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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

君が私を忘れた日「ハジメマシテ、大好きな人」

作者: 神宮寺結衣
掲載日:2026/01/15

この世界では、キツネとタヌキが覇権争いをしていた。非力な人間は、キツネを選び、稲荷神社を建てることにより、キツネの神から、神力を授かっていた。さき・楓・結衣は、エリート班。さきは、キツネの神のコンと契約して、それを使役して、戦う、テイマー。楓は、時雨一刀流の神社の跡取り娘。結衣は、普通の高校生で、ある日突然、ごたごたに巻き込まれ、2人のあとをついていく、普通の女子高生。


さきは、コンを使役するたび、自分の記憶の一部を上納しなければならない。



血の匂いと焦げた葉の臭いが混じる。タヌキの巨体が、森を覆う影となって迫る。

八本の尾が鞭のようにうねり、地面を抉るたび、地響きが結衣の足を震わせた。さきはすでに膝をついていた。


白い狐耳が萎れ、黄金の瞳が濁っている。

コン――九尾の狐――はさきの肩に寄り添い、尾を震わせながらも、まだ炎を灯していた。


「…もう、何回目だっけ。」

さきの声は掠れていた。


「コンを呼ぶたび、私の記憶が削られる。


最初は、幼い頃の母さんの顔。

次は、楓と初めて会った日の雨。

そして……結衣と三人で笑った、あの放課後。」


結衣の胸が締め付けられる。


「さき……!」


タヌキが嘲笑う。


腹の皮が波打ち、低い哄笑が響く。


「人間の記憶など、所詮は塵芥。


お前がどれだけ上納しようと、俺の葉隠れは終わらん。」

楓が前に出る。

時雨一刀流の構えは崩れていないが、肩から血が滴り、刀身が微かに揺れている。


「さき、立て。

まだ……終わってない。」


さきはゆっくり立ち上がった。

唇を噛み、血の味を確かめる。


「コン、最後の一回だけ……頼む。」


さきの指が、コンに触れる。

黄金の九尾が一瞬、悲しげに目を細めた。代償が訪れる。

さきの瞳から、光が抜ける。


死んだ魚のような目になるさき。


記憶が、上納される。――最後に残ったのは、結衣の笑顔。

三人で屋上で食べたアイス。


「また明日ね」って手を振った、あの瞬間。さきは、それさえも失う。


「…結衣。」

さきの声が、初めて弱々しくなる。


「ごめん。もう……お前の顔、覚えてられないかも。」

結衣の目から涙が溢れる。


「覚えててよ!私、さきの記憶になるから!

私が、さきの代わりに覚えてるから!!」


その言葉が、引き金になった。結衣の掌に、赤い狐火が灯る。

稲荷の神が、最後の欠片を――普通の女子高生に託した。さきが、最後の力を振り絞る。


「コン……全部、ぶつけろ。」九尾が爆発的に膨張。


黄金の炎がタヌキを包む。

だが、タヌキの尾が反撃し、コンを貫く。さきが叫ぶ。


「――今だ、楓!」楓が跳ぶ。


時雨一刀流・奥義「霧雨絶」。

刀がタヌキの核を貫く。同時に、結衣が走る。

狐火を纏い、タヌキの額に掌を押し当てる。


「さきの記憶……返せ!!」


赤と黄金の炎が交錯。

タヌキの巨体が燃え上がり、葉が散り、尾が一本ずつ落ちる。


「ぐあああぁぁっ!!」


絶叫。最後に、タヌキの体が崩れ落ちる。

ただの古い狸の死骸に還る。静寂。さきが、よろめきながら倒れる。

コンも、力を失い、影のように薄れる。楓がさきを抱きかかえる。


「さき……!」結衣は二人に駆け寄る。


さきの頰に触れる。


「さき……私の顔、覚えてる?」


さきの瞳が、ぼんやりと結衣を見る。


「……誰?」一瞬、結衣の心が砕けそうになる。でも、さきはゆっくり微笑んだ。


「…でも、なんか……温かい。お前みたいな子が、そばにいた気がする。」結衣は涙を拭い、強く頷く。


「うん。私が、ずっと覚えてる。さきのこと、楓のこと、三人でいたこと……全部。」


朝日が、葉隠れの杜に差し込む。

遠くで、稲荷の鈴がかすかに鳴った。さきの記憶はすべて失われた。


でも、仲間は守れた。しかし、それは、残酷な結末だった。




挿絵:ベーシスト楓(予定)

https://x.com/Beisist_Kaede


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