十四話 貴族の闇と教団
「アネモス……大丈夫なのか?」
そう言わずにはいられなかった、数日前の迷いからして……肉親の父に刃を向けることは反逆の意味でもある。
「うん、私が私でありたい。 誰からに期待されて、その人の言葉通りに従ってるだけじゃ"自分じゃなくなる"から。それに、私を想ってくれる人が居るから……立ち上がって頑張りたい。貴族かどうかなんかよりずっと人でありたい。その人達のために、私が今できることをする為に来た」
その言葉を聞いて俺は感じた、もうそこには以前のようなアネモスはいない。
ちゃんと心を持った子になったんだ、なら俺はそれに手を添えるだけだ。
「アネモス、君だけだけ戦わせるわけに行かない。―――――君の父カールドは、教団の手先に落ちた。やるべき事はただ一つ」
「わかってる、私の父の誇りをぶつける。それが、救いなんでしょ? 先生」
「さすがに分かるか。クロノスも頼むぞ」
「うん、負けるわけに行かない!」
ガルードは頭を抱えながら、バリバリと体から放電して「うあああァァァァァァ――――!!!」っと咆哮を叫んだ。
肉体は裂けて、中から現れた不気味な魔物。
強靭な肉体だけで頭はない、禍々しい剣を手に持つ。異世界だから魔物は居ないわけじゃないだろうけど……何だこの不気味さ。
「キショい……なんなんだよこいつ」
「私が知る限りは、廃墟都市に目撃情報が多数あった魔物。なるほどこいつが人外魔物グリードか」
《A》はそう言ったて俺はそれなりに理解する。
グリードはドスドスっと鈍い重低音を響かせながら、俺達の方へ走って来る。
「よく分からねぇけど、魔物って事なんだな!?」
「あぁ」
「なら容赦しねぇ!!」
俺は小石を指で何発が弾いたが、打撃吸収されてまるでぬいぐるみの様なボディに驚く。
物理チートが働かねぇ……!?
その巨体から振り抜かれた一撃を、俺は受け止めた全重力が重くのしかかる。腕や脚の筋力をフルに使うが地面に押し潰されそうになる。
「真っ向勝負にしちゃ、手厚すぎねぇか? お父さんよ」
「まともにやり合う馬鹿は何処にいるんだ。 こいつの力は執着なんだ、一度決めたら死ぬまで喰らう」
「説明はいいから、助けてくれません?」
「先生なのに、魔法使わないなんてね。まぁ補助魔法で何とか凌いで」
そう言って素っ気ない《A》が補助魔法を使い潰されずに済んだが、それでも腕や脚の筋力は軋む。
「先生!?」
「行け!アネモス!! お前が切るんだ!!」
「ですが!!」
「俺は物理しかできない、あんな巨大じゃ響かない。アネモスの剣なら……行ける!」
「アネモス、私も手伝うから……先生の指示に従おう」
「クロノス……! 分かった。 そちらの人は?」
「私はこの先生とか言うやつに強化しとく。 押し潰されたら話にならない」
「わかった、では行こうクロノス!」
「うん」
俺はギリギリと歯を食いしばり踏ん張る。
アネモスとクロノスは足元まで走って行く姿をみる。油断出来ないが背後にいる《A》に俺は耐え抜きながらなんとか言った。
「《A》さん、少しばかり動くから躱してくれ」
「無論だ」
俺はゆっくりと刀を少しずらした、火花を散らして滑るようにグリードの剣が真横に落ちる。砂埃と重い重低音を馳せた。
この剣には俺の物理チートは有効なはずだ……!
刀を強く握りしめて、真横にある巨大な剣に向かって垂直に振り下ろした。
「一点集中物理!!」
地面が揺らぐ衝撃、砂埃は瞬く間に吹き飛ぶ。
真っ二つに切り裂かれた剣と切り離された半分を握り締めるグリードは、胸から真横に切り裂かれた口が突如顕した。
「キサマラ!! ユルサンゾォォォォ!!」
叫び声、怒りを表すように覇気を飛ばした。
耳を抑える俺、睨みながらグリードを眺める。
「ナゼ、ナゼワタシノジャマヲスル!! アノムスメハ、デキソコナイナンダ!!! シンデドウゼーーーー!?」
そのグリードはその言葉を言い切る直後に、クロノスの移動魔法で飛ばされたアネモスはグリードの足の間接を切り裂く。
「死に損ないが死んでいいなんて、勝手に決めるな!! 私はただ父上の様に姉の様になりたかった!! けど、そればっかりじゃ私じゃない!! 生死を決めるのは私自身なんだ!! だから、邪魔するな私の人生を侮辱するな!!」
バランスは保ったままグリードは笑いながら、アネモスに向かって拳を振り落とす。
眩い閃光が弾ける、穏やかな風が吹き始める。
地下通路に風なんて吹かない、いや、これは風を呼び起こしてるんだ……。これがアネモスの本質。
「我が身に宿りし聖なる風、 今こそ悪を滅する聖風となり大地を駆け抜けろーーーー。 聖風刻波!!」
全身に淡い緑色を纏うアネモスの姿、時差でグリードの拳はバラバラに切り裂かれる。
そこに立つアネモスの姿がまるで歴戦の剣士の様に研ぎ澄まされた眼差しはかっこいい。
「ーーーーソノチカラハ!?」
「はい、貴方が私に教えた秘伝技です。今から父上……越えさせて頂きます。 私を見下した、このダメ娘の剣で貴方を分からせてあげます!!」
「ふ、フザケルナ!! アネデサエデキヌカッタ、ソノワザヲォォォォォォォォーーー!!!」
怒りに狂い、グリード化が進行するガルード。
もはや、救済がここまで異常と感じた教団の考えが絶望を与える。家族であれ、救えない人は最後まで救えないとはまさにこれを意味してるのだろう。
「クロノス!!」
アネモスから発した声にクロノスが現れた。
「あいよ、お待たせ!!」
グリードの眼前に転移して巨大な魔法弾を、クロノスは唱え無視で一発放つ。
破裂音が響き渡り、グリードはふらつきながら後退して壁際まで追い込む。
「アネモスユルサン、ユルサンゾォォォォァァァァァグォォォォ―――――!!!」
グリードはクロノスを平手打ちする、地面にものすごい勢いで落下するが、アネモスは走りクロノスを受け止める。
「大丈夫?」
「あ、ありがとう。大丈夫」
ゆっくりとグリードは歩く、再び拳を握りしめる。怒りを表してるかのように走り、そしてアネモス達に向かってその拳を振り抜こうとした。
「汝に問う、この鎖の束縛に兆す道を!!」
《A》はそう言い放つと、グリードの腕に鉄の鎖が絡み付いた。だが、弾ける音が鳴り響く。
その隙に、俺は口に向かって小石二発放つ。グリードの口から黒い血が飛び地面に尻もち。
しばらく動けないが、そんな待ってはくれない。
「これで何とかなればいいけど」
「先生」
「アネモスよくやった
「……! はい!」
「にして、先生とやら。人外魔物グリードはこの程度じゃ収まらない。 早く倒さなければ、このまま街に出れば大惨事だ」
「《A》さんは意地悪な質問だな。けど、その前に何とかなる」
「「先生!!」」っと背後から声が飛ぶ、ようやくクラス全員が集合する。そこから遅れて現れるルミナス、少し呆れ顔である。
「まったく、カイトったら。 いつも変なところに顔を突っ込んでさ」
「ルミナス、なんかすまないな」
「感謝の気持ちあるなら、私にアクセサリーでも買ってよね!」
「あはは……しょうがないなぁ」
俺は笑みを浮かべて刀をグリードに向けてかざしてて「討伐対象は、廃墟都市に住み暮らす愛の教団から生まれた魔物だ。全力で倒すぞ!!」っと叫ぶと「「了解」」っと生徒から返事が帰ってくる。
グリードは強引に鎖を引きちぎり、拳を振り落とす。
「石化防御!」
エルデが防御魔法でシールドを作り防ぐ、やや亀裂が入り始める。
「エレクレール、早く!!」
「焦ることはねぇけどよ、一発かましてやんよ!」
エレクレールがグリードその腕に乗っかり走り、中間地点で飛び上がりエレクレールの自慢の斧で腕を叩き折る。雷光みたいな衝撃が辺りに弾け音を放つ。
「バランス崩したぜ!!戦犯 行け!」
数歩後退したグリードに向かって、シエルが魔装篭手で渾身の一撃を腹部に向かって放つ。
破裂音が響きグリードを、上に向かって飛ばしたがヨダレが吹き飛ぶ。
「誰が戦犯よ!! ルミナス先生!!」
ルミナスは巨大な魔法陣を展開して眩い光を放ち、上を向いて言い放つ。
「いくわよ、煌光魔攻波!!」
ルミナスが得意な光属性魔法を放ち放射線状に次々と着弾グリードは更に吹き飛ぶ。
「カイト、決めて!!」
ルミナスから言葉のバトンを受け取る、刀を強く握りしめて壁を物理チートで跳ね飛びして天井へ先回りする。
「行くぜ、渾身の一振!!」
勢いをつけて飛び、クロノスが目の前に無垢で露骨な重い剣を開いた手のひらに収まる。加速したまま両手に剣を握りしめて、ゆっくりと、垂直に、真っ直ぐに叩き落とした。
「喰らいやがれ!!」
鈍い音が鳴り響く、グリードの背骨がバキバキと音を鳴らして吹き飛ぶ。弾丸レベルの速さで地面に向かって落ちる。
「アネモス、決めろ!!」
「もちろんだ!!」
クロノスはアネモスの剣に属性付与魔法で強化、眩い光を放つ。グリードが落ちてくるタイミングで大きく振り抜いた。
「散れ!! 光閃一千風斬」
綺麗な直線が描かれ空中で爆発した、グリードの肉体はボロボロに砕け散り灰となる。
(アネモス……出来が悪いのはお前じゃない。父である私……だった……)
アネモスは、静かにただただ見上げて胸に手を当てていた。この時の勝利は俺達最初の一番の喜びだった。けど……この時はまだ良かったんだ。
全ての陰謀が巻き付くその先にある真実に、俺達はまだ知らない。




