十一話 アネモス救出作戦・2
夜となり、エレクレールは書簡をカールドに速達させた。
だが、アネモスが住む私有地に変化は見られない。
ある意味妙なのは確かだ、誰も動かないのも含めて。
学園都市内にあるとは少し驚きだけど、広い一軒家に警備が二人だけか。
「普通なら慌てる話なんだけどなあ」
「ハッ、廃墟都市に送りするバカ親だぜ? クラスメイトがそんな所に行かせるわけねぇだろ」
「エレクレール、今日はやけに元気だな」
「そりゃそうだろ、大概クソ親なんざ許せねえだろ」
「チャラチャラしてんのに、今日は真面目だな」
「うっせー、この後他校の女子と楽しむからよ」
「エルデを見ろ、すっごい引いてるぞ」
「お前男なのに、女ポジかよ」
「あはは…そんな事言わないで」
「それはさておき、どうやって潜入するんだ?」
「まぁついてこいや」
「エレクレール?」
「行けばわかるさ」
エレクレールの後をついていく、人通りが少ないエリアに俺達を連れて行く。壁には一枚の扉があり試しに引いたが施錠されている。
「あかないな」
「鍵か、まぁ俺にかかればやすいもんだな」
ガチャガチャと音を鳴らして、施錠を解除する。
その手際の良さに、謎に犯罪臭を感じてしまう。
「これで入れるぜ」
「捕まらないよねこれ?」
「さぁ? ヘマしなければ大丈夫だ」
「へまって……捕まるかもしれないのかよ。んで、ここどこに繋がってんだ?」
「アネモスの住む家の地下通路、四大貴族は襲撃に備えて逃げ出す通路は確保されてんだ」
「ここを歩けば、アネモスがいる場所に着くのか」
「まぁ、バレたらお終いだな」
「笑えないジョークやめてよ」
「女々しくなるなエルデ、男は常にブースターだ」
「意味わかんないよ」
俺は苦笑いしながらも地下通路へと向かった、中は複雑な作りでまるで迷路である。
滝のように流れる下水と至る所に魔法の火が灯されている。地下通路はカビ臭さがちょっと気になる程度だ。
「さて、女性陣の出番だな」
「あ、ようやくだね? 」
俺は手に耳を当てて「通路分からないから指示してくれ」っと言う。
シエルが応答して「はーい! 私、頑張るよ!」っと変わらず元気な声で答える。
どうやら複雑見たく見えていたが、この先の通路を歩けば辿り着くみたいだ。
警備が手薄の意味では、地下に何かしらいてもおかしくないって話である。
「まぁ歩くだけ歩く……か?」
何やら寒気を感じる、足元見ると黒いオーラみたいなのが炎の様に床を燃やしてる。
「な、なんだこれ?」
「魔物が現れる時に出るやつだよ」
「なるほど、手厚いお出迎えってことか」
その炎が消えた瞬間、骸骨のような魔物が姿を表した。中々の大きさでA級魔物だろう。
「さて、戦わせてもらうよ!」
エルデは右手から杖を取り出して、岩の棘を飛ばした。しかし、すり抜けた。
エレクレールも、斧型の武器で振り抜くが当たらない。苦笑いを浮かべるしかない。
「ゴーストタイプか。厄介だなこりゃ」
「せんせーどうするんだ?」
「魔法使えるやついなきゃなんとも……ん?」
何か足にしがみつく感覚、ゆっくりと目線を落とすとクロノスの姿があった。俺は新手のホラーかよ!?って思うほどビビる。
「いつからそこに!?」
「ん、ピンチだと思って飛んできた。私に任せて」
クロノスが指をちょんっと虚空に触れて水波紋のように揺らいだ瞬間、ゴーストは浄化してしまった。
俺は不思議な眼差しで見る、何だこの魔法……? この世界の魔法って確か、即発型もあるけど空間を揺らがせる魔法って聞いた事ないな。
「す、すげー」
「A級魔物を指一つで……」
エレクレールとエルデはそう呆然として言う。
クロノスの謎はさておき、来てくれた事に感謝だな。この手の魔物に物理チートも流石に通用しないからな。助かった。
「んー? なんか怪しい気を感じる」
「オカルトは勘弁してくれよ」
「いいや、オカルトじゃない。私が許せない存在」
妙にクロノスが感情表現、俺はその許せない存在に疑問を少しだけ抱く。
「なぁ、クロノス」
「なに?」
「許せない存在って?」
「乙女の秘密」
「センセーデリカシーないんっすか?」
「う!?と、とりあえず、行ってみるか」
「あ、逃げたな」
エレクレールに茶化された俺は、言い返せなかった。だが、クロノスの表情一瞬だけ曇って悲しそうに見えた。色々と気になるが今はいいか。
先に進むほど、重苦しい空気感で息を吸うのが辛くなる。異様な重さに包まれてる、何だこの重く沈みこんだ様な……絶望感といえばいいのか。
脚が重く感じる俺達は先に更に進むと、目の前に人が倒れてる。よく見るとアネモスだった。
「大丈夫か?」
アネモスは反応がない、クロノスが額に手を乗せる。
「大丈夫、気を失ってるだけ。この空間の支配は間違いないね」
クロノスがそう切り出した、明らか様にこの空気感を知ってるような思わせぶりな言葉だった。
疑問がまた増えたが、考えるのは後回し。
エルデが前方に指を向けて「先生、目の前に……!」っと言った。
長い杖を片手に、年老いた老人が一人。
教団の服装であり辺りを囲む様に、黒く怪しい炎が吹き上がっている。熱い熱気というより、冷えた冷気で焦げた臭いは全くしてない。
「ハァハァ、愛が故に愛を呼ぶ歪んだ愛が恋しぃ。そんな若者が増えた事に感激。あぁ、なんて熱いのでしょうか!!」
俺はゾッと全身に寒気、腕は鳥肌になりこの老人のヤバさに身体が感じ取る。
な、何だこのジジィ……? まるで化け物を目の当たりにしてる感覚だ。まずい、こいつは、かなりまずい。
そんなのにもかかわらずエレクレールは「はぁ? 何だこのジジー」っと一言。
エルデは落ち着いた声で「ねぇエレクレール」っと訊ねると「エルデなんだ?」っと返す。
エルデは「この人確か、歪んだ愛をどうのこうのって言う教団じゃない?」っと情報を口にする。
エレクレールは納得した感じで
「あー、最近何やら怪しい動きしてる奴か……」っと呆れながらも答えた。
緊張感がまるでないのは若さがあるからか。
俺は精神だけ三十路近いけど身体は十八歳なんだけどな。この差はなんなんだよマジで。
とはいえ空気感で、立ってるのがやっとだろう。
エレクレールとエルデ、流石に冷や汗流してるな。
クロノスは凄い眼差しで睨んでるし、恐らくは"許せない存在"がこの教団って事か。
はぁアネモスを怪盗する前に、このジジィに狙われて連れてこられたのか。歳の割に女子高生狙うジジィってこう気色悪さが半端ないな。
「愛とはなんなのか?! それは、全てを愛して、愛して、愛して!! 故に、全ての生命が築かれるのです!!」
いきなり叫ぶジジィは耳を塞ぎたくなるような声で発した。辺りの外壁が崩れ落ちる、この汚い声に魔法を使ってる。 精神操作系の魔法か? 流石、教団って言った所だ。
「愛があればなんでも叶うのです!! さぁさぁ、この狂った世界を愛に満たすのです!!」
聞くに耐え難い、俺は耳に手を当ててこういった。
「シエル、ルミナスに頼んで俺以外離脱させろって伝えてくれ!」
「え?! それじゃ先生は!?」
「何とか逃げるさ、今は生徒を守るのが優先だ」
「で、でも……!」
「事態は一刻も争う!! 早くしてくれ!シエル!!」
「は、はい!!」
生徒達が淡い光を放つ、エレクレール達は驚き俺の方を見て何やってんだ! って言うんばかりの顔を浮かべていた。 悪い、こればかりは……譲れない。
転送していく光の粒子だけを眺めて、静かにため息を吐いた。




