もう一人の敵
「【万引重力】」
俺がそう言った途端…
竜型が集まった
集まったのではない、集められたのだ
【万引重力】
結界を限界まで圧縮し、質量を最大にした事により、超重力場を発生させて全てを飲み込む殲滅スキル
このスキルは結界を圧縮するため、魔力がごっそり奪われる、が威力は申し分ない
範囲は超重力場を中心に半径400メートル
今俺がいる空間は一辺1kmの立方体
ほぼ全域を飲み込む算段だ
オーニンはそのスキルの異常さに気づき、距離を取った
しかし、知能の大して高くない竜型ではその判断はできなかった
竜型が超重力場に呑まれ、姿を消す
その流れが繰り返され、竜型はこの場から居なくなる
『竜型を全て殺したのか。君……』
オーニンは言う
『やっぱり僕の期待通りだよ…』
オーニンは更に続ける
『ほら、闘いを楽しむんじゃなかったのかい?僕を殺してみなよ』
「元からお前は殺すと決めている。【空間切断】」
俺は現在オーニンのいる場所に【空間切断】を仕掛け、それと同時に上へと跳ぶ
そして、言った
「【木動】」
俺はこの時を最初から待ち望んでいた
そう、俺の罠に掛かる時を…
〜〜〜〜
時は少し遡り、俺がオーニンと対峙して間もない頃
剣に【植造】と【木動】を込めてオーニンを突きにかかった際、その剣は躱された
躱されたが、俺の計画にはその後があったのだ
俺は剣を躱されると、その剣を地面に突き刺した
そう、消すのではなく突き刺したのだ
俺はその魔法を気付かれずに保存する為に剣をその場に残したのだ
〜〜〜〜
そして今、奴のいる場所は、突き刺した剣の真上
俺は剣の結界を解除し、中の魔法を開放した
『ん?…なっ!!』
オーニンが気づいたときには既に手遅れだった
木の根が伸び、奴を取り囲む
そして次の瞬間奴を縛り、動きを止めた
『こんなもの!!』
オーニンは木の根を引きちぎろうとするが、すぐには抜け出せない
何故ならこの木の根は俺が魔力を通常の三倍も流し込んで作り出したものだからだ
俺はその隙を見逃すまいと【身体能力強化】を使い、作り出した剣でオーニンを木の根ごと両断せんと剣を振り抜く
俺は次の瞬間地面に叩きつけられた
オーニンは動かなかった筈だ
何故俺は叩き落とされた?
俺がそう考えながら顔を上げると、そこに居たのは2体のオーニンだった
『いやあ、まさか君にこれを使う事になるとはね』
『うん、僕も意外だよ』
二人のオーニンが言う
『『【自己複製】を使う事になるとはね』』
◇◇◇◇
『オーニンはあれを使いましたか』
雷晶の祭壇にて何者かが語る
『まぁ、仕方のない事じゃろう、ツェイロン。あやつは追い詰められておった』
何者…改め、竜の眷属“誠央竜人ツェイロンの問いに雷電竜王ライシェンはそう答える
『オーニンは闘いを楽しんでいるようですね。…しかし大丈夫でしょうか? このままではオーニンの命が潰えてしまいますよ』
ツェイロンは言う
雷電竜王ライシェンから、竜の眷属のみに与えられるスキル【竜の契り】
このスキルは与えられた者の持つスキルに応じて姿を変える
実際オーニンは、自身の持つ“竜を生み出すスキル”に【竜の契り】が反応し、【自己複製】へと変化したのだ
【竜の契り】は使用者を大きく強化する
その反面、代償も凄まじいものとなる
オーニンは己を複製する為、自身の生命エネルギーがスキルの維持に大量に必要とされるのだ
…オーニンは既に前足を片方切断されている
精神に対し、身体は大きくダメージを負っているのだ…
オーニンの今の状態でスキルを維持できるのは…おおよそ5分
それ以上使用するとオーニンの生命エネルギーは自己の複製を維持できなくなり、オーニン自身も消えてしまうのだ
『あの人間は想像以上に手強い。果たしてあやつはあの人間を倒せるだろうか….』
ライシェンはそう言ったのだった
◇◇◇◇
俺は現在、2体のオーニンと対峙していた
「それはどういうことだ? 何をした」
俺はそう問う
『『スキルを使っただけだよ。その効果は単純、“自分を複製する”ただそれだけさ』』
実際、敵が増えるというのは相手にとっては最悪だ
しかもそれは一体だけでも苦戦していた敵…
勝てる可能性が大きく下がる
『何? 怖気付いた?』
オーニンがそう言う
「お前が複製されようと、どちらも倒すだけだ」
俺はそう言い、剣を構えた
「最終章といこうじゃないか」