4話 能力
そろそろ俺の目覚めた能力について簡単に説明しておこうと思う。なに、学園の校舎に着くまでの手慰みというヤツだ。
まず、結果だけを言うと『チャクラ』が能力の本体となる。漫画や小説、ゲームにもよく出て来るアレだ。七つあって回せば回すほど超常的な力を発揮できるという分かりやすい身体強化系の能力である。
しかし、このチャクラ、体の方に相応の強度が無いのに開いてしまうと体が爆発してしまうと言う恐怖の欠陥能力だったりする。
例えば一番最初のチャクラは『ムーラダーラ』といってアレだ……言ってしまえば性器に存在する。ここに過度な刺激を与えて覚醒を促すという「立川流」がこの手の題材ではよく用いられるが、肉体強度が足りないのに致し過ぎて爆発して果てる……なんてのがセットというか、良くある設定として用いられており、俺の持つチャクラもその設定を踏襲している。
なのでその安全装置として、日々のミッションをクリアする事で無理なくチャクラを開く指標を示してくれる『ポップアップ』が俺の第二の能力である。
例えば、今朝方にも出現した『腕立て、腹筋、スクワットを千回ずつ実施せよ』というのが、それだ。1日1回発生するこれを、規定回数達成すれば次のチャクラが開くという親切仕様となっている。
しかしなぁ……このチャクラを開くためのミッション回数が途方もない数で『ムーラダーラ』を開くには100回で済んだが、次の丹田のチャクラである『スワディシュタナ』を開くには10,000回のミッション達成が必要となる。
毎日、結構な労力のミッションを繰り返しておっさんと呼ばれる年になってようやく発現できる能力なんて苦行でしかない。現実はゲームのようには行かないという、見本を教えられている気分だ。
ただ、昨日のような魔獣を相手するだけなら今『ムーラダーラ』のままで十分というか……性欲が爆発しそうで今の状態でも困っていると言うか……有り余る精力を毎日のミッションで消化したり、魔獣退治で発散したりしているているというのが現状だったりする。
治安部が性的事件を起こすなんて事になったら洒落にならない。その前に何らかの対策を考えなければならないと思うんだが……恥を忍んで東堂教官に相談するしかないかもだ。
――さて、俺の能力の概要について分かって貰えただろうか?
現状、治安部の責務を果たすのに十分な力があるため、困る事はない。問題はこの体では恋人は出来ないだろうなぁ、という思春期の青少年にとって切実な懊悩が転がっているだけである。
だって爆発したくねーもん。
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「お早う、新田さん」
「あら、お早う。珍しいわね、進堂君がこんな遅い時間に来るなんて」
「ああ、ゴメン……ちょっと寮の後輩の面倒を見てたらこんな時間になっちやったんだ。準備は……してくれたようだね。代わりに今日の号令は俺がするよ」
「あら、そう? そうしてくれると助かるけど……」
教室に入ると既に花の水やりや、ホワイトボードの清掃、それにマーカーの補充作業は終わっているようだった。他の学生もちらほらと姿が見えるし、やはり寮を出るのが遅かったようだ。
ぺこりと頭を下げる俺に、しょうがないわよ治安部は色々とあるもんねと、笑って許してくれる新田さんは天使だと思う。
事実、彼女は三つ編みのおさげに眼鏡をかけた、まごうことなき委員長姿を体現した天使様である。あと、小柄なのに、何気に胸がとても大きい。
ああ駄目だ……彼女を性的な目で見てしまうなんて紳士協定に反する。事実、教室に居る複数の男子共からは刺々しい視線を感じている。
俺は新田さんとの会話を切り上げて自分の席に着いた。今日は筋トレ系のミッションがあるから魔獣が学園敷地内に入って来なければいいのにな、という都合のよい事を願いながら、教室の窓から青空を眺めた。