十八話 動き出す歯車
統合結社の襲撃から一晩経過、ルミナス中立拠点は慌ただしく人々が動き始める。
その慌ただしさが、緊張感を過ぎらせる。
どうやら隣国のエルト地方から軍が攻めてきたという話だ。ここは要塞なので、狙われるリスクはある。生徒達は退避支度を整えた後に、軍用会議室に集まるのだった。
あれ? エレクレールとエルデの姿ないな。 寝坊か? まぁとりあえず今は置いといてだ。
「まさか、攻めてくるなんてな」
「カイト、どうするの?」
「今、学園都市側に問い合せてるけど魔道通信が機能してない。軍の衝突に参戦は政治的問題が出るから理事長から許可されてない……帰るしかないだろうな」
シエルはテーブルをバンッと叩いた。
「帰るんですか!? このまま、誰かの死を見て逃げるんですか!!」
珍しく怒るシエル、逃げるつもりはないが……俺たちにできる話は限りがある。
そこで、イルビナがさりげなく話しだす。
「シエルくん、この問題は学校が関与しちゃダメなんだ。見てくれカイト先生を、かなり困ってる。逃げたいんじゃなくてこの戦果を救える手段はないのかって思ってるはずだ」
「わかってます! でも、それでも……私は!」
「落ち着きたまえ、君の過去は残酷なのは僕は理解してる。焦らない」
「はい……」
シエルの感情的になるのは珍しいが、イルビナがいなかったら一人で行っちゃうんだろうな。
しかし妙なのは……なぜこのタイミングで軍が動いた? 統合結社が関与してるとは思えないが……別の枠があるのか。
すると、エレクレールが慌てた表情で会議室のドアを開けた。
「先生、エルデがいねぇ!!」
場の空気は一転する、このタイミングでエルデが居なくなるなんて……。嫌な予感がする。
俺はルミナスの方を向いて「探してくるから、もし危なくなったら生徒連れて逃げてくれ」っと言うと「ギリギリまで残るから、早く見つけてくるのよ」っと笑みを浮かべていた。
「待ちたまえ、僕も行く」
「イルビナ」
「なぁに、ちょっとした要件があるんだ。娯楽街にね」
「わかった、じゃ行きますか」
するとエレクレールも「俺も連れて行ってくれ」っと申し出。ありがたいが、戦力的に考えると答えはすぐにでる。
「エレクレールは待機だ、もしもの為に守ってくれ」
「しゃーねぇな」
時の素直さもエレクレールの良さである。
会議室を出て外に出ると、アネモスが待っていた。
どうやらついてくるつもりだ、今の眼差しは誰よりも輝いて見える。断るのは失礼だな。
「言葉が要らないのかい?」
「はい、アネモスは何か言ってもついてきます」
「武人にしか分からない奴か。なんだか僕は寂しくなったよ」
「イルビナ…頼むから壁ちらはやめてくれ」
「かまちょにならなきゃ、僕は寂しくて死んじゃう」
「うさぎかよ!?」
「ナイスツッコミ」
なんか弄ばれた気分だなと思いながら、ルミナス中立拠点からほど近い徒歩数分の距離まで歩いた。
入口付近に近づくと、人外魔物……グリードが徘徊していた。
「アネモス、この感じ……」
「うん、この感じ。娯楽街なだけあってあの時と雰囲気が似てる」
街の至る所に人外魔物……グリードが徘徊してる。
愛の教団は、愛だけに執着してない。
夢や希望、願いや欲望までもが餌食にしてる。
そう、この娯楽街は……教団の餌場みたいなものだ。
「それで、カイト先生。エルデくんはこの街に?」
「可能性はあるかな」
「正面突破は厳しいかもね、グリードの数も教団の信者もかなり徘徊してる。まるで何かを守ろうとしてるようにね」
「イルビナならこの場をどうする?」
「僕なら、地下から街に入る選択かな。下水通らないとだけど」
辺りを見渡した俺は、排水管らしい横穴を見つける。とりあえずそちらに向かって歩いていくと、俺は目を疑う光景が飛び込んでくる。
グリードが街の人々を喰らい、その残骸が無造作に落ちている。教団達は抗う街人を吊し上げて直炙り、なんとも見るに堪え難い場だ。
アネモスは気分が悪いのか、俺の背中に隠れてしまう。イルビナは深いため息を吐いてその横穴へと率先していく。
ようやくたどり着いた横穴の先、腐敗臭な鼻を貫く。ゆっくりと先に行くと……あの不気味な笑い声が響いてる。
「私の計画は、順調、順調順調順調順調順調順調!! これほど、愛に満ち溢れた……まさに聖地っ!! なんと、なんとなんとなんと、素晴らしい場所じゃないですか!!! 貴方のおかげですよ? ノルト」
「ふん、俺は俺で間違った家族をぶっ潰したいだけだ。俺が騒げばみんな注目する。俺に誰も振り向かないとか、堂々としてればいいのに避けたりとかさ? 喧嘩売ってんのか? なぁ、エルデ」
「ぐっ!!」
ノルスに顔を踏みつけられてるエルデを俺の視界に飛び込む。
ポケットに手を入れて、ビー玉を手に握り投げ飛ばした。物理チートでビー玉を加速させて、弾丸の様に辺りに弾け飛んだ。
「おやおやおやおやおやおやおやおや!? なんと、なんとなんとなんと……!! また貴方達ど再開するとはなんたる奇跡!! 愛の導きですか!? 愛が重くて私ゾクゾクしちゃいました!!」
「またあのジジイか!!」
「おやおや? 私の名前を知らないとは……何たる、何たる何たる何たる何たる何たる!!! 愚の極み!!! いいでしょう! 愛の導きで許しましょう!! 私、愛の教団増愛担当アイノフレシャスーーーーーーさぁさぁさぁさぁぁ……あいをかたりあいましょうかねぇ!!」
アイノフレシャスは指を鳴らすと、グリードが姿を表した。
「対話する時間が実に、実に実に実に……惜しい。ですがーーーーー」
グリードをアネモスとイルビナの二人で瞬殺、俺は刀を握りしめて高く飛び上がりアイノフレシャスに向かって振り落とした。
砂埃な舞い上がり、地面が割れるがアイノフレシャスは満面な笑みを浮かべている。
物理法則を無視した一撃を脳天から受け止めて笑ってるアイノフレシャスの異常さに俺は苦笑いを浮かべていた。
「先生の一撃でも倒れないなんて……」
「どうやら、ここは私の出番かな?」
イルビナは拳銃を向けて、アイノフレシャスに放つ。的確に関節を射抜くが……すぐ傷が塞がる。
「傷が……!?」
「やはりな、奴もまた|身体に呪縛した魔法体か」
俺は地面に着してアイノフレシャスを見る、頭が陥没してるだけで、ケラケラと笑いながら口を開く。
「ふふ、貴方……愛が足りてないですね? 私の身体は少々特殊で、それはそれはそれは、なんとなんとなんとなんと!! 愛をこの身に宿した呪縛!! 魔法を持続的に使える特殊さ、故に、故に故に故に故に故に故に故に故に不死の身体を手に入れたのです!!!」
メキメキと音を鳴らして完全修復、ノルスはアイノフレシャスの近くまで歩み寄る。
エルデは「なんで、なんでなんだ……。 なんで分かろうとも理解しようともしないんだ。 一体何がしたくて、みんなをめちゃにして、自分だけの世界を作ろうとしてるんだよ!! なぜなんだ!! 兄さん!!」 っと掠れた声で叫んだ。
ノルスは「うぜぇな、いちいち感に触りやがる。お前が悪い、俺を逆らうから、悪いんだみんながよ!」っと反発してアイノフレシャスと共に転移する。
「ぐっ……! とめ……なきゃ……!!」
エルデはふらつきながら立ち上がる、俺たちはそばまで駆け寄る。
「大丈夫か?」
「先生……! お願いします、兄を……兄を止めてください! このままじゃ、戦争が起きる……!」
「なんだって!?」
「行かなきゃ……!!」
「無茶だ、その身体じゃ。 休みたまえ」
「だ、大丈夫。僕はやれるんだ……!」
エルデの訴えを聞いた俺たち三人は動揺しつつも、答えは決まっていた。
体を引きずりながらも歩くエルデに俺は肩を貸して、ゆっくりと歩いていく。




