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5話 発覚


 その日は幸いなことに魔獣が敷地内に出没することなく放課後を迎えた。


 毎日こうだったらいいのになと心の中で呟きながら日直の仕事を終えると、新田さんに挨拶して治安部のある棟へ向かう。夜間は警備員さんを雇って警邏をしてもらうが、放課後の学生が全て帰る時間であろう18:00頃までは、俺達は治安部の部室で魔獣に備える事になる。


 日直の仕事があったためか、治安部の部室に到着したのは俺が最後だったようだ。既に小鳥遊先輩、大島後輩が部屋の中に居て思い思いに過ごしていた。


 東堂教官の姿は見えないが、彼女は教官会議やら昨日仕留めた魔獣の報告書を作るなど、大抵は教官室にて仕事をしているので用がある時しかこの部屋には来ない。


 そのため、この治安部は各々の趣味が反映された魔窟と化していた。それにしてもだ……



「俺のスペースがどんどん浸食されて行っているんですが……小鳥遊先輩、なんですか、この人形は? それとまた新しいタブレットを買ったのか大島。何で俺の机の上に置いておくんだ」

「ああ、それは試し切り君47号です。後程、部室の裏庭に立てますから少々我慢してください。作ったのはよいのですが置くところがそこしかなかったので、ええ。申し訳ありません」

「右に同じくー、センパイ、暇だったら初期設定やっといてくれませんか? 新しいモジュール開発で手が放せなくて……」


 俺は無言で部室の窓を開けた。はんだごてを使うのであれば独特の匂いが籠るので窓を開けろと言っているのに、この後輩はいつまでたっても話を聞かない。あと、窓を開けたついでにそこから試し切り君47号?とやらを外に出して壁に立てかける。せめて鞄を置く場所くらいは確保しておきたい。

 

 改めて部室の中を眺めると……小鳥遊先輩のスペースには他の試し切り君?や、素振り用の六角棒、修練用の道着が所狭しとおかれており、大島後輩のスペースには何やら良く分からない電子基板やパソコン、タブレット端末類が乱雑に置かれている。そしてその中間にある俺用の机は、常に二人の荷物に浸食されがちなのである。



「大島、悪いが日課があってお前の要望には応えられない。今のところは魔獣は出ていないな? いつものように俺は裏庭で日課をこなしているから魔獣が出たら呼んでくれ。小鳥遊先輩、あの人形は適当な場所に立てておきますので、他にも人形を立てる予定があれば窓の外へ立てかけておいてください」

「残念ですけど了解~」

「あらあら、すみません。お言葉に甘えさせて頂きますわ」



 返事はすれど、自分の仕事に手一杯で顔を向けようともしない。小鳥遊先輩は新しい『試し切り君』を、大島後輩は何やら電子モジュールを作るのに集中している。いつもの事ではあるが、これでは百年の恋も冷めるというモノである。


 特に小鳥遊先輩には俺の初恋心をダメにした責任を取ってもらいたいくらいだ。しかし、そんな思いを万が一にも悟られるワケにはいかない。あのヒトなら惚れた腫れたを盾に、試し切りの的になってくれとか普通に言ってきそうだからな。(事実、小鳥遊先輩は男子学生に人気があって、彼らを振る口実として試し切りの的になってくれるなら考えてもいいなどとのたまっているのを見たことがある)


 大島はどうかって? こ奴、見た目はいいのだが、その内実を知る身としては恋心を抱くなんて全くあり得ないと断言しよう。




---




 そんなワケで俺は各々の仕事に集中している二人を尻目に学生服からジャージに着替えると、部室の外へ出た。無論、やるのは本日のミッションである『腕立て、腹筋、スクワットを千回ずつ実施せよ』だ。


 正直、このレベルのトレーニングを毎日続けるのは億劫であるが、自身の基礎体力が上がれば10,000回という回数が減るかもしれないという希望的観測があり、今のところは真面目にやっている。あと、性器のチャクラである『ムーラダーラ』が開いている状態で、女学生と密室に長く一緒に居るのはとても厳しい。(教室は男も居るので我慢できるが)


 さて、そんなワケで本日の日課を開始する。


 いきなり千回を連続でやるのは無理なので、それぞれ100回を10セットに分け、休憩を挟みながらこなしていく。勿論、休憩のついでに『試し切り君』を立てるのも忘れない。


 自分で言うのもなんだけれど、俺は中学生の頃から毎日10kmのランニングを欠かさず行って来たこともあって、帰宅部よりはマシな体力がある。また、小学生の頃に習っていた空手の鍛錬もずっと続けていた。だからこれくらいの鍛錬は時間を掛ければ問題無くこなすことが出来る。


 鍛錬を始めたのが15時過ぎだとして……終わる頃には17時前くらいの時間になっていた。身体は滝のように汗をかいており、『本日のミッションは達成されました』というポップアップが目の前に浮かぶ。


 今日のところも無事にミッションを達成する事が出来たようだ。


 ポップアップのカウンターを見ると、「30/10,000」という数値が並んでいる。千里の道も一歩からと言うが……中々に世知辛い。


 分母を減らす方法を探さないと挫けてしまうやもしれない。本気で東堂教官に相談してみるかな。あのヒトなら、『チャクラ』に関する情報を持っているかもしれないし。


 そんな事を考えながら、用意していたタオルで汗を拭っていると……「ズン」と、何か重いものを切るような音が聞こえた。アレは……小鳥遊先輩か。


 道着姿で、両手で日本刀を袈裟斬りに振り抜いた構えをしており、その前には切り裂かれた『試し切り君』が上下に別れて落ちている。その断面はなめらかで、まるで元からそうであったように錯覚させられる。あれが魔獣であれば斬られたと自覚することなく絶命するだろう。



「お見事。また腕を上げたんじゃないですか?」

「シュウジ君……見ていたんですか。フフ、いいえ、まだまだといったところですわ。ほらここにブレが原因の跡が残っています。動かない的を相手にこの体たらくでは未熟としか言えませんわ」

「そうですか…………素人目には凄く綺麗に見えましたので、すみません」

「謝る事はありませんよ。シュウジ君も鍛錬お疲れ様です。更なる能力を覚醒するために途方もない回数の鍛錬をこなさなければならないと聞いておりますが、へこたれない姿勢は好感が持てますよ」

「はは、揶揄わないでください。他に強くなる方法を知らないだけで……それに、必殺技とか柄ではないですから、こうして地味に鍛錬をしているだけです」

「フフ、鍛え上げた肉体、そしてそこから繰り出す基本技こそが何よりも勝る技となりますわ。道は遠く険しいですが不貞腐れることなく続けなさい」



 そういって小鳥遊先輩は背を向けて部室に戻って行った。今から着替えるのだろう。彼女が出てくるまでは部屋の外で待っていないとな。


 そう思いながら再び汗をタオルで拭っていると、新しくポップアップが出て何か表示されているのが見えた。改めてその表示を読み上げると……その内容に目を剥かされた。



『グッドコミュニケーション!!「スワディシュタナ」覚醒までのミッション回数が100回減少しました。もっと女の子と交流して覚醒までの道を短縮しましょう!』



 ……おいおい嘘だろう。俺の能力って、伝奇系じゃなくて、ギャルゲー系だったのかぁ!?


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