五話 決勝戦
ルークが待機室から離れて数分後、女子決勝が始まる。俺は魔導モニターで映し出された映像を眺めながら見守る。
ラウナと言う少女、黒髪で長いポニーテールの印象が強い。卒業生として教師を志した理由は分からないが、魔法ではなくて武器は太刀か。
対してルミナスは、小さいナイフだけだ。
毎回思うけど、それ何処に手に入れたんだ? あのコインといい、どっからともなく物が出るマジシャンかよ。
開始音が鳴り響く、ラウナは剣に手を添えて滑らせると巨大化する。
身の丈以上に長めの太刀、女子が扱うには少し大きさ。魔法でそんな事出来るのか。
しかも、ラウナって子は難なく軽く振るし…女子か本当に? 目を疑うぞこれ。
ルミナスはナイフを握りしめてじっとして、動じない姿にラウナは少し笑みを浮かべている。
緊張感が俺まで伝わるほど、なんだろうこの殺気は。
先手はラウナで大太刀を握り、強化魔法で走力強化して走る。分身が現れて、動きがシンクロしてる。
ルミナスは表情を崩さない、ゆっくりと身を傾けてラウナの大太刀を躱した。毛先が何本かパラリと地に落ちる。
ルミナスの脚から魔法陣が浮かび上がる、光の波動ぽいのが放たれラウナの分身体は消えた。
ルミナスは洞察力に優れてし、魔法も強い女神……。ドジ神じゃないって今感じた。
ルミナスはラウナに近付きナイフを振り抜く、身のしなやかさで躱す。
ラウナはバックステップしてルミナスを眺める。
ラウナって奴、至近距離で躱せるってたいしたもんだな。普通なら反撃するか頬を掠る所、四大貴族は建前じゃないのがよくわかる。これが異世界の武人か。
「おいおい、なんだあの子は?」
「ラウナ様の前で十秒耐えた人。初めて見るぞ……?」
「俺もだ、一般参加者が何故ここまで強いんだ……」
動揺する観戦客の会話を、俺は耳にする。
ふん、当たり前だ。ただの一般人じゃないからな、勝ってもらわなきゃ困る。
何故か上から視点で思ってしまう痛さも俺はまだまだ未熟者だと痛感してしまう。
ラウナは流石に一筋縄でいかないと感じて居るみたいだ。息を吸い大太刀をゆっくり円を描き垂直に振り落とした。
地を滑る衝撃波がルミナスに向かって放たれ、追尾で無数の魔法弾が飛び交う。
「あれは、秘奥義甲羅神斬!!」
「ラウナ様の決め技だ!! これで勝敗が決まった!!」
ここぞばかりは貴族達は歓喜の声を荒らげてるが、さてルミナス…お前の力を見届けたいな。
地表の埃が舞い上がる、モニター映像が乱れるほど強い威力を感じ取る。
ルミナスは衝撃波を躱して、足元に着弾する魔法を物ともせずに地を走る。
ラウナはニヤけた、勝利を確信した顔を浮かべている。太刀から青白い火が吹き荒れて、そのまま大雑把に振り抜いた。
模擬戦会場は一部破壊して崩れた、少しばかりおしりが揺れた。
「ラウナ様の全力の魔刀煌破斬決まったな……」
「これで生き残ったヤツいなかったな」
「秘伝技二つ使ったけど、右なんて出ないだろ? だいたい四大貴族に抗うやつが間違いなんだ」
そんな貴族の声に、俺はルミナスが"負けた"なんて思わない。
だって、勝負系には燃える…俺の印象が強いならそこも再現されてもらわないとな。ルミナス。
ラウナは驚いた表情をしていた、目の前にあるのはなんとルミナスの上着だけである。
姿を探すラウナの背後から現れたルミナス。
ラウナの背中を指で押した、体制が崩れて目の前に倒れた。
近づくルミナスに向かってラウナは太刀を振り抜く。ルミナスの頬から血が流れるが、動揺しないで真っ直ぐな眼差しだ。
ラウナが動揺しまくってる、負けることに対して恐怖心があるのか? すごい怯えた感じに太刀振り回してる。
ルミナスはその太刀を指で止めた、優しく触ると光の粒子となり散った。
ラウナは目を丸くした、やはりありえないと感じたのだろう。太刀を触れたら消されたからな。
ルミナスはゆっくり笑みを浮かべて頭を撫でた。
観客は鎮まり、誰一人拍手がない。そんなタイミングで何故かルークが現れて、模擬戦会場に飛び降りてこう叫んだ。
「僕たちはずっと魔法だけで過ごした。だから、この戦いではっきりした。ありえない力が存在したんだ! これは嘘や幻、詐欺なんかじゃない。実在したちゃんとした力なんだ! 貴族がどうのこうのじゃない、外にいる一般が以下に強くて真剣なのかを僕たちは知らなきゃならない。君達はどう感じた? 一般参加が、見下していた弱者が、何故ここまで強いかを知りたくないか?!」
ギャラリーはヒソヒソと話、やがて拍手が一人、また、一人となりやがて祝福の拍手となり「いい戦いだったぞ!一般参加!」などの声が飛んだ。
無事決勝を見届けた俺は、ほっと一息してから執事に名を呼ばれる。男子決勝戦の模擬戦会場へと向かった。
会場入りすると、歓喜の声が響いてる。
俺は不思議とやる気が起きた、対戦相手が入場すると一気に張り詰めた空気感となる。
銀髪で赤い瞳が印象的で、冷酷なその表情に寒気が起きる。殺意が肌に感じるほどだ。
流石に観客も一気に静まる。これが元魔法学園最強でありながら四大貴族の一人"アルト"
「下民がよく勝ち残ってたな? さぞかし、卑怯な手を使ったのだろう。だが、俺はそこら辺にいる格下とわけが違う。四大貴族の筆頭一位パレスト家代表アルト。貴様を負かせる名だ」
言葉すら重みを感じてこの狂気を感じる嘲笑い。
四大貴族の中で一番の大貴族、頭イカレ具合がこうして出てきてる。そして、負け無しか。
文句のつけようがないな、人を何人も殺したような冷酷な眼差しか。
「下民、格下、どれだけ人を見下して生きてきたかよーくわかる顔してる。 負けるわけにいかねぇな」
「ふん、少しは言葉が出来る様だな? 面白い、ならば俺に勝ってみろ。まぁ、二つの魔法の前ではさぞかし手も足も出ねぇだろうがな。こいよ、下級戦士」
「カイトいざ尋常に参る! 征くぞ大貴族!」
先手はアルトは地面を踏み、浮き出た地盤でバリアを生成。
俺は真っ直ぐ直進して、己の拳を握りしめて一発振り抜く。破裂して砕けた隙間からアルトは嘲笑う。
「気に入ったぜ? 下級戦士。これを躱せるなら、躱してみろ!」
浮いてる砕かれた石を反射でアルトは跳ね返した。
俺は跳ね返された石に触れたが、押し負けて数メートル飛ばされた。
至近距離からの反射、容赦ねぇな…ただよくわかったこいつ俺を殺しに来てる。
アルトは苦笑い浮かべる俺の顔をニヤァっと深い笑みを浮かべた。
「やればできるじゃねぇか?!」
興味が出たのかやたらテンション高めにアルトは高く飛び上がる。勢いで物理反射で殴ろうとしてるのが俺にはわかった。
「せいぜい、楽しませてくれよなぁ!!」
俺は拳を振りぬいたがアルトの反射と衝突で発生した摩擦領域。
火花を散らして俺とアルトは同時に吹き飛んだ。
「チッ!!」
「ぐっ!?」
反射魔法と防御魔法、ふたつあるだけあって厄介だな。それに、反射メインになると尚更だ。
物理チートでも貫通しない限り、バリアは砕けても反射は砕く事ができねぇな。
地面に俺は唾を吐き捨ててアルトを睨んだ。
ルークが来るまでは時間稼ぎか、なんで女子決勝で姿表してんだよ? 集めてたんじゃないのかよ?! っと脳内は騒いでる。
「よそ見とはいい度胸だな!?」
俺の悩みなんか無視するアルトが眼前に現れていた。拳が俺の頬に当たり強くめり込ませた。
鈍い音が鳴り響き吹き飛ぶ、模擬戦会場の外壁に背を強打してめり込んだ。
「少しは出来るやつって思えば、あっけなく飛ばされやがって……。所詮、下民だな? 弱いには変わらねぇよ」
全身に、痛さが、痛覚が、襲う。
俺は少しばかり意識が飛び、過去の記憶が呼び覚まされる。
燦に会える喜びより、傷つけてしまった罪悪感しかない。感傷は十年たっても癒えない。
救いようがないこの絶望感に、俺は諦め始めた。
だって、俺メンタルは強くない。
メンタルが弱い男が情けないなんてない、強い奴ほど内面が脆い。弱さが逆に強さだったりする。
だが、感傷はえげつないほど鋭く突き刺す凶器。
これで強く気持ちをもてなんて無理だろ。
「ふん、もう終わりかよ」
模擬戦会場がアルト勝利という空気感の最中で「負けるな!カイル!!」っと言う声が飛んだ。
俺は意識が戻りゆっくりと見上げる。
ルミナスが応援席にいる姿が目に映る。
「何時までも寝てないでよ!! カイト、貴方は燦を救いたいんでしょ!? こんな場所で諦めたら私……許さないんだから!!」
ルミナスが涙ながら叫んだその一言で、俺は思い返す。それはなぜ異世界に来たのかを。
そうだった、俺は燦を探す為に異世界まで来て救おうと思ったんだ。はは、燦まだ…終わっちゃないよな? ここで諦めたら怒るよな。
一歩ふらついて前に出る、流血が地面に何滴が落ちた。
「さて、僕も混ぜてもらうよ!!」
ルーク模擬戦会場に飛び入り参加、観客は目を点とする。背負うその袋はなんだ? しかも季節外のサンタコスチュームである。
ふ、相変わらず場にふさわしくないふざけた奴だなぁ。
「アルト、君の魔法は二つある。普通に考えたら個性二つ持つことを意味してる。それがイレギュラーなのをまだ知らないのかな?」
「知ってどうする三下。元から俺の魔法なんだよこれはな」
「違うね、君の家自体の問題さ。詳しくは知らないけど、二つの魔法なら二人相手してる感じだから……ね? カイト」
俺はふらつきながら歩く、ニヤっとしながら「寝ても醒めても地獄だなこりゃ」っとボソッと言う。
改めて前を向く俺は、さっきとは違う光が満ちた眼差しでアルトに睨んで言った。
「悪いな、待たせて。第二ランド始めっか!」




