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掌編

探偵

作者: 綴 詠士

「どうせこんなに捜査しても、答えは見つからない」

 

 村の住人全員が死んだ。特徴的なのは全員首をつっていること。警察の捜査結果は明確な原因は不明、おそらく集団自殺。……そんなわけがない。

 

 僕はこの村の出身だった。村を出て警察になり、その後探偵として生きてきた。

 そんなとき故郷で起きた事件。

 

 村には何年もずっと立ち入り禁止だったが、捜査が終わり今では一般人も入れる。

 だから僕はここにきて探偵として捜査しに来たのだ。

 

 テレビではカルトだなんだと言われたが、この村に宗教に熱心な人なんていなかった。

 だからそんな説明に全く納得できないし。死んだ母や姉が浮かばれない。

 

 村の家々を調べる。

 見覚えのある村。死体は片づけられていて、おそらく紐も証拠品として回収されているようだ。


「紐か……」


 以前テレビで見たことがある。それは赤く太い紐だ。人の重さに耐えられるほど丈夫そうだった。

 週刊誌やオカルト雑誌では、その紐を見た人間は死にたくなり、警官も何人か自殺したという話が載っていたりと、バカバカしい噂もあるらしい。

 所詮、世間からはその程度の奇妙な事件くらいの認識だということだ。


 だから探しても探しても真相に繋がる証拠なんて見つかるはずもなかった。

 

 報道で話題になっていたし、警察も熱心に捜査していた。だからそれでもわからないのに、ただの探偵に何が分かるというのだろう。

 立ち止まり、村の景色を眺める。

 

「いや、ダメだ。動け」


 手で軽く頬を叩き、足を進める。


 事件の前に電話した時、母は元気そうだった。早く結婚しろとか俺の子供が早く見たいとかまで言っていた。

 姉は村の人と結婚して農業を手伝っていた。姉の方は妊娠して、あと少しで出産するというのを聞いていた。

 そんな彼女たちが自分で死を選ぶはずがない。

 

 他の村人もだ。牛乳屋の店主や、八百屋の親子。他にもみんなの顔が思い浮かんで離れない。

 だから僕は捜査しているのだ。


 そのまま夕方まで捜査した。


「……何もないな」


 疲労感と徒労を感じる。この村に来れば理由が分かると思ったのに。

 あの日から僕の心の中は事件の解決だけだった。

 だけど何もない。何も分からなかった。


「もう無駄なのかな」

 

 そして村役場に来た。

 中に入ると。天井から一本の赤く太い紐がつるされていた。

 風もないのに小さく揺れている。


『その紐を見た人間は死にたくなる』

 

 僕はそれから目を離せない。

 そのまま紐に手を伸ばした……。


 ***


 再び警察がこの村に来た。現場では一名が死亡。原因は自殺とのこと。


 

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