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7話 継続


 いつもの通り、スマートフォンのアラームで目が覚める。枕元に置いてあるそれを引っ掴み、ばさっと掛布団を跳ね上げた。窓からは既に陽光が射しており、本日も晴れていることを教えてくれる。



「うわっ、ビックリした。起きるんなら起きるって言ってくださいよ、センパイ」

「……何でお前が此処に居るんだ、大島?」

「えー……もっと喜んでくださいよ、起きたら美少女が朝食を作って待っていたんですから。随喜の涙を流して土下座すべきです」

「いや、随分な物言いだな。その前に展開に付いていけてないところなんだが……男の部屋への勝手な侵入はあまり褒められたものじゃないぞ……というか、朝食を作ってくれたのか?」

「ええ、ボクは借りを作りっぱなしと言うのは性に合わないので、昨日の借りを返しに来ました」



 改めて時計を見ると6時過ぎで、コイツはその前に起きて朝食を作ってくれていたことになる。いつも巡検ギリギリに起きて東堂教官に怒られているのに、珍しいこともあるものだと感心した。というか、借りがどうとか言っているからそういうことをキッチリする性格なのだろう。


 この寮で初めて出会ってから4か月ほど経過しているが、まだまだなんの友好関係を結んでいないことに驚く自分が居る。


 いくら個人主義とは言え、これからはもう少し関係を持つべきかもしれない。俺の新しく発覚した能力の事もあるし――いや、能力目的で親交を深めるというのは不純で褒められたものではないか?



「なんですか、じーっとボクの方を見て、惚れちゃいました?」

「意外な面を知って驚いただけだよ。まあ、なんにしても朝食を作ってくれた事には感謝だな。つーか、これ、凄いな」

「ふふーん、泣いて感謝してくださいね」



 部屋の中央にあるちゃぶ台の上には、焼き魚、みそ汁、卵焼き、ごはん、漬物に海苔と、とてもスタンダードなこの国の朝食が2人前並んでいた。自分が調理していたなら絶対に用意できない内容の朝食に目を剥く。


 同時に、この寮に来る前にはいつもこんな贅沢な朝食を食べていたのだと言う事を思い出したのと、それをずっと成していた母親の苦労を忍んで目頭が熱くなった。



「ちょっ、冗談なんですか本気で泣かないでくださいよ!」

「寝起きで涙が出ただけだっての……せっかく作ってくれたんだ。温かいうちに頂こう」

「はい、では手を合わせて」

『頂きます』



 美味しい食事の前では、会話は不要である。同じ食材を使いながらも料理の仕方でこうも味が違うものかと、愕然としながら大島の作った朝食を頂く。あまりにかっ込みすぎた所為で喉を詰まらせたら、お茶をも出してくれて至れり尽くせりだ。


 昨日の借りというには大きすぎるお返しを貰った気分で、ついそれが口に出てしまった。



「……お前がこんなに料理が上手だったなんて知らなかったよ。借りを返すどころじゃないな」

「独り暮らしが長いっすからねー……これくらいはお茶の子さいさいってヤツですよ」

「そういえば、この寮ではお前の方が先輩だったな……いつの頃から居るのか知らないケド、大したもんだ。本当に美味いよ」

「またまたぁ、お世辞は要りませんよ。昨日のシュウジ先輩の作った食事とそう変わらないと思いますが?」

「そうか? ……違うと言えば、二人で食べてるってところもあるか。やっぱり独りで食べるんじゃなくて、誰かと食卓を囲むってのはいい物なのかもな、それが美少女ともなればなおさらだ」

「さっきの仕返しですか!? 揶揄わないでくださいよ!」



 なんだろう……凄く楽しい。この寮に来て約4か月、誰かとこう食卓を囲むことは無かった。


 俺達は魔獣退治という目的で集まった仲間で、どこか無意識に悲壮な想いを抱いていて、楽しむことに罪悪感を覚えて、自分を無駄に追い込んでいたのかもしれない。これからはもっと……普通に接していってもいいかもだ。



「ご馳走様でした。本当に美味かったよ。親睦を深める為に週に1回、いや、1か月に1回だけでも食事を一緒にするってのもいいかもな。実をいうと一人で黙々と飯を食べる事に飽きて来てたんだ」

「えー、センパイがホストをしてくれるならイイですけど……小鳥遊先輩や東堂教官にも話してみます?」

「そこは順番制で……今日の放課後にでも二人と話してみるよ。さ、そろそろ巡検の時間だ、部屋に戻って準備した方がいいぞ。後片付けはもちろん俺がやるから」

「あ、もうそんな時間ですか、じゃあ後はよろしく~。実を言うとボクもちょっと楽しかったです。またご一緒にさせてくださいね」



 そう言って大島アユミは俺の部屋から去って行った。んで、当然とでも言うようにポップアップが出現する。



『大島アユミとスーパーグッドコミュニケーション!!「スワディシュタナ」覚醒までのミッション回数が1000回減少しました。もっともっと他の女の子との交流を楽しんで能力の覚醒を早めよう!』



 ……なんだか、名状し難き罪悪感を感じる。


 先ほどまでの大島とのやり取りは素の自分で接して、このカウンターを減らそうとして行ったモノではないのだが、結果として凄くカウンターを減らす事になってしまった。


 これ、ヒトにバレたらいかんヤツだよなぁ……少なくとも治安部の二人にバレたら袋叩きに遭いそうな能力だ。東堂教官にはきつく口止めしておかねばなるまいて。


 『30/8,600』とかなり減少したミッションカウンターを見ながら、罪悪感を胸に俺は天を仰ぐのだった。


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