り声にして、玄関へ向かう。
時計を見れば、八時五分。少し飛ばせばいつも通りに学校に着く。
千佳子は、自転車の前かごにカバンを入れる。
「よしっ」と小さく気合を入れて、朝の風を切ってペダルを踏んだ。
住宅と小さな町工場が混在する通りを抜けて、坂道を登り、城跡の小高い丘の上にある高校へと向かった。




