絶望と渇望 其の三
◇◇◇◇
“スキルの進化”
それは本来あり得ない事であり、この世界を管理する創造主としては絶対的なイレギュラーである
何故か…それは進化したスキルの特異性にある
例えば、数百年前にスキルが進化した者が居た
その者が得たスキル【破壊魔法】の効果は、“正のエネルギーを破壊、変質化させ、魔物を生み出す”というものだった
正のエネルギーの破壊と変質化
本来あってはならない破壊の力
これはこの世界の均衡を保つ創造主にとって居てはならない存在だ
そのため、その者は創造主によって消し去った。
しかし、そいつは死の間際に大量の置き土産を遺して逝ったのだ
このような“始原のスキル”は、世界を乱す可能性が高く、神にすらコントロールが難しい為、存在自体が許されないのだ
『おや、スキルが進化した者が現れるのは久しぶりですね。今回はどのような者なのでしょうか』
彼女は天界で高みの見物をしながらそう言った
『ほう…「創造」のスキルですか……前の馬鹿とは反対ですね…どうしましょうか?
…ん? もしや…このスキル 世界を正すのに使えるかもしれませんね』
そう言って創造主は不敵な笑みを浮かべたのだった
◇◇◇◇
《スキル【結界】が【創造結界】に進化しました》
……は?
スキルが…進化…?
そんなことあり得たのか
まぁそんなことは今はいい
新しいスキルを試すとするか
でも今は時間が無い
急がなければ…
俺はスキル【創造結界】を使用した
すると、文字が現れた
《このスキルは、スキルを創造する能力を持っています。使用しますか?》
…と書いてある
“スキルを創造”
面白そうだ
俺は承諾した
《補助スキル【思考加速】を使用しますか?》
俺の脳内にそう声が流れた
思考加速…
時間のない俺には丁度良いスキルだ
「【思考加速】」
俺はそう念じた
すると急に周囲が停止した…
…いや、とても遅いが一応動いてはいる
およそ100分の1倍速くらいか
…本当に思考加速したのか
俺はそう思いながらもスキルの作成を始めた
〜〜〜〜
あれから俺はスキルの作成を続けていた
それでわかったことが二つある
まず一つ目はこのスキルは【結界】を元にスキルを構成しているということだ
つまり、結界などを使用しない炎熱系魔法などは作成できないということだ
次に二つ目はこのスキルは様々なパラメーターを調整したり、結界を組み合わせたりして、スキルを構成するということだ
試しにスキルを作ってみた
《伸縮性》のパラメーターを上昇させ、《硬度》のパラメーターに至っては最大にし、《形状》は螺旋状にした
この状態でスキルを作成すると、
【身体能力強化】となった
どうやら原理としては結界が体の動きを補助し、人間の限界を超えた動きを可能にするらしい
これは有用だな…
俺は迷わず、《保存》を押す
《スキル【身体能力強化】を入手しました》
と声が頭に流れた
ここから絶対に生き残ってやる…
〜〜〜〜
対フォレイガー用に作り出したスキルはこれらだ
スキル
【身体能力強化】
【騎士召喚】
【空力場】
【武器創造】
【身体能力強化】
体の動きを結界で補助する事により、限界を超えた動きを可能にする
【身体能力強化】を使うと、体感身体能力が五倍程になった
【騎士召喚】
結界を重ね合わせて鎧の形状にした騎士を召喚する
騎士は自身で自由に操作する事が出来る
鎧の硬度はアダマンタイト級
召喚数は最大4体まで
【空力場】
自身の足元に結界を配置し、空中歩行を可能にする
設置する向きは自由
【武器創造】
結界で構成された武器を作り出す
形は自由自在
そうこうしているうちにフォレイガーがだいぶ近くに来ていた
…それでは作戦決行とするか
『ヒトヨ、死ぬ覚悟ハ出来たカ?』
「あぁ…」
俺は言った
「お前がな…」
俺はその瞬間【騎士召喚】を使用した
漆黒の騎士が4体現れる
『コノヨウナ物デ我を殺すト申すカ、笑わセルナ』
フォレイガーはそう言って爪を騎士に振り下ろした
…しかしその爪は騎士の持つ盾によって防がれる
『ナッ!? 何故人如きガ我の爪を止めラレル⁈』
フォレイガーが初めて動揺する
俺はその隙を見逃さずにスキルを発動する
【空力場】【武器創造】【身体能力強化】並列発動!
俺の姿が消える
これは【身体能力強化】と【空力場】の同時発動による技だ
【身体能力強化】によって強化された脚力で跳躍し、その移動先に結界を貼ってそこを足場に更に跳躍する
これの繰り返しでフォレイガーの周囲を縦横無尽に駆け巡る
俺は【武器創造】で作り出した短剣を持って、フォレイガーを切り裂かんと剣を構える
フォレイガーは【騎士召喚】の騎士に注意が向いている為、俺を見ていなかった
俺はフォレイガーの死角から接近し、短剣でフォレイガーの後ろ足を2本切断した
『貴様一体何処カラ!?』
フォレイガーは驚愕するも冷静で後ろ足を再生しようとする
…でも、俺がそれを許す訳が無い
俺はフォレイガーの後ろ足を切断する際にその傷口を結界で塞いでいた
フォレイガーの再生は、体の体積が大きい方から繊維が伸びるようにして再生する
しかし結界で傷口を塞いでしまうと繊維が伸びる事が出来ず、再生ができない
『再生が出来ないダト!?』
フォレイガーはそう言いながらも前足で俺を切り裂こうとしてきた
「【硬化結界】」
俺はそれをただ硬いだけの結界で防いだ
『モハヤ我ニナス術は無いノカ…』
フォレイガーは諦めたようにそう言った
「そうだな、お前はここで死ぬ…俺が殺すからだ…」
俺はそう言ってフォレイガーに近づき、フォレイガーの首を短剣で切断した